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逢魔が時⑥

「待って。前方に数人の気配があるわ。」

新しく現れた通路を進もうとしたところで、シルフが突然声を上げた。

その表情は真剣で、前方の暗闇をじっと見つめている。

「えっ、わかった。」


私はすぐに足を止め、周囲の様子を確認した。

さっきまでの仕掛けが解除されたことで、別の通路から来たモンスターが入り込んでいる可能性もある。

だけど、もし相手が人間だったら大変だ。

何しろ、今の私はレーヴァテインを握っているんだから。


せっかくここまで誰にも見られずに済んだのに、こんなところで目撃されるわけにはいかない。

私は急いで《Storage》と念じ、レーヴァテインをGM倉庫へと戻した。

その瞬間、体の内側から溢れていた力がすっと引いていく。

同時に、シルフとドライアドの力も元に戻ったようだった。


「八人の足音がした。」

ドライアドが前方に耳を澄ませながら教えてくれた。

八人なら、ちょうど一部隊分の人数だね。

今回の洞窟調査では、基本的に八人ずつの部隊に分かれて行動している。


つまり、前方にいるのは私達と同じ討伐隊の人達である可能性が高い。

もちろん、足音だけで人間だと断定することはできないけど。

私は二人に目配せすると、慎重に通路の奥へと進んでいった。

すると、少し先で洞窟の道幅が大きく広がっていることに気付いた。


今までの細い通路とは明らかに様子が違う。

どうやら、ようやく開けた場所へ出られるみたいだ。

私達が通路を抜けると、そこには想像以上に大きな空間が広がっていた。

そして、その一角には見覚えのある人影があった。


……あれ?

あの金髪の人って、もしかして。

「クレス!」

思わず声を掛けると、こちらを振り返った男性が驚いたように目を見開いた。


「アイラじゃないか!」

やっぱりクレスだった!

しかも、彼の周囲には騎士団の人達も揃っている。

どうやら、シルフとドライアドが感じ取った八人の正体は、クレスの部隊だったらしい。


ああ、良かった。

見知らぬ人だったらどうしようかと思っていたけど、知っている人達なら安心だね。

「クレス達もここまで来ていたんですね。」

「ああ。途中で妙な仕掛けに足止めされたが、何とか突破できたところだ。」


なるほど、クレス達もあの罠に引っ掛かっていたんだ。

ということは、私達と同じように、短時間でモンスターを倒さなければ先へ進めないことに気付いたんだろう。

「たった三人でここまで来るとは、さすがだな。」

クレスが感心したように微笑んだ。


「そんなことはないですよ。」

私は慌てて首を横に振った。

いやいや、むしろ凄いのはクレス達の方だと思う。

だって、私は前世の知識を使って仕掛けを突破しただけなんだから。


しかも、その知識を思い出すまでに一時間も掛かってしまった。

それに比べて、クレス達は何も知らない状態から仕掛けを解き明かしている。

八人で協力したとはいえ、普通に考えたらそちらの方がずっと難しいはずだ。

やっぱり、騎士団の精鋭って凄いんだね。


私は改めてクレス達の実力に感心してしまった。

すると、隣から少し呆れたような声が聞こえてきた。

「褒め合うのは後にしてもらえる?」

シルフだった。


彼女は腕を組みながら、私とクレスを交互に見つめている。

「ここは何?」

続いて、ドライアドも周囲を見回しながら尋ねてきた。

……あっ、そうだった。


知り合いに会えたことが嬉しくて、すっかり気が緩んでしまっていた。

だけど、ここはまだデーモンケイブの中なんだよね。

いつ、どこからモンスターが現れるか分からない危険な場所だ。

しかも、さっきまでの仕掛けを突破して辿り着いた場所なんだから、何もないと考える方がおかしい。


私は気持ちを切り替えると、改めてクレスに尋ねた。

「それで、ここがどういう場所なのかは分かっていますか?」

「いや、私達もまだ着いたばかりで何が何だか……。」

クレスは困ったように眉を寄せた。


どうやら、彼らもこの場所についてはまだ調べられていないらしい。

それなら、まずは周囲を確認してみよう。

私は『ライト』の明かりを広げて、広い空間をぐるりと見渡した。

そこは半円形になっていて、横幅だけでも二十メートル以上はありそうだった。


今まで歩いてきた細い通路とは違い、天井も高く、十分な広さがある。

これなら、ある程度は自由に動き回れそうだね。

だけど、気になるのは広さだけじゃなかった。

空間の外周には、土で作られた柱や像が規則正しく並んでいる。


柱はどれも似たような形をしていて、まるで何かを取り囲むように配置されていた。

その間に置かれた土像も、普通の洞窟には似つかわしくないものばかりだ。

自然にできたものではなく、明らかに誰かが意図して作ったものだろう。

それだけでも十分に不気味なんだけど、さらに目を引くものがあった。


空間の中央に置かれた、大きな祭壇だ。

その中心には、黒く濁った巨大なオーブが据えられている。

表面には光沢があるものの、内部はどこまでも暗く、何が入っているのか分からない。

何というか、見ているだけで嫌な気分になる代物。


周囲に並ぶ土の柱や像も相まって、まるで何かの儀式を行うための場所みたいだ。

……うわぁ、いかにもファンタジーのボスマップって感じ。

でも、これは単なる印象の話じゃない。

私はこの場所を知っている。


前世のネームレスオンラインでも、ここへ来たことがある。

細い通路を抜けた先に広がる大きな空間。

外周に並んだ土の柱と像。

そして、中央に置かれた黒いオーブ。


細かな部分に違いはあるかもしれないけど、全体の構造は記憶にあるものとよく似ている。

間違いない。

ここは、デーモンケイブの心臓部だ。

私は祭壇を見つめながら、ゲーム時代の記憶を思い返した。


確か、あのオーブを破壊すれば洞窟の攻略が完了したはずなんだよね。

つまり、目的の場所には辿り着けたということになる。

だけど、だからといって、すぐにオーブを壊せるわけじゃない。

何しろ、ここはボスマップなんだから。


「やはり怪しいのは、中央の祭壇と周りの土像でしょうか。」

騎士団の男性が、周囲を警戒しながら呟いた。

うん、その通りだと思う。

特に中央のオーブは、どう考えても普通の装飾品じゃない。


あれがこの洞窟の仕組みに深く関わっているのは間違いないはずだ。

そして、周囲に並んでいる土像も気になる。

あれだけ規則正しく配置されているんだから、何か意味があると考えた方が良いだろう。

私はもう一度、祭壇の方へ視線を向けた。


あのオーブを破壊すれば、確かにこの洞窟は攻略できる。

だけど、その前に。

「誰、ダ。ココ、ニ、侵入シテ、キタノハ。」

突然、聞き慣れない声が周囲に響き渡った。


「……っ!」

私は思わず身構えた。

それは、人間の声とは明らかに違っていた。

一つ一つの言葉を無理やり繋ぎ合わせているような、たどたどしい喋り方。


しかも、その声はどこまでも低く、重々しい響きを持っていた。

洞窟全体が震えているんじゃないかと思うほどの重低音が、周囲の空気を揺らしている。

ビリビリとした振動が肌に伝わり、体の奥まで響いてくるようだった。

ただ喋っているだけなのに、こんなに空気が震えるなんて。


私は声の主を探そうと周囲を見回した。

だけど、どこにも人影は見当たらない。

クレス達も同じように警戒を強めている。

「貴様こそ誰だ!」


クレスが鋭い声で問い返した。

その声には、先ほどまでの穏やかな雰囲気は微塵も残っていなかった。

騎士団の隊長として、得体の知れない相手を警戒しているんだろう。

すると、一人の女性騎士さんが中央の祭壇を指差した。


「あのオーブからです。」

私は慌てて視線を向けた。

黒く濁ったオーブは、先ほどと変わらず祭壇の中央に据えられている。

だけど、あの声がそこから聞こえてきたということは。


もしかして、あれが喋っているの?

ゲーム時代には見覚えのある場所だけど、今の状況が全て記憶通りとは限らない。

何しろ、ここはもうゲームの世界じゃないんだから。

私は祭壇から目を離さず、慎重に身構えた。


シルフとドライアドも、私の隣で警戒を強めている。

騎士団の人達もそれぞれの武器に手を掛け、いつでも動けるように構え始めた。

さっきまで再会を喜んでいた空気は、もうどこにもない。

広い洞窟の中に、張り詰めた緊張感が漂っている。

そして私は、中央の黒いオーブを見つめながら、これから何が起こるのかを考えていた。

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