盛大な勘違い⑩
空になったスープの器をトレーへ戻し、ようやく食事を終えた私は小さく息を吐いた。
ふぅ、ごちそうさまでした。
料理はとっても美味しかったし、皆も親切にしてくれた。
それなのに、どうしてこんなに落ち着かないんだろう。
改めて周囲を見渡してみる。
セリーちゃん達は相変わらず楽しそうにこちらを見ているし、騎士団の人達も何やら期待に満ちた表情を浮かべている。
そういえば、さっきから皆が聞いてくるのはクレスと私のことばかりだった。
二人で何を話していたのかとか、いつから知り合いなのかとか。
私が別の話題を振っても、いつの間にかクレスとの話に戻ってしまう。
それに、クレスが椅子へハンカチを敷いてくれた時も、皆が妙に盛り上がっていたような気がする。
……あれ? もしかして。
これって、私とクレスをカップル扱いして楽しんでない?
そこまで考えたところで、ようやく一連の出来事が繋がった。
そういうことだったの!?
だから皆、あんなに楽しそうな顔をしていたんだ。
クレスが私のところへ並び直した時も、手紙を渡した時も、妙に盛り上がっていた理由が分かった気がする。
いやいや、ちょっと待って。
確かにクレスは格好いいと思うよ?
顔立ちも整っているし、背も高いし、剣の腕だって一流だ。
それに、さっきみたいに自然に女性を気遣えるところも素敵だと思う。
貴族なのに平民の私を見下したりもしないし、話していて楽しい相手なのも間違いない。
だけど、それとこれとは話が別だ。
だって、クレスには素敵な彼女ができるんだから。
これは口に出して説明できることじゃないけど、私はそのことを知っている。
ただ、今はその彼女がどこで何をしているのかも分からないんだけどね。
それでも、私とクレスが恋人同士だなんて話にはならないはず。
……ならない、よね?
そう考えた途端、急に隣に座っているクレスの存在が気になり始めた。
さっきまで普通に話していたのに、何だか顔を向けるのも恥ずかしい。
皆が私達をそんな目で見ていたなんて、まったく気付かなかった。
しかも、私は何も知らずにクレスと楽しそうにおしゃべりしていたわけで。
うわぁ、思い返すと恥ずかしくなってきた。
「アイラちゃん、顔真っ赤にしちゃってどうしたの?」
「えっ?」
セリーちゃんに声を掛けられて、思わず顔を上げる。
そんなに赤くなってる?
慌てて頬に手を当ててみると、確かにいつもより熱くなっている気がする。
まずい。意識した途端にこんな反応をしていたら、余計に変な誤解をされちゃうんじゃないかな。
だけど、ここは一度確認しておいた方が良いかもしれない。
「あの、その……もしかして、クレスと私をカップルだと思ってる?」
「ぶっ。」
思い切って尋ねてみた。
隣で吹き出したクレスのことは一旦無視。
すると、セリーちゃんは一瞬きょとんとした顔になり、隣に座っていたティナさんへ視線を向けた。
「聞いた?」
「もしかして今更気付いたの?」
ティナさんが驚いたように言った。
えっ、やっぱりそうなの!?
しかも、その反応だと私以外はとっくに気付いていたみたいじゃない。
ますます顔の熱が上がるのを感じた。
「恥ずかしがってるところ可愛い……。」
今度はアサシンさんが、うっとりしたような声で呟いた。
いや、そんなこと言われても困るんだけど。
私は別に可愛く見せようとしているわけじゃないし、そもそも恥ずかしがっているところを見られること自体が恥ずかしいんだから。
「鈍いにもほどがあるわよ。」
いつの間にか近くへ来ていたシルフが、呆れたように言った。
「だ、だって、そんなこと考えてなかったから。」
「でしょうね。見てれば分かるわ。」
呆れて物も言えないという感じで突き放された。
というか、シルフまで知っていたなら教えてくれても良かったじゃない。
そう思って周囲を見ると、騎士団の人達まで私の方をじっと見つめていた。
うっ。そんなに凝視しないでほしいんだけど。
ただでさえ恥ずかしいのに、大勢から注目されたらますます顔が熱くなってしまう。
どうしたものかと困っていると、隣のクレスが騎士団の人達へ顔を向けた。
その目が一瞬ギラリと鋭く光ったように見えた。
すると、それまで私を見つめていた騎士団の人達が、揃ってさっと視線を逸らす。
さっきまであんなに楽しそうだった騎士達は、今では誰一人こちらを見ようとしない。
もしかして助けてくれた?
この空間で唯一、私を助けてくれたクレスが救世主にさえ見えてくる。
クレスの顔をまじまじと見つめるけど、そこでまたさっきのことを思い出してしまった。
そうだった。皆、私とクレスをそういう関係だと思っていたんだ。
今まで何とも思わずに隣へ座っていたのに、急に距離が近く感じられる。
心臓の音が外まで聞こえてしまいそうなほど、大きく鳴り響いている。
これ以上顔を見たら、また余計なことを考えてしまいそうだ。
かといって、セリーちゃん達の方を向けば、きっとまた楽しそうな顔で見られるに違いない。
うう、どうしよう。
結局、私は誰とも目を合わせられなくなってしまった。
特にクレスの顔なんて、今はとてもじゃないけど見られそうにない。
さっきまであんなに普通に話せていたのに。
どうして気付いちゃったんだろう。
私は熱くなった頬を隠すように、そっと俯いたのであった。




