盛大な勘違い⑥
「うわぁ、すごい人。」
配給所へ辿り着くと、そこは既に大勢の人でごった返していた。
あちらこちらに長い列ができていて、どこから並べば良いのかも分からない。
とりあえず最後尾を探そうと辺りを見渡してみるけど、私の身長では人の背中ばかりが目に入ってしまう。
うーん、困った。
こういう時は背が低いと不便なんだよね。
「シルフ、列の最後尾を探して私に教えてくれる?」
「はいはい。」
シルフは軽く返事をすると、ふわりと少しだけ高く飛び上がった。
人の頭より高い位置まで上がると、左右に顔を動かしながら辺りを見渡している。
「んーっと、あ、見つけた。ここから右に進んだところにあるわ。私に付いてきて。」
「ありがとう。」
シルフが先導してくれるので、私はその背中を追い掛けることにした。
人にぶつからないよう前方へ気を配りながら、人混みの間を縫うように進んでいく。
途中で何度か立ち止まることになったけど、シルフが上手く道を選んでくれたおかげで迷わずに済んだ。
やがて人の隙間から、列の最後尾らしい場所が見えてくる。
「到着~。」
「道案内ご苦労様。さて、私も並ばないと。」
シルフにお礼を言って、改めて列の長さを確認する。
うわぁ、これは結構長いね。
少なくとも数十メートルはありそうだ。
ただ、列の長さに反して進みはかなり早い。
少し待っているだけでも前の人達が次々と進んでいくので、思ったほど時間は掛からないかもしれない。
気になって配給所の出口の方へ視線を向けてみる。
すると、食事を受け取った人達が滞ることなく次々と出てきていた。
どうやら食事は既にトレーへ用意されていて、並んだ人がそれを受け取っていく仕組みらしい。
受け取り口もいくつか設けられているので、一か所に人が集中しないよう工夫されている。
なるほど、これは効率が良いね。
さながらコミックマーケットでワンコイン販売をしている大手サークルのような手際の良さだ。
参加者が次々と展示品を受け取っていく、あの無駄のない流れを思い出す。
これだけ大勢の人を相手にしているのに、列が滞らずに進んでいく様子は見ていて気持ちが良い。
前の方には知っている人はいるかな。
何となく列を眺めていると、少し先に見覚えのある姿を発見した。
「あ、セリーちゃん達だ。」
セリーちゃんをはじめ、同じ班の皆が揃って並んでいる。
こちらに気付いてもらえるかなと思って手を振ると、セリーちゃんがすぐに気付いてくれた。
他の皆もこちらへ顔を向け、笑顔で手を振り返してくれる。
どうやら皆も晩ごはんを受け取りに来たんだね。
私も早く並ばないと。
そう思って列の一番後ろへ付いたところで、背後に大きな影が差した。
誰かが私のすぐ後ろで足を止めたらしい。
「アイラ。」
突然名前を呼ばれて振り返る。
そこに立っていたのは、見慣れた金髪の青年だった。
「あ、こんにちは。奇遇ですね。」
クレスだ。
こんなところで会えるなんて、本当に奇遇だね。
ちょうど手紙を渡したいと思っていたところだったので、こちらから探し回らずに済んだのはありがたい。
だけど、どうやら偶然というわけでもなかったらしい。
「いや、騎士団の連中と並んでいたんだが、アイラの姿が見えてな。列を抜けて並び直したんだ。」
「えっ?」
わざわざ並び直したの?
せっかく前の方まで進んでいたかもしれないのに。
驚いてクレスの顔を見上げると、彼は何でもないことのように列の前方へ視線を向けた。
その視線を追ってみる。
すると、少し離れたところにいる大勢のナイト達が、こちらへ向かって笑顔で手を振っていた。
あ、あの人達がクレスと一緒に並んでいた騎士団の皆さんかな。
何だか妙に楽しそうなんだけど。
こんなに大勢から一斉に手を振られると、ちょっと恥ずかしい。
だけど無視するのも失礼だし、私も小さく手を振り返しておこう。
「別に振り返さなくて良いぞ。」
「そ、そうですか?」
なぜかクレスが少しだけムッとした様子で、ぶっきらぼうに言った。
あれ?
騎士団の人達と何かあったのかな。
さっきまでは普通に話していたのに、急に機嫌が悪くなったような気がする。
理由が分からないまま視線を逸らすと、今度はセリーちゃん達の姿が目に入った。
あちらも何だか妙にはしゃいでいる。
何をそんなに楽しそうにしているんだろう。
気になって眺めていると、ちょうど皆と目が合った。
すると、なぜか全員揃って反対側を向いてしまう。
そのまま楽しそうにおしゃべりを始めた。
えっ、何?
私も混ぜてほしいんだけど。
何だか少しだけ仲間外れにされたような気分になる。
だけど距離があるので、何を話しているのかまでは聞こえなかった。
仕方ない。
後で聞いてみようかな。
そう思っていると、今度は妙に静かなことに気付いた。
あれ、そういえばシルフとドライアドは?
さっきまで近くにいたはずなのに、二人とも声を掛けてこない。
不思議に思って周囲を探すと、いつの間にか二人揃って少しだけ上空へ移動していた。
しかも、何やら楽しそうに話している。
シルフは時折こちらを見ながら笑っているし、ドライアドも嬉しそうに頷いていた。
何だろう。
皆して私に聞こえないところで何を話してるの?
「全く、どいつもこいつも。」
隣からクレスの呆れたような声が聞こえてきた。
何だか彼だけは事情を分かっているような口振りだ。
だけど、私には何の話なのかさっぱり分からなかった。




