危うい冒険心⑩
「今のうちに早く!」
『ハンター』がカイ君を抱き上げる。
「『プロテクション』! 『バリア』! 『リジェネレーション』!」
ハイプリースト様は、使えるだけの補助スキルを自分へかけた。
その動きに反応し、辻斬りがわずかに前へ出て刀に手をかける。
ハイプリースト様も杖を構えた。
――バキンッ。バキンッ。
何度も、何度も。
最初は、ハイプリースト様が杖で辻斬りの攻撃を弾いているように見えた。
だけど違う。
あいつ、楽しんでる。
獲物がすぐに死なないように。
少しでも長く苦しむように。
その事実に気付いた瞬間、怒りでぶわっと全身の毛が逆立った。
幾度目かの攻撃でついに『バリア』の効果が切れた。
防ぎきれなかった斬撃を受けて、ハイプリースト様二の腕からブシュッと鮮血が噴き出した。
このままでは、命の恩人が目の前でモンスターに殺されてしまう。
まだ体は震えている。
「動け……っ!」
だけど、今ここで助けられなくて、いつ恩を返すっていうの?
今動かなきゃいけないんだ!
「《Storage》!」
目の前にワームホールが開く。
私は迷わず手を伸ばし、中から『レーヴァテイン』を取り出した。
柄を掴んだ瞬間、体の隅々を駆け巡る熱。
莫大な力が全身へ流れ込んだ。
――ああ、この力があれば、あいつを倒せる。
辻斬りは今まさに居合の構えを取った。
今この瞬間にもハイプリースト様にとどめを刺そうとしている。
そんなことは絶対にさせない。
今後こそ目に力を入れて辻斬りを捉える。
――私の恩人に何するのよ、この三下!!
心の中で叫び、思い切り地面を蹴る。
『ピーグ』を斬った時よりも遥かに速い。
景色が消えて、一瞬で辻斬りの目前へ迫る。
本来なら私なんかじゃダメージすら与えられない強敵。
だけど剣が教えてくれる。
レーヴァテインを握る手に力を込めて、ナイトスキル『スラッシュ』を放った。
バフ効果により凄まじい身体能力から放たれた一撃。
《HidePC》によって不可視となったそれは誰にも知覚されることなく、すさまじい衝撃波だけ残して辻斬りの体を切り裂いた。
「……?」
辻斬りは戸惑ったように目を見開いた。
こいつは自分の体に何が起きたのか、理解できない。
胸が崩れ始め、肩が、首が、腹が、足が、次々と細かな粒子へ変わり、風の中へ消えていく。
やがて辻斬りは困惑した表情を貼り付けたまま、完全に消滅した。
その姿が消えたことを確認し、私はようやく息を吐く。
手の震えはまだ止まらない。
本当に怖かった。
だけど――。
「……よかった」
恩人を死なせずに済んで、本当によかった。
土壇場だったけどレーヴァテインが持つ能力の一つ、
『プレイヤーが習得可能な、すべてのアクティブスキルを使用できる』はちゃんと効果を発揮していた。
ナイトじゃない私がスキルを使えたのは、そのおかげである。
レーヴァテインを装備している限り、修練したことのないスキルでも自由に使える。
前世の検証に便利だったけど、実際に手にしてみると本当に馬鹿げた性能である。
これは余談だけど。
レーヴァテインのフレーバーテキストには、同僚がお遊びで書いた一文が添えられていた。
『~~世界を三度滅ぼしても尽きることのない魔力を宿している。』
――本当に、その効果まで反映されていそうで怖い。
「……いったい、何が起きた……?」
呆然と呟いたのは、ウィザードだった。
目の前で起きた出来事を、誰一人として理解できていない。
突如として辻斬りの体が崩れ、跡形もなく消滅した。
魔法ではない。剣でもない。誰が何をしたのか、まったく分からなかった。
「ああ……。」
ハイプリースト様が胸の前で両手を組み、瞳を潤ませながら空を見上げる。
「これは、女神ガイア様がお助けくださったに違いありません。ああ、ありがとうございます……。」
その声音には、一切の疑いがなかった。
敬虔なガイア教の信徒である彼女は、今起きたことを女神の奇跡だと解釈したらしい。
その方が、私にとっても都合がいいので助かった。




