見ないようにしてたもの⑬
シルフとドライアドを連れて皆が待っているテントへと戻る。
連合軍の野営地には、まだ多くの人が行き交っていた。
明日の進軍に備えて装備を点検している兵士もいれば、仲間と談笑している人たちもいる。
こんな状況でも、少しは休息を取れているみたいだ。
私たちは邪魔にならないように道の端を歩く。
すると、少し離れた場所に見覚えのある金髪が見えた。
あれ? そう思って顔を向けると、パチッと目が合った。
……クレス? 何でこんなところにいるの?
さっき先に戻るって言ってなかった?
しかも、ここには特に何もない。
人通りのある道から少し外れた場所で、何か作業をしている様子もなかった。
もしかして誰かを待っているのかな。
それとも、私たちと同じように散歩でもしていたんだろうか。
色々な疑問が頭に浮かんだけど、クレスは特にこちらへ近付いてくることもなかった。
ただ私と目が合うと、安心したように微笑んで軽く手を振った。
私も反射的に手を振り返す。
するとクレスは満足したのか、そのまま背を向けて歩いていってしまった。
……えっ? 何だったんだろう。
私は彼の後ろ姿を見送りながら首を傾げた。
「何だったの、あれ。」
独り言のつもりで呟くと、隣を歩いていたシルフが呆れたように口を開いた。
「あれは勢いよく先に戻ったは良いけど、おめかししてるアイラを一人残して置いてきたのが心配すぎて様子を見に来た金髪よ。」
「……えぇ?」
わぁ、全部喋るじゃん。しかも妙に具体的。
さっきは随分と格好付けて去っていったのに、私が無事に戻ってくるか心配になって様子を見に来たってこと?
それなら最初から一緒に帰れば良かったのに。
……ああ、でもクレスは私に一人で考える時間をくれたんだっけ。
だから、わざわざ先に戻ったのかもしれない。
それなのに結局心配になって見に来ちゃったと。
何だか、さっきまでの堂々とした姿との落差が凄いね。
「気持ちは分かる。アイラのこと変な目で見る人多いから。」
今度はドライアドが何でもないことのように言った。
「そんなにかなぁ?」
私は思わず聞き返した。
確かに、今日の晩御飯では随分と視線を集めていた気がする。
だけど、それは私だけじゃない。
セリーちゃんたちも綺麗に身支度を整えていたし、普段とは違う雰囲気だったから目立っていただけじゃないかな。
そう思っていたんだけど。
「はぁ……。」
シルフが大きくため息をついた。
何だか随分と呆れられている気がする。
彼女は腰に片手を当てると、ジトッとした目で私を見つめてきた。
「アイラは前世の記憶があるからって同世代の子の好意を弄びすぎよ。」
「弄びすぎって、そんなつもりはないよ。」
いくら何でも人聞きが悪い。
私は誰かの好意を利用したり、わざと期待させたりしているつもりなんてない。
むしろ、そういうことにはできるだけ関わらないようにしてきたつもりだ。
だって相手は私と同世代の男の子たちだよ?
前世の記憶がある私からすれば、どうしても子供に見えてしまうんだから。
「でもモテてる自覚はあるでしょ?」
ドライアドが私の顔を覗き込んできた。
「それは……。」
私は思わず言葉に詰まった。
……あるけど。
もちろん、全く気付いていないわけじゃない。
特にサジタリウスにいた頃は、同世代の男の子たちから随分と熱心に声を掛けられていた。
何かと理由を付けて話し掛けてくる子もいれば、さりげなく自分の得意なことを見せてくる子もいた。
中には、わざと意地悪をして私の気を引こうとする子までいたくらいだ。
反応は本当に様々だったけど、こちらに興味を持ってくれていることくらい、あれだけ分かりやすく態度に出されれば分かる。
それでも私としては普通に接しているつもりだった。
相手が男の子だからといって、特別な態度を取る理由もない。
だから、好意を向けられても気付かないふりをしていたことはある。
……うん。そう考えると、シルフが言っていることも全くの的外れではないのかもしれない。
そもそも、今の私は見た目だけなら随分と恵まれている。
小さい頃から可愛いと言われることは多かったけど、成長するにつれて綺麗だと言ってもらえる機会も増えた。
自分で言うのも何だけど、『アイラ』は随分と綺麗に育ったんだろう。
こちらが意図しなくても、異性の目を引いてしまうくらいには。
……中身はこんなのなのにね。
前世ではいい歳をした独身男性だった私が、今では同世代の男の子たちから好意を向けられている。
人生って本当に何が起こるか分からないものだ。
「まぁ、サジタリウスのジャリたちや、ここの下品な目で見てる連中には絶対に譲らないけどね。」
シルフはそう言うと、ふんっと鼻を鳴らした。
その姿は、まるで私を守る騎士のようだった。
……いやいや。さっきまでクレスとの仲を取り持とうとしていたのに、今度は随分と厳しいんだね。
自分が認めた相手以外には近付けさせないつもりなのかな。
すっかり厄介なナイト気取りだ。
しかも本人は至って真剣らしい。
その様子が何だかおかしくて、私は思わず笑ってしまった。
「ふふっ。」
「何よ。」
「ううん、何でもない。」
私は笑いを堪えながら首を振った。
シルフは不満そうにしていたけど、それ以上は追及してこなかった。
そんな私たちの横で、ドライアドがぽつりと呟いた。
「これでサラマンダーが来たら大変。」
「えっ?」
突然出てきた名前に、私は思わず足を止めた。
サラマンダー?
どうして今、その名前が出てくるんだろう。
「そこでどうしてサラマンダーが出てくるの?」
訳が分からず尋ねると、ドライアドは当たり前のことのように答えた。
「サラマンダーはアイラ過激派。あと男性があまり好きじゃない。」
「へぇ~。」
……ん? ちょっと待って。
今、知らない情報が二つも飛び出してきたんだけど。
まずサラマンダーが私の過激派ってどういうこと?
サラマンダーとはシルフやドライアドほど長い時間を一緒に過ごしてきたわけじゃない。
それなのに、そんなに私のことを気に入ってくれているんだ。
何だか嬉しいね。
ただ、過激派という言い方が少し気になる。
シルフが今みたいな態度を取っているだけでも十分に大変そうなのに、サラマンダーまで加わったらどうなってしまうんだろう。
しかも男性があまり好きじゃないらしい。
何か理由があるのかな。
昔、男性と何かあったのかもしれないし、単に性格的なものなのかもしれない。
今度会ったときに、聞いてみようかな。
もっとも、本人が話したがらないなら無理に聞くつもりはないけど。




