それぞれの思惑⑲
「戦闘は誰かに見られていない?」
「近くに熱源反応は無いな。仮に見られていたとしても消してしまえば良い。」
「……。」
とんでもないことを言ってる。
しかも、冗談を言っているような声ではなかった。
この三人組を見つけても、場合によってはその場で口封じされるってことね。
その言葉を発した本人だけじゃない。
残りの二人も特に驚くことなく、そのまま歩き続けている。
もしかしたら、これまでもそういうことをしてきたのかもしれない。
少なくとも彼らの話し方には、人を消すという行為への躊躇いが感じられなかった。
その事実に思わずゾッとする。
ただ、良い情報も手に入った。
彼らは熱源を探知する装置を持っている。
地面の中にいたロックワームを事前に発見できたのも、おそらくその装置のおかげだろう。
そして今、私達は三人からかなり近い位置にいる。
それでも熱源反応がないと言い切った。
「《HidePC》は探知できないんだ。」
これは大きな情報だ。
少なくとも彼らが今使っている熱源探知の装置では、《HidePC》状態の私を見つけることはできない。
これだけ近くまで接近しても気付かれないということが、その証明にもなっている。
もちろん他にどんな探知手段を持っているのかまでは分からないけど、今のところはこちらの存在に気付いた様子はない。
三人組は何事もなかったように、さらに異次元の奥へ向かっていく。
まだ何かを採集するつもりなのかな。
私達は一定の距離を保ちながら、そのまま尾行を続けるのであった。
それから小一時間ほど三人組を追い掛けてみたけど、特に目新しいものはなかった。
異次元に群生している植物を見つければ、その一部を採集して小さな容器へ入れる。
途中でモンスターが現れれば、先ほどと同じように見慣れない武器や道具を使って手早く倒し、体の一部をサンプルとして回収する。
やっていることは最初からずっと同じ。
途中からは本当に作業を見ているような気分になってきた。
「こんなもので良いだろう。そろそろ戻るぞ。」
三人組のリーダー格らしい男がそう告げると、残りの二人も特に異論を挟まず、駐屯地の方角へ歩き始めた。
どうやら今日の調査はこれで終わりらしい。
「私達もバレる前に戻らないと。」
「そうしよー。」
「結局、最初以上の情報は得られなかったわね。」
シルフの言う通り、その後に何か新しい情報を得られたわけではない。
だけど、無価値だったとは思わない。
シン共和国の人間が命令を無視して駐屯地の外へ出て、異次元に存在する植物やモンスターのサンプルを秘密裏に集めている。
それが分かっただけでも十分に重要な情報だ。
問題は、これをどうするか。
「誰かに伝えた方が良いよね。」
少なくとも私達だけで抱えていて良い話ではない。
だけど誰にでも話せる内容でもなかった。
シン共和国が裏で何かをしている可能性がある以上、下手な相手へ相談して情報が漏れるのも怖い。
ちゃんと私の話を聞いてくれて、信用できる人。
そんな人物がいるだろうか。
「……やっぱり一人しか思い付かない。」
自然と頭の中にクレスの顔が浮かんだ。
クレスなら私の話をちゃんと聞いてくれるだろう。
それに今のクレスはグランドナイトだ。
私一人ではどうすれば良いのか分からない情報でも、立場のある彼なら適切に扱ってくれると思う。
「ただ、後を追って何をしていたかまでは話せないよねぇ。」
私も命令を破って駐屯地の外まで来ている。
三人組を追い掛けるためだったとはいえ、許可を得ていないことに変わりはない。
下手を打てば私まで投獄されかねない話だった。
クレス本人は事情を聞けば許してくれるかもしれないけど、他の偉い人達まで許してくれるかは別問題だ。
というか、きっと許してもらえないだろう。
「駐屯地の外に出ていった人を見たくらいが伝えられる限界かも。」
「そうね、アイラまで巻き添えになる必要はないわ。」
「とかげのしっぽ。」
ドライアドがぽつりと呟いた。
「……ああ、そういうことね。」
たぶんドライアドが言いたいのは、シン共和国という国家に対して私は一個人でしかないということだ。
仮に今日見た三人組の行動をすべて報告して、彼らを捕まえることができたとしても、それで終わるとは限らない。
三人を切り捨てれば済む話。
今回の三人組が駄目なら、第二、第三の三人組を送り込めばいい。
考えたくもないけど、たぶん事実だろうなぁ。
むしろシン共和国なら絶対にやるだろうという信頼すらある。
「ドライアドの言う通りだね。今はクレスにシン共和国の三人組が外に出ていった事実だけを伝えよう。クレスならきっと私より上手く処理してくれるはず。」
私が全部抱え込んで何とかしようとする必要はない。
私より立場も経験もある人に任せられるなら、その方がずっと良い。
「金髪を使うのは良い選択だと思うわ。」
「賛成一票。」
どうやら三人とも意見は一致した。
あとは怪しまれないように駐屯地へ戻り、機会を見てクレスへ話をするだけだ。
「それじゃあ戻ろうか。」
私達は三人組より少し遅れて、駐屯地へ向かって引き返した。
今回のレイディアント討伐。
最初は三か国が共通の敵を倒すために手を取り合った、単純な協力関係なのだと思っていた。
だけど実際は違う。
ストレリチアは派遣する戦力を抑えながら、他国が持つ情報を少しでも多く引き出そうとしている。
シン共和国は討伐隊へ参加する裏で、異次元の生態やレイディアントが生み出したモンスターを秘密裏に調査していた。
そしてゾディアック王国は、そんな二か国の思惑をどこまで把握しているのかすら分からない。
表向きは、同じ敵へ立ち向かう三か国の連合軍。
だけど、その内側では全員が違う方向を向いていた。
共通の敵を前にしても、それぞれの国にはそれぞれの目的がある。
協力しながら相手を探り、利用できるものは利用して、自国の利益を少しでも多く持ち帰ろうとする。
ゲームで遊んでいた頃には深く見えなかったものが、この世界で生きている今は嫌でも内面まで見えてきてしまう。
これから始まるのは、ただレイディアントを倒すだけの戦いじゃない。
三か国それぞれの思惑が複雑に絡み合う中で、魔王討伐という目的を掲げながら進んでいくしかないのだ。




