見ないようにしてたもの⑭
そんなことを話しているうちに、私たちは目的のテントへ到着した。
ようやく戻ってこられた。
今日は本当に長い一日だったなぁ。
私は入口をくぐると、皆に向かって声を掛けた。
「ただいま~。」
「あ、アイラちゃん。おかえりなさい。」
真っ先に返事をしてくれたのはセリーちゃんだった。
テントの中では、皆がそれぞれ寝る準備を進めていた。
私も早く着替えて休もう。
私は汚れや皺が付かないように気を付けながら、ゆっくりと服を脱いだ。
それから一枚ずつ形を整えて、丁寧に畳んでいく。
ドライアドも張り切って選んでくれたお気に入りの服だ。
できるだけ綺麗な状態にしておきたい。
畳み終えた服を片付けると、今度は睡眠用の薄着を上から羽織った。
うん、これで良し。
髪も綺麗にしてもらったし、体もさっぱりしている。
あとはベッドに入って眠るだけだ。
長かった一日がようやく終わる。
そう思って顔を上げると、何だか皆の様子がおかしいことに気が付いた。
セリーちゃんたちが妙にそわそわしている。
私と目が合うと慌てて視線を逸らしたり、隣の人と顔を見合わせたりしているんだけど。
何かあったのかな。
「どうしたの?」
私が尋ねると、セリーちゃんがびくっと肩を揺らした。
「あ、えっと、その。」
「うん?」
セリーちゃんは何かを言い掛けては口を閉じている。
他の皆も何故かその様子を見守っていた。
どうやら私に何か聞きたいことがあるらしい。
だけど、誰もなかなか口を開かない。
そんなに言いにくいことなのかな?
私は少し焦れてきて、もう一度尋ねた。
「も~、なぁに?」
すると、今度はピュアさんが口を開いた。
「あ、えっと、その~……。」
会話が全然進まない。
何だか皆で顔を見合わせているけど、どうしてそんなに遠慮しているんだろう。
私が首を傾げていると、それまで黙っていたリリーナさんが、すっと顔を上げた。
「夕食後、クレスさんと何を話したのか気になっているようです。」
「えっ!?」
「ちょっ!?」
思わず大きな声が出てしまった。
しかも私だけじゃない。
セリーちゃんたちまで驚いている。
どうやらリリーナさんが、何の前触れもなく本題を切り出したことに驚いたらしい。
皆は慌てた様子で顔を寄せ合うと、小声で何やら相談を始めていた。
いやいや、ちょっと待って。
そういうことだったの?
さっきから妙にそわそわしていたのは、クレスとの会話が気になっていたからなんだ。
そりゃあ、気になるよね。
夕食後にクレスから呼び出されて、二人だけでどこかへ行ってしまったんだから。
しかもクレスが私を呼びに来たときは、騎士団の人たちまで何だか楽しそうにしていた。
あの様子を見ていれば何か特別な話があるんじゃないかと考えるのも無理はない。
……どうしよう。
まさか、聞かれるとは思っていなかった。
私が返事に困っていると、リリーナさんが皆に向かって静かに言った。
「そういう態度が昨日みたいなことに発展するんです。キッパリ聞いたほうが良いですよ。」
その言葉を聞いて、私は少しだけ納得した。
ああ、なるほど。
昨日のことを気にしているんだね。
確かに、聞きたいことがあるのに遠慮して、何も言わずに様子を窺っているだけでは、お互いに余計なことを考えてしまうかもしれない。
だったら、最初から素直に聞いた方が良い。
そういうことなんだろう。
私としても、何か言いたそうにされ続けるより、はっきり尋ねてもらった方がずっと気が楽だ。
答えられるかどうかは別だけどね。
「リリーナさん、ありがとう。でも人の話を私が勝手に話すのは憚られるから、クレスに聞いてもらえるかな。」
私はできるだけ穏やかな声で答えた。
もちろんクレスから告白されたことを他の人に知られるのは恥ずかしい。
いや、ちょっとどころじゃない。かなり抵抗がある。
だけど、それ以上に、これはクレスの気持ちに関わる話だ。
本人が私に伝えてくれた大切な言葉を、私の判断だけで皆に話して良いとは思えない。
少なくとも、クレスが誰かに話しても構わないと言うまでは、私から詳しい内容を話すつもりはなかった。
そう考えて皆の顔を見ると、何だか随分と嬉しそうにしている。
特にピュアさんとティナさんなんて、両手を合わせてキャッキャと盛り上がっていた。
セリーちゃんも、さっきまでの緊張した様子が嘘みたいに頬を緩めている。
まだ何も話していないんだけど、思春期の子たちにはその情報だけで充分だったようだ。
私は思わず額に手を当てた。
少しだけ顔が熱い。
この話はもう少し上手い言い方があったかもしれない。
だけど、今更訂正したところで余計に怪しまれるだけだろう。
それに嘘を吐くつもりもないしね。
だったら、ここはさっさと話を終わらせるに限る。
「それじゃあ私は疲れてるので寝ま~す。お休みなさい。」
私は皆に向かって軽く手を振ると、そそくさと自分の寝床へ向かった。
こういうときは逃げるが勝ちだ。
何か聞かれる前に眠ってしまえば、それ以上追及されることもないだろう。
これは完璧な作戦だと思っていたんだけど。
「こら~!」
「魔力くれる約束!」
「……あっ。」
しまった。すっかり忘れてた。
振り返ると、ドライアドが頬を膨らませ、シルフが腰に手を当てて私を睨んでいた。
そうだった。二人には、寝る前に魔力をあげる約束をしていたんだった。
大事件に上書きされて、つい忘れてしまっていたよ。
私は寝床へ向かい掛けていた足を止めると、二人に向き直った。
「ごめんごめん。ちゃんと覚えてるよ。」
「絶対に忘れてたでしょ。」
「忘れてた顔。」
「うっ……。」
鋭い。
私は苦笑いを浮かべながら、差し出された二人の手を見つめた。
……はぁ。今日は最後まで、ゆっくり眠らせてもらえそうにないね。




