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怪我の功名⑤

「お待たせしたわね!」

しばらくすると、シルフの元気な声が聞こえてきた。

どうやら、謎の作戦会議が終わったらしい。

時間にして三分ほどだったかな。


シルフとドライアドを先頭に、クレスや騎士団の人達がぞろぞろとこちらへ戻ってくる。

皆、さっきまでの困惑した様子とは違って、何となく落ち着いた表情をしているように見えた。

一体何を話していたんだろう。

気になったので、戻ってきた二人に尋ねてみることにした。


「何の話をしていたの?」

「アイラには教えられない。」

返事をしてくれたのはドライアドだった。

しかも、きっぱりと断られてしまった。


あらら、やっぱり駄目か。

興味本位で聞いてみたけど、教えてもらえないのは何となく予想していた。

そもそも、私に聞かせても良い話なら、わざわざ離れた場所へ移動する必要なんてないもんね。

「うーん、それなら聞かないよ。」


私は素直に引き下がることにした。

もちろん、気にならないわけじゃない。

むしろ、あんなに真剣な顔で話し合っていたんだから、何を相談していたのか知りたいくらいだ。

だけど、昨日の今日だし、私にも皆にも色々と思うところがあるんだろう。


私だって、昨日どうしてあんなに落ち込んでいたのかと詳しく尋ねられたら、あまり答えたくない。

まだ自分でも整理できていないことを、無理に説明するのは難しいからね。

そう考えると、お互い様なのかもしれない。

私が話したくないことを尊重してもらったんだから、皆が話したくないことだって尊重しなきゃ。


ここで無理に聞き出そうとしたら、結局は自分の首を絞めることになりそうだ。

うん、気になるけど我慢しよう。

そんなことを考えていると、騎士団の中から一人の男性が前へ進み出てきた。

他の騎士達と同じように訓練で汗を流しているけど、立ち姿にはどこか落ち着いた雰囲気がある。


周囲の人達よりも一際風格があるように見えるね。

「ですが、本当に申し訳ありませんでした。昨日の行動は、私達も騎士団として褒められたものではありませんでした。」

そう言って、男性は深々と頭を下げた。

すると、その後ろに並んでいた騎士団の人達も、一斉に頭を下げる。


うわぁ、また皆に謝られちゃった。

それにしても、この人は誰なんだろう。

そういえば、さっきの訓練でも一番元気だった人だよね。

他の人達が地面に倒れ込んでいる中でも、しっかり動いていたような気がする。


もしかして、かなり経験を積んだベテランの騎士なのかな。

それとも、クレスの補佐をしている副隊長とか?

うーん、ちょっと気になる。

……あっ、いけない。


こんなところで考え込んでいたら、また何か気に障ることがあったのかと思われちゃう。

せっかく皆が謝ってくれているんだから、ちゃんと返事をしないとね。

「いいえ、二十四時間騎士で居続けたら息が詰まってしまいますよ。昨日の態度自体は本当に気にしていませんから。でも、クレスの迷惑になるので今後は止めてもらえると嬉しいです。」

私はできるだけ穏やかな声でそう伝えた。


騎士団の人達だって、四六時中厳格な態度でいなきゃいけないわけじゃないだろう。

仲間同士で冗談を言い合ったり、楽しく食事をしたりする時間も必要だと思う。

昨日だって、皆が悪意を持って私達を揶揄っていたわけじゃないことは分かっている。

だから、そこまで深刻に受け止めなくても良いんだけどね。


ただ、クレスに迷惑を掛けるような噂だけは控えてほしい。

私としては、それだけで十分だった。

すると、それまで黙っていたクレスが口を開いた。

「そのことであれば、本当に私は気にしていない。誰が噂していようと迷惑に思っていないから安心してくれ。」


「えっ、そうなんですか?」

「ああ。」

クレスは私を安心させるように、穏やかな表情で頷いた。

……うーん、やっぱりクレスは良い人だなぁ。


自分が変な噂を立てられても気にしないなんて、なかなか言えることじゃないと思う。

しかも、昨日からずっと私のことを気遣ってくれている。

私が黙り込んでしまった時も、今こうして話している時も、クレスは一度だって私を責めようとしなかった。

それどころか、自分に非があったかもしれないと考えて、わざわざ頭まで下げてくれたんだ。


本当に誠実な人なんだね。

顔立ちが整っているだけじゃなくて、心までイケメンなんだから。

こんな人が周囲から慕われるのも納得できるよ。

……あれ? そういえば、昨日も似たようなことを考えていたような気がする。


クレスの容姿や性格について色々と思い返して、その後で恋愛のことまで考え始めちゃったんだっけ。

うぅ、思い出したら少し恥ずかしくなってきた。

あんなに一人で悩んでいたのに、当の本人はこうして普段どおりに接してくれているんだもん。

何だか私ばかりが大袈裟に考えていたみたいだね。


「はい、それなら私も気にしません。」

私はできるだけ穏やかな笑顔を浮かべ、クレスに微笑み掛けた。

クレスがここまで言ってくれているんだから、私もそれに応えなきゃ。

せっかくお互いに謝罪も済ませたことだし、これで昨日のことは一段落ということで良いんじゃないかな。


そう思ったんだけど。

「はぁ……。」

「む~……。」

なぜか、すぐ隣から二人分の落胆したような声が聞こえてきた。


何事かと思って顔を向けると、シルフとドライアドが揃ってがっくりと首を下げている。

あれ? さっきまであんなに張り切っていたのに、どうしちゃったんだろう。

二人とも、何だかひどく残念そうな顔をしている。

「どうしたの、二人とも?」


私が尋ねても、シルフは小さく首を横に振るだけだった。

ドライアドも、何とも言えない表情で私を見つめている。

……何でそんな反応をするの?

私、何かおかしなことを言ったかな。


クレスは噂を気にしていないと言ってくれたし、私も気にしないと答えた。

それなら何も問題はないはずだよね。

なのに、どうして二人はそんなに落ち込んでいるんだろう。

もしかして、さっきの作戦会議と何か関係があるのかな。


そう考えていると、ふと一つの可能性が頭をよぎった。

……いや、まさかね。

クレスが本当に私のことを好きだなんて、そんなことあるわけないよね?

昨日も考えたけど、クレスは容姿も実力も申し分ないし、性格だって素晴らしい。


そのうえ侯爵家の嫡男なんだから、私なんかよりずっと相応しい女性がいくらでもいるはずだ。

それに、私が知っているネームレスオンラインでは、クレスには別の未来が待っていたんだから。

……でも、それはゲームで知っている話であって、今のクレスがどう思っているかとは別なんだよね。

昨日、散々考えていたことを思い出して、また少しだけ胸が落ち着かなくなってきた。


うーん、どうなんだろう。

確認してしまえば、きっとすぐに答えは分かるんだと思う。

だけど、だからといって本人に直接尋ねるわけにもいかない。

「もしかして、私のことが好きなんですか?」なんて、いくら何でも聞けないよ。


もし勘違いだったら恥ずかしすぎるし、クレスだって困ってしまうだろう。

かといって、周りの人に聞くのも何だか違う気がする。

そもそも、どうして私がそんなことを気にしているんだろう。

あれこれ考えているうちに、だんだん頭がこんがらがってきた。


昨日感じていた後ろめたさとは、また少し違うもやもやが胸の中に広がっていく。

うぅ、分からない。

クレスの言葉も、シルフ達の反応も、どう受け止めれば良いんだろう。

結局、何一つ答えが出ないまま、私はその場で目を回しそうになっていた。

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