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見ないようにしてたもの③

「それで、洞窟の中はどうだったの?」

セリーちゃんが興味津々といった様子で尋ねてきた。

私は今日あった出来事を順番に話していく。

デーモンケイブの内部が複雑な迷路になっていたこと。


壁や地面から魔物が現れ何度も戦闘になったこと。

そして最後にクレスそっくりのドッペルゲンガーが現れたこと。

「ええっ、クレスさんと同じ姿の魔物!?」

「そうなの。しかも凄く強くて、みんなで協力してもなかなか倒せなかったんだよ。」


私が説明すると、セリーちゃん達は何度も驚きの声を上げた。

「そんな魔物がいるんだ……。」

「怖かったでしょう?」

「うん、本当に怖かったよ。」


それは嘘じゃない。

あの時は本気で死ぬかもしれないと思ったんだから。

もちろん、レーヴァテインを使ったことやGM権限のことは話せない。

だから最後は溜めていた魔力を使って大魔法を放ち、何とか倒したという説明にしておいた。


クレスたちに話した説明と同じ内容なので祖語はない。

「凄い! アイラちゃんが倒したんだ!」

「みんなが助けてくれたから。私一人じゃ絶対に無理だったよ。」

これは本心だった。


クレスが時間を稼いでくれなかったら、魔法を準備することさえできなかったと思う。

シルフとドライアドも何度も私を守ってくれた。

だから、私だけが褒められるのは違う。

それでもセリーちゃん達は嬉しそうに話を聞いてくれるので、私はついつい夢中になってしまった。


そんなふうにお喋りを続けていると、いつの間にかドライアドが大きな桶を運んできた。

中には水がたっぷりと入っている。

「アイラ、これ温かくして。」

「えっ?」


私は桶を覗き込んだ。

どうやら、どこかから水を汲んできたらしい。

「これを?」

「うん。」


「よく分からないけど分かった。」

何に使うのかは分からないけど、頼まれたなら仕方がない。

私は水に手をかざし、魔法でゆっくりと温めていった。

冷たかった水が少しずつ温まり、やがて湯気が立ち始める。


熱くなりすぎないように気を付けながら、手を入れても大丈夫なくらいの温度に調整した。

「これくらいで良い?」

「うん、ありがと。」

ドライアドが満足そうに頷く。


すると、それを見ていたセリーちゃん達も何かに気付いたようだった。

「あっ、私達も水を汲んでくるね。」

「えっ、どうして?」

私が尋ねるより早く、何人かが桶を持ってテントの外へ出ていった。


どうやら私だけが何も分かっていないらしい。

シルフとドライアドは相変わらず忙しそうに動いているし、セリーちゃん達まで手伝い始めている。

一体、何をするつもりなんだろう。

私は不思議に思いながら、その様子を眺めていた。


すると、シルフが大きな布を手にして近付いてきた。

「アイラ、服を脱ぎなさい。」

「えっ?」

突然の言葉に、私は思わず聞き返した。


「服?」

「そうよ。早く。」

シルフは当然のように頷いている。

その手には、体を包めそうなほど大きな布があった。


ああ、なるほど。

もしかして体を拭いてくれるつもりなのかな。

確かに今日は随分と汗をかいたし、洞窟の中で砂埃もたくさん浴びた。

服にも髪にも細かな汚れが付いているはずだ。


そう考えると、体を綺麗にしたいという気持ちはよく分かる。

私は言われるがままに上着を脱ぎ、続いて残りの服も外していった。

するとシルフがさらに言った。

「下着も脱いで。」


「えっ、そこまで?」

思わず周囲を見回す。

ここは私達のテントの中だから、外から直接見られる心配はない。

だけど駐屯地には知らない人達が大勢いる。


すぐ近くを兵士が歩いていることだってあるだろうし、何かの拍子に入口が開いたらと思うと少し落ち着かない。

私はまだ少し抵抗を感じながらも、結局シルフの言う通りに下着まで脱いだ。

すると、シルフが私の後ろへ回った。

「まずは髪からね。」


そう言って、私の髪にそっと触れる。

普段はハーフアップにしている髪だけど、今日の戦闘ですっかり砂埃を被ってしまっていた。

シルフは髪を留めていたものを外し、絡まないように少しずつ解いていく。

「うわぁ、結構汚れてるわね。」


「そうだよね。洞窟の中で何度も土煙を浴びたから。」

特に最後の戦いでは、ドライアドとシルフが大量の土煙を巻き上げてくれた。

あれのおかげで助かったんだから文句はないけど、髪が汚れてしまうのは仕方がない。

シルフは指先で丁寧に髪を梳き、砂埃を払い落としていった。


そして髪が綺麗に解けたことを確認すると、温めたお湯を使って少しずつ流し始めた。

「あっ、気持ち良い……。」

思わず声が漏れた。

温かいお湯が頭皮を伝い、髪の間に残っていた細かな汚れを洗い流していく。


一日中戦っていたせいで体が強張っていたのか、ただお湯を掛けてもらうだけでも随分と心地良かった。

この世界には、前世で使っていたような便利なドライシャンプーはない。

だから基本的には、お湯で汚れを流して丁寧に髪を整えることになる。

シルフは何度もお湯を掛けながら髪に残った砂や埃を落としてくれた。


それからブラシでゆっくりと梳き、絡まった部分を解いていく。

「痛くない?」

「うん、大丈夫。気持ちいいよ。」

「なら良かったわ。」


シルフは少し嬉しそうに答え、また丁寧にブラシを動かし始めた。

普段は元気いっぱいで少し強引なところもあるけど、こういう時のシルフは驚くほど優しい。

髪を引っ張らないように気を付けながら少しずつ綺麗にしてくれる。

ドライアドも隣でお湯を用意したり、使い終わった水を片付けたりしていた。


二人とも、本当に私のために頑張ってくれているんだね。

私は目を閉じて、その心地良さに身を任せた。

しばらくするとテントの入口から声が聞こえてきた。

「ただいま。」


セリーちゃん達が戻ってきたらしい。

私は反射的に顔を向けた。

「あっ。」

セリーちゃんも、こちらを見て一瞬だけ足を止めた。


そして、すぐに申し訳なさそうな顔になる。

「あ、ごめんね。」

「ううん、こっちこそごめんね。」

私が慌てて答えると、セリーちゃんは外から見えないように入口の布を寄せながら中へ入ってきた。


他の子達も同じように気を遣ってくれている。

ありがたいけど何だか少し恥ずかしい。

とはいえ、もう髪を洗ってもらっている途中だし、今さら服を着るわけにもいかない。

今は大人しくしておこう。


セリーちゃんは持ってきた荷物の中から、小さな魔道具を取り出す。

「これを使って、一つずつ温めていってね。」

そう言いながらピュアさんが持っている桶の中へ魔道具を入れる。

すると、驚くほどの速さで水が温まり始めた。


「あっ、湯気が出てきた!」

「本当だ。もう温かい!」

周囲から嬉しそうな声が上がる。

魔道具を入れた桶からは、みるみるうちに白い湯気が立ち上っていた。


なるほど、あれは水を温めるための魔道具なんだね。

私が魔法で温めなくても、あれを使えば簡単にお湯を用意できるらしい。

セリーちゃんは魔道具を取り出すと、今度は別の桶へ移していった。

それを見て、他の子達も次々と準備を始める。


「こっちもお願い!」

「次は私のね!」

「わぁ、温かい!」

みんな楽しそうだね。


桶を囲んでキャッキャとはしゃいでいる姿を見ていると、何だかこちらまで嬉しくなってくる。

もっとも、私はその輪に加わることができなかった。

「アイラ、動かないで。」

「あっ、はい。」


シルフに注意され、私は慌てて前を向く。

変に動いたら、せっかく丁寧に整えてくれている髪が絡まってしまうかもしれない。

私は大人しく座り直し、シルフにされるがまま髪を洗ってもらうことにした。

温かいお湯が流れるたびに、戦いの疲れが少しずつ抜けていくような気がする。


さっきまでドッペルゲンガーと命懸けで戦っていたのに今はこうして家族や友達に囲まれている。

その落差が、何だか不思議だった。

でも、悪くないね。

私は小さく微笑みながら、シルフが丁寧に髪を梳いてくれる感触に身を任せていた。

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