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見ないようにしてたもの②

駐屯地へ戻ると、私達を待っていたのは温かい食事でも休息でもなく、デーモンケイブ攻略を祝う表彰式だった。

「えっ、今からですか?」

思わず聞き返してしまったけど、どうやら本当に今から行うらしい。

せっかく帰ってきたんだから、まずはゆっくり休ませてほしかったんだけどなぁ。


とはいえ、ここで文句を言ったところで何かが変わるわけでもない。

私達は言われるがままに、駐屯地の中央に設けられた広場へと向かった。

表彰式といっても立派な会場が用意されているわけじゃなかった。

少し高くなった場所に私達が並び、その前に集まった兵士達へ偉い人達が話をするだけの簡単なものだ。


何だか学校の朝礼を思い出すね。

しかし、こういう時の偉い人の話って、どうしてあんなに長いんだろう。

今回も例外ではなかった。

「この度のデーモンケイブ攻略は、魔王討伐へ向けた大いなる前進であり……。」


壇上に立った貴族らしき男性が、随分と誇らしげに演説を始めた。

最初のうちは真面目に聞いていたけど、無駄話を繰り返しているようにしか感じられない。

王国の栄誉がどうとか、勇敢な騎士達の働きがどうとか。

もちろん、私達の頑張りを評価してくれること自体は嬉しい。


だけど実際に戦っていた人達の苦労をどこまで理解しているのかは少し疑問だった。

クレスが腕を失うほどの激戦だったことなんて、きっと想像もできないだろう。

私は表情に出さないように気を付けながら、静かに話を聞き続けた。

それにしても凄い人数だね。


少し高い場所に立たされているおかげで普段なら見えない後方までよく見渡せる。

目の前には各国の兵士達が整然と並び、その列は広場の奥まで続いていた。

鎧の形や色、身に着けている紋章も国によって違っている。

同じ目的のために集まった連合軍とはいえ、こうして一度に眺めると随分と大きな部隊なんだと実感する。


こんなにたくさんの人達が今回の作戦に参加していたんだね。

デーモンケイブの中では自分達が戦うことだけで精一杯だったため、これほど大勢の人達が後ろに控えていたことを今になって改めて意識させられる。

私は少し感心しながら集まった兵士達を眺めていた。

すると、ふと各国の将校達がいる一角に目が留まった。


三つの国の代表者達が、それぞれ少し離れた場所に集まっている。

その反応は見事なまでに三国三様だった。

まず私達の所属するゾディアック王国。

こちらは随分と機嫌が良さそうだった。


将校達は胸を張り、隣にいる貴族と何かを話しながら誇らしげな笑みを浮かべている。

だけど、その笑顔は素直に喜んでいるというより、他国に対して優越感を抱いているように見えた。

うわぁ、何だか嫌な笑い方。

クレスがさっき言っていたことを思い出す。


王国の大臣達は、自国の戦力が洞窟を攻略したことを大層喜んでいるらしい。

なるほど、ああいう顔を見れば納得できる。

次に目を向けたのは神政国家ストレリチアの将校達だった。

こちらは王国とは対照的に、ほとんど興味がなさそうだった。


壇上で話している貴族にも表彰されている私達にも、特に関心を示していないように見える。

ただ静かにこちらを眺めているだけ。

少なくともデーモンケイブの攻略を喜んでいるようには見えなかった。

そして、最後にシン共和国。


こちらはもっと分かりやすかった。

将校達は冷たい目で私達を見つめながら、隣同士で何やらこそこそと話している。

時折こちらへ視線を向けては、また顔を寄せ合って何かを囁いていた。

何を話しているのかは分からない。


だけど、あまり好意的な内容ではなさそうだ。

私は三国の将校達を見比べながら、小さく息を吐いた。

本当に、先が思いやられるね。

私達は別に、こんな人達を喜ばせるために戦っているわけじゃない。


レイディアントを倒さなければ、世界そのものが危険に晒されるかもしれないから戦っている。

それなのに、各国の偉い人達は自分達の立場や利益のことばかり気にしているように見える。

これからもっと厳しい戦いが待っているかもしれないのに、こんな調子で大丈夫なんだろうか。

私は少しだけ肩を落とした。


「こほん。」

すぐ隣から、小さな咳払いが聞こえた。

見ると、クレスがこちらへ視線を向けていた。

あっ、いけない。


今は表彰式の最中だった。

しかも私達は全員から見える高い場所に立っている。

そんなところで露骨に肩を落としていたら、周囲の人達にどう思われるか分からない。

私は慌てて背筋を伸ばした。


両足を揃え、きゅっと姿勢を正す。

クレスはそれを確認すると、何事もなかったように前へ向き直った。

危なかった。

これ以上余計なことを考えるのはやめよう。


私は遠くの景色へ視線を向け、できるだけ頭を空っぽにすることにした。

偉い人の話を聞きながら何も考えない。

前世でも随分と慣れ親しんだ技術だ。

こういう時には役に立つね。


そうしているうちに、ようやく長い話が終わった。

最後にもう一度大きな拍手が起こり、表彰式は終了となった。

ふぅ、やっと終わった。

これで今度こそ休めるかな。


そう思ったところで、さらに厄介な話を聞かされることになった。

何でも、今回の功績に対する正式な叙勲はレイディアントを討伐した後に行われるらしい。

もちろん私もその対象に含まれているそうだ。

いやいや、私はそんなものを望んでいないんだけど。


目立つことは避けたいし、偉い人達の前で何かを授与されるなんて絶対に嫌だ。

だから丁重にお断りしておいた。

だけど、どうにも簡単には済みそうにない。

王国としても、今回の功績を大々的に称えたい事情があるらしい。


「私だけの出席で良いか上に掛け合ってみよう。しかし期待はしないでくれ。」

そんな私の様子を見て、クレスが声を掛けてくれた。

「ありがとうございます。助かります。」

私は素直に頭を下げた。


クレスだって、上の人達とのやり取りで苦労しているはずなのに。

それでも私が嫌がっていることを察して、こんな提案までしてくれるなんて本当に優しい人だ。

ただ、クレスの言う通り、あまり期待はしない方が良いのかもしれない。

王国が正式に決めた行事なら、クレスにも断り切れないことはあるだろう。


最悪の場合は、レイディアントを討伐した後にしばらく身を隠しておこうかな。

正式な招待状を受け取らなければ、出席しなくても文句を言われる筋合いはないはずだ。

何だか逃げ回ることを前提に考えている気もするけど、今は気にしないでおこう。

ともかく、今日の予定はこれで全部終わりらしい。


デーモンケイブの攻略は完了したけど、その先にあるデーモンフォレストの探索は明日からになる。

今はまだお昼を少し過ぎたくらい。

次の探索が始まるのは、おそらく十七時間後くらいになるのかな。

そう考えると休める時間は意外と長くない。


夕食を食べて、しっかり眠る。

それだけでも、あっという間に時間が過ぎてしまいそうだった。

明日のためにも今のうちにできるだけ英気を養っておかないとね。

「それではアイラ、夕食後に先ほどの話をしに来る。」


クレスが私の方へ向き直って言った。

ああ、そうだった。

帰り道で、二人で話したいことがあるって言っていたんだっけ。

「はい、お待ちしています。」


私が答えると、クレスは安心したように微笑んだ。

そして騎士団の人達を連れて、自分達のテントへ戻っていった。

ただ、何故か騎士団の人達の様子がおかしい。

「隊長、頑張ってください!」


「今夜ですね!」

「お前達、余計なことを言うな。」

そんな声が聞こえてきた。

クレスは少し困ったようにしていたけど、騎士団の人達は妙に楽しそうだった。


何だろう。やけにテンションが高い気がする。

さっきの勝利がよほど嬉しかったのかな。

私は首を傾げながら、その背中を見送った。

「私達も戻ろう。」


そう言って、シルフとドライアドへ顔を向ける。

すると、二人は待っていましたと言わんばかりに近付いてきた。

「そんなことより急ぐわよ!」

「アイラ、はやくして。」


「はいはい。」

シルフとドライアドが左右から私の手を取る。

そのまま、ほとんど引っ張られるように歩き始めた。

「ちょっと、そんなに急がなくても大丈夫だよ。」


「駄目よ。時間がないんだから。」

「急ぐの~。」

もしかして早く魔力を貰いたいのかな。

さっきからずっと楽しみにしていたみたいだし、待ち切れなくなったのかもしれない。


そう考えると少し可愛らしく思えてきた。

私は二人に手を引かれながら、半ば強引にテントの中まで連れていかれた。

「ただいま~。」

中へ入ると、先に戻っていたセリーちゃん達がこちらへ顔を向けた。


「アイラちゃん、おかえり!」

「お疲れさま。」

温かい声を掛けてもらい、私はようやく帰ってきたことを実感した。

だけど、ゆっくり話す間もなく、シルフとドライアドが何やら動き始めた。


テントの中を行ったり来たりして、荷物を確認したり、布を取り出したりしている。

あれ? 魔力を貰うんじゃなかったの?

「何してるの?」

私は二人へ尋ねた。


だけど、シルフは振り返りもせずに答えた。

「アイラはセリーたちと喋ってて。」

「えっ、でも……。」

「良いから座ってて。」


ドライアドにも促され、私はそのままベッドへ座らされた。

何だか、妙に手際が良い。

二人とも普段はもっとのんびりしているのに、今日はやけに張り切っている。

私は何が始まるのか分からないまま、セリーちゃん達とお喋りをすることにした。

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