それぞれの思惑⑱
「……。」
ゲームで知っているマリスの強さを思い出す。
あの人なら、今回集められた討伐隊を一人で皆殺しにすることさえできるかもしれない。
もちろん三か国を代表する強者が集められている以上、全員漏れなくというのは簡単ではないと思う。
それでも、相手はマリスだ。
ここにはたくさんの部下を連れてきているだろうし、もし研究の邪魔になるような事態が起きたとしても、最後は力でどうにかできると考えていてもおかしくない。
魔王討伐隊はレイディアントとの戦いに敗北して全滅しました。
そういうことにしてしまえば、ここで何が起きたのかを知る人間も残らない。
「初めから全部仕組まれていたんだ。」
点だったものが、一気に線へ繋がったような感覚がした。
少なくとも、今まで不自然に感じていたことには説明が付く。
「アイラ、何か分かったの?」
「ちゃんと説明しなさい。」
私が一人で考え込んでいたからか、ドライアドとシルフが左右から声を掛けてきた。
そういえば二人には、これまでシン共和国について詳しい話をあまりしてこなかった。
当然、マリスがどういう人物なのかもほとんど知らないはずだ。
「そうだね。二人にも話しておいた方が良いかも。」
今後も一緒に行動する以上、知らないままにしておく方が危ない。
ちょうど良い機会だしシン共和国がどういう国なのか。
そしてマリスが何をしてきた人物なのか。
二人にも、私が知っていることを話しておこう。
「まずあの三人はシン共和国の人間なの。彼らが魔王――レイディアントの討伐に参加した理由は、女神様に封印されていた未知の生物を調査するため。」
三人組の様子を見ながら、私はシルフとドライアドへ説明を始めた。
もちろん、今の話は私が知っているゲームの設定と、さっき目の前で見た行動から考えたものだ。
だけどかなり可能性は高いと思う。
「じゃあ皆で人類の脅威に対抗しようという話は嘘?」
ドライアド、鋭いね。
「正解。そもそもシン共和国は単体でレイディアントを退けるだけの力を持ってるから、わざわざ同盟なんて組む必要がないの。」
今回の討伐隊には三か国から大勢の人間が集まっている。
だけどシン共和国が本気でレイディアントを倒すだけなら、こんな形で他国と手を組む必要はないはずだ。
少なくとも私が知っているあの国には、それだけの力がある。
「じゃあ隠れずに堂々と調査するために今回の討伐に参加したってことかしら?」
シルフも正解。
優秀な生徒は理解も早い。
「そうだね。それと、さっきの次元移動装置もシン共和国の物だから、うちだけでは異次元への移動は難しいと見て力を貸したんだと思う。その点で言えば、あの国は経験もあるからね。」
「経験があるの?」
ドライアドが不思議そうに首を傾げる。
そこから全部説明するとかなり長い話になる。
今は三人組の監視中だし、細かいところまで話している余裕はない。
「話すと長くなるから省くんだけど、シン共和国の指導者は異世界人なの。」
「ええっ? アイラと同じってこと?」
シルフが驚いたように私を見る。
まあ、異世界人とだけ聞けばそう思うよね。
「私は異世界からの転生者。あっちは異世界から渡ってきた人。生まれた世界も違うしね。」
「へー、じゃあ異世界への移動に詳しいんだ。」
「少なくとも今この世界にいる人間の中では、誰よりも詳しいんじゃないかな。」
マリスがどういう方法でこの世界へ来たのか。
その辺りまで詳しく説明し始めると、本当に長くなってしまう。
だけど少なくとも、異世界というものに関する知識がこの世界の普通の人間とは比較にならないことだけは確かだと思う。
今回使われている次元移動装置を見ても、その技術力が他国とは大きく違うことは分かる。
「どんな人間なの?」
「この討伐隊にも参加してたよ。黒髪で眼鏡を掛けた長身の不健康そうな人。今度見かけたら教えるけど、絶対にまじまじと見ないでね。おそらくバレるから。」
マリスなら視線くらい普通に気付きそうで怖い。
下手に興味を持って観察して、こちらの存在を意識されるようなことだけは避けたい。
「分かったわ。……あ、あいつら動いたわよ。」
シルフの言葉を聞いて、すぐに三人組へ意識を戻す。
「この方角はまだ駐屯地には戻らないようだね。追いかけよう。」
私達が話している間に、目の前のサンプル採集も終わったらしい。
三人組は道具を片付けると、さらに駐屯地から離れる方向へ歩き始めていた。
どうやらロックゴーレムとロックワームだけで終わりというわけではないようだ。
それにしても随分と手慣れている。
三人が立ち去った後へ目を向けると、さっきまで戦闘が行われていたとは思えないくらい綺麗に処理されていた。
ご丁寧に戦った形跡が残らないよう、偽装工作までしている。
ロックワームの死体は、おそらく地面の中へ戻したのだろう。
さっきまで二体もいたはずなのに、地上からはまったく見えなくなっている。
ロックゴーレムの方も、倒れた体を周囲の岩場へ紛れ込ませていた。
何も知らずにここを通れば、少し大きな岩が転がっているようにしか見えない。
これなら、よほど注意深く調査しない限り戦闘があったことには気付かれないだろう。
三人組は周囲を確認しながら、さらに奥へ進んでいく。




