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盛大な勘違い①

「見つかってない?」

「あたしの見た限りは大丈夫だわ。」

「こっちも問題ない。」

ここは駐屯地に並ぶテントの死角。

人混みから離れ、周囲から直接見えない位置まで移動してから《HidePC》を解除したところだ。


シルフとドライアドの報告を聞いて、私はホッと胸を撫で下ろした。

どうやら私たちが突然現れたことを見ていたものはいないらしい。

「どこで誰が見てるか分からないから、さっさと離れよう。」


いつまでもこんな場所に隠れている方が怪しい。

何食わぬ顔で歩き出しながら、これからやるべきことを頭の中で整理する。

大まかに分けて三つ。

最優先事項は、誰にも気付かれないように戻ること。


これについては一旦自分達のテントまで戻ってしまえば解決できる。

次は時間になったら配給所へ行って、晩ごはんを貰ってくること。

こっちは最初の目標さえ達成できれば、ほとんど達成したも同然だ。

そして最後。

クレスへ、さっき見たことを伝える。


これが一番重要で一番難しい。

話の内容が内容だけに、できれば二人きりの時にしか話したくない。

だけど、この人だらけの駐屯地でそんなタイミングを作るのは難しいし、もし誰かに聞かれていたら詰む可能性がある。


「となると、手紙で伝えるのが丸いかな?」

「良い案だと思うわ。何かを渡すくらいなら、そこまで不自然でもないんじゃないかしら。」

「お手紙書かなきゃ。」

二人も賛成してくれた。


そうと決まれば、まずはテントに戻って手紙を書くところから始めよう。

私はシルフとドライアドを連れ、そのまま自分達のテントへ向かう。

途中で余計なところへ寄ったり、関係のないテントの近くをうろうろしたりはしない。

万が一、この後に何か事件が起きた時。

私が自分のテントとは関係ない場所で不審な動きをしていました、なんて情報が出てきたら本当のことが言えない私は一気に旗色が悪くなるもんね。


だから脇目も振らず、まっすぐテントへ戻る。

駐屯地そのものが狭いので、途中では何人もの人とすれ違った。

中には私達をジロジロ見てくる人もいたけど、不審がられているというより、私や精霊が気になっているという感じだ。

これなら印象には残っていても、怪しい行動をしていたとは思われないはず。


そのまま何事もなく自分達のテントへ辿り着き、中へ入った。

「誰もいない。」

幸いなことに、班の皆はまだ戻っていなかった。

今なら手紙を書いているところを見られる心配もない。

「運が良い。手紙を書くなら今のうちだね。」


《Storage》

開いた  GM倉庫から紙とペンを取り出して、すぐに閉じる。

それを備え付けのベッドに付いた小物置きへ乗せると、さっそくペンを走らせた。


駐屯地の外、南側へ出ていく怪しい三人組を見つけました。

男性二人、女性一人です。

持っていた道具から、おそらくシン共和国の人間だと思います。

一時間ほどで戻ってきました。何をしていたかまでは分かりません。

何か重大な秘密がある可能性がありますので、クレスにしか伝えていません。


「これでよしっ。」

書き終えた内容を最初から読み返してみる。

これなら私が三人組を尾行したことも、駐屯地の外まで出たことも分からない。

あとはこの紙をクレスへ渡すだけ。

「……あ、待って。そういえば……。」

そこで、重要なことを思い出した。


クレスって騎士団の上層部の人間に騙されて、命を落とすことになったんだよね。

もちろん、それはゲームでの話だ。

今のクレスは本来の歴史を大きく越えて生きている。

だけど、過去にクレスを陥れた人物がいたという事実まで消えたとは限らない。


「あれってひょっとすると、王国内にスパイがいた可能性もあるよね。」

ゲームでは物語として見ていたから、当時はそこまで深く考えていなかった。

だけど三か国の思惑が複雑に絡み合っている今の状況で考えると、急に怖くなってきた。

騎士団の上層部だから安全。


ゾディアック王国の人間だから信用できる。

そんな単純な話ではない可能性がある。

もし王国内に他国と繋がっている人間がいて、この手紙の内容が漏れたら?

シン共和国の三人組について調べようとしていることが相手側へ知られれば、せっかく手に入れた情報が無駄になるどころか、クレス自身まで危険に晒すかもしれない。


「…………。」

やっぱり念のため書いておこう。

私はもう一度ペンを取り、手紙の頭に一文を付け加えた。

王国内に他国のスパイがいる可能性が高いです。それを踏まえて、この情報は取り扱ってください。


「うん。」

これでいい。

どうして私がそんな可能性を知っているのかまでは書かない。

説明しようとすれば、ゲームだった頃の歴史まで話さなければならなくなる。

だけどクレスなら、ここまで書いておけば意図を汲んでくれるだろう。

あとは誰にも怪しまれないように、この手紙をクレス本人へ直接渡すだけだ。


「いないなぁ。」

手紙を書き終えてからクレスを探してみたものの、人が多すぎてまったく見つからない。

それどころか、班の皆の姿すら見当たらなかった。

これだけ大勢の人が一か所に集まっているんだから仕方ないか。

クレスへの手紙は早めに渡しておきたいけど、闇雲に駐屯地を歩き回って探しても見つかるとは思えなかった。

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