アイラが見る夢①
◇
ゴンッ!と大きな音が森に響いた。
すごく頭が痛い。温かいものが頭の上から流れていて目の前が赤くなる。
それが何か確かめようとして手を動かそうとしたけど体はピクリとも動かなかった。
「崖から女の子が落ちた!」
「頭を岩に強く打ってる!」
「誰かプリーストを、早く!!」
――女の子?誰のことだ?『私』は女の子では……。
突然脳に電気が走ったような知識の奔流。
『ネームレスオンライン』、『運営』、『仕様書』 etc
――しらない、ことば?
ううん、しってる。そうだ――。
ネームレスオンラインの運営だったおじさんの記憶が急激に流れ込んでくる。
割れるような頭痛。吐き気。世界がぐるぐる回る。
何が自分の記憶で、何が誰かの記憶なのか分からない。
「この子、息をしてないぞ!」
「急いで!!」
その声を最後に私の視界は闇に沈んだ。
◇
闇の先に光が見えた。
私はそちらへ向かって、懸命に足を動かす。
けれど、どうにも進みが悪い。視界も妙に低く感じる。
重心までおかしく、頭が重い。気をつけて歩かなければ、今にも転んでしまいそうだ。
そんな不安定な体でゆっくりと進んでいくと、光に近づくにつれて周囲が暖かくなってきた。
目の前まで迫った光へ、そっと手を伸ばす――。
その瞬間、あれほど眩しかった光が消えた。
目の前に広がっていたのは森だった。
穏やかな木漏れ日がところどころに差し込み、風に揺られた木々がさわさわと音を立てている。
「気が付きましたか?」
ふと、頭上から優しい声が聞こえた。
そちらへ視線を向けると、綺麗な黒髪のハイプリースト様が私の顔を覗き込んでいた。
「ハイプリースト様……?」
その呼び名を、どこかで聞いたことがあるような……。
今の言葉は自分自身への疑問だったのだが、ハイプリースト様は質問だと受け取ったらしい。
「ええ。私はハイプリーストです。貴女は崖から落ちて頭を打ったのですが、覚えていますか?」
そうだった。
私はぬかるんだ苔に足を滑らせ、そのまま崖から落ちて……。
岩に強く頭を打って、それで――。
――前世の記憶を思い出した。
ドクン、と胸が大きく跳ねる。
『ハイプリースト』。
女神ガイアを信仰するガイア教の信徒にして、奇跡と呼ばれるスキルを行使する者たち。
『リジェネレーション』、『キュア』、『リザレクション』。
数々の回復・支援スキルを駆使して戦う、その道のエキスパート。
何度も目にし、何度も扱ってきた知識だ。
間違いない。私は生まれ変わったのだ。
そして、この世界を前世から知っていた。




