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アイラが見る夢②

「まだ動いてはダメですよ。」

起き上がろうとした私を、ハイプリースト様がそっと抱き上げた。

突然体が浮き上がって驚いたけど、今の私の体は驚くほど軽い。

大人の女性に抱き上げられても、すっぽりと腕の中に収まってしまった。


「このままお家まで送りましょうね。」

「ありがとうございます。」

ついさっき思い出した記憶では四十を過ぎたおじさんだったのに、今は若い女性に抱っこされていると思うとかなり照れ臭い。

けれど、そこで忘れてはならない重要な事実を思い出した。

そうだ。今の私は五歳の少女だった。


おじさんだった頃の記憶が一気に流れ込んできたせいで頭の中がぐちゃぐちゃになっているけど、一度落ち着いて整理してみよう。

――私の名前は『アイラ』。

『ゾディアック王国』の町『サジタリウス』で生まれた五歳の女の子。

白銀の髪に赤い瞳。町でも評判の美人ママに瓜二つと言われる顔立ちだ。

……うん、この時点で勝ち組では?


冷静に記憶を整理していくと、とんでもない美少女に生まれ変わっていることが分かった。

そして前世の私は可愛いものが大好きだった。

ゲームを遊ぶ時は必ず女性キャラクターを選んでいたし、キャラクタークリエイトができるゲームなら可能な限り可愛い見た目に仕上げていた。

当然、衣装にも強いこだわりがあった。


手元の予算が許す限り可愛い衣装を揃えて、自分のキャラクターに着せ替えては満足していたものだ。

日替わりで衣装を変えて、可愛い系、美人系、小悪魔系、ちょっと過激な衣装など、無数の組み合わせを楽しんでいた。

そんな私が、まさか美少女になって生まれ変わってしまうなんてご褒美では?

……いや、過労死したことは断じて良くないけど、それとこれとは別問題だ。


ふと顔を上げると私を抱いて歩いていたハイプリースト様と目が合った。

「ふふ。どうしました?」

女神のように優しい笑顔が私へ向けられて何だか安心してしまう五歳児。

その笑顔があまりにも優しかったので、つられて私も笑い返してみた。


しばらく見つめ合っていたけど、だんだん恥ずかしくなり先に耐えられなくなった私は、そっと視線を逸らした。

今回のにらめっこは私の負けだ。

とても気まずかったので、視線を下へ落とすと、今度はハイプリースト様の衣装が目に入った。

――何度見ても知っている服。


見間違えるはずがない。

その服はネームレスオンラインに登場するハイプリーストそのものの装いだった。

さっき頭の中へ流れ込んできた知識だけじゃない。

服の形も装飾も、私が何度も見てきたものと一致している。

――まさか、本当にネームレスオンラインの世界へ転生するなんて……。


死ぬ間際に「異世界転生できたら」なんて考えた気はする。

それもネームレスオンラインの世界で自由に生きられたら、と。

でも、そんなものは死を意識した時に走馬燈が見せた幻影でしかない。

それが本当に現実になるなんて思わなかった。


これから私はどうしたらいい?

知識の中にあるこの世界は剣と魔法、そして奇跡が存在するファンタジー世界。

ゲームで知った知識がどこまで通用するのか。

今の私はゲームのキャラクターなのか。

それとも、この世界で普通に生まれた人間なのか。

そして、この世界は――。


「着きましたよ。」

「えっ?」

考えがまとまらないうちに、ハイプリースト様が立ち止まった。

顔を上げて周囲を見渡すと見慣れた道に見慣れた家々。

気が付けば、いつの間にか私の家のすぐ近くまで来ていた。


頭の中の情報整理に夢中になりすぎて、ここまできた道のりをほとんど覚えていない。

これは後から聞いた話だけれど、私は事故のショックであまり喋れなくなっているように見えたらしい。

実際には四十年以上の前世と五年間の今世、そして可愛くなった自分のことを必死になって整理していただけなのが心苦しい。

……ご心配をお掛けしてしまい、大変申し訳ございません。

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