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それぞれの思惑⑰

「……。」

随分と鮮やかに倒したね。

偶然当たったようには見えなかった。

最初から弱点の位置を知っていて、そこを狙い撃ったような戦い方だ。


三人組はロックゴーレムが完全に動かなくなったことを確認すると、すぐにその周囲へ集まっていく。

何かしているみたいだけど、ここからでは細かいところまで分からない。

「ここからだと何を話しているか分からないね。もう少し近づけてほしいな。」

「分かったわ。」


私の言葉に合わせて、シルフがゆっくり高度を下げていく。

少しずつ地面が近付き、最終的には三人組から三メートルほどの距離まで近付いた。

これなら十分に声が聞こえる。

私はそのまま、三人組の会話へ耳を傾けた。


「こいつの皮膚はどの程度あれば良い?」

「この小袋に少しずつあればいい。どの部位を持ってきて欲しいって言っていたっけ。」

「頭と胸部、手のひらと足の裏だ。」

皮膚を採集しているの?


三人組は倒したロックゴーレムの体を調べながら、指定された部位から少しずつ何かを採取しているようだった。

もしかして、この世界のモンスターからサンプルを入手しようとしている?

だとすれば、わざわざ命令に違反してまで防衛線の外へ出てきた理由も少しは分かる。


だけど、どうしてそんなことをしようとしているんだろう。

誰かに頼まれた?

それとも自分達で調べるつもりなのかな。

もう少し会話を聞けば何か分かるかもしれない。

そう考えた矢先だった。


「っ!」

突然、三人組が同時にその場から飛び退いた。

さっきまでとは明らかに違う動き。

「足元、熱源反応二つ!」

「資料にあった地中移動してくるモンスターか!」


次の瞬間、ついさっきまで三人組が立っていた地面が大きく盛り上がった。

地面を突き破って、細長い巨大な体が勢いよく飛び出してくる。

一体だけじゃない。

少し離れた場所から、もう一体。

「あれは……。」


『ロックワーム』。

この異次元に生息する、地中を移動するワーム型のモンスターだ。

普段は地面の下を移動しているため姿が見えず、獲物へ接近してから一気に地上へ飛び出して攻撃を仕掛けてくる。

ステータスそのものは、そこまで驚異的というわけではない。

だけど地中からの奇襲に対策していないと、討伐するのが難しいモンスターでもある。


ゲームだった頃なら攻略情報を知っていれば対策できる相手だった。

でも現実になった今の世界で考えると、地面の下から突然襲われるというのは相当に厄介だと思う。

どこにいるのか見えない相手から、いきなり足元を狙われるんだからね。

だけど、この三人組は違った。


ロックワームが地上へ姿を現すよりも先に、その存在へ気付いていた。

しかも一体ではなく、二体いることまで正確に把握している。

「熱源反応……。」

さっきの言葉が引っ掛かる。


三人組のうち一人が何かを確認しているように見えた。

どうやら特殊な道具を使って、地中にいるモンスターの位置まで把握しているらしい。

見慣れない武器。

魔力を使わない戦闘方法。


ロックゴーレムの弱点を正確に狙い、倒した後には体の一部を採取する。

そして地中に隠れているロックワームまで発見できる道具。

「……。」

ただ命令を無視してモンスターと戦いたかっただけ、というわけではなさそうだね。

この三人、一体何をしにここへ来たんだろう。


ロックワームとの戦闘は、始まってからわずか数十秒で決着した。

二体とも何度か土の中へ逃げ込んで攻撃を回避していたものの、最後は攻撃しようと地上へ頭を出した瞬間を狙われた。

銃器のような武器から放たれた光弾が頭部を正確に貫き、そのまま地面へ倒れて動かなくなる。


「あっさり倒しちゃったね。」

「さっきも思ったけど強いわねコイツら。」

そう、本当に強い。

少なく見積もっても、高レベルの二次職に相当するだけの力はあると思う。

それも今見たのは、あくまで三人が持っている武器や道具の一部だけだ。


他にどんな装備を持っているのかも分からない以上、まだまだ底が知れない。

三人組はロックワームを倒しても喜ぶような素振りを見せず、淡々と死体の処理を始めた。

さっきのロックゴーレムと同じように、必要な部位から少しずつサンプルを採集していく。

「……。」


魔法を使わない特殊な武器。

私達の世界では見たことのない道具。

そして、モンスターを倒すだけではなく、その体の一部を持ち帰ろうとしている。

私には、こんな戦い方をしてモンスターのサンプルを採集する国に一つだけ思い当たりがあった。


予想するまでもない。

シン共和国の人間だろう。

だとしたら、シン共和国は魔王細胞だけじゃなく、この世界にいるモンスターまで集めていた?

そもそも、この異次元そのものがレイディアントによって作られている。


ここに生息するモンスターもそうだ。

それなら、この世界とモンスターそのものがレイディアントの一部とも考えられる。

まさかとは思うけど、このモンスター達の細胞まで使って人体実験を……?

そこまで考えたところで、昔プレイしたサイドストーリーの内容が頭に浮かんだ。


「そういえば……。」

シン共和国では、身寄りのない自国の孤児を攫って人体実験を行うサイドストーリーがあったはずだ。

その中には、体の弱い人達へ粗悪な魔王細胞を埋め込む人体実験の話もあった。

当然、そんな危険なものを無理やり埋め込まれた人間が無事で済むはずもない。


だけどゲームで見た時の私は、その粗悪な魔王細胞が具体的に何なのかまで深く考えたことはなかった。

粗悪品はその名の通り純粋な魔王細胞より品質が悪いものだろう。

その程度の認識だった。

だけど今、目の前ではシン共和国と思われる人間達が、レイディアントによって生み出されたモンスターからサンプルを採集している。


「その粗悪な魔王細胞がロックゴーレムやロックワームの細胞……?」

口にした瞬間、自分で言ったことなのに背筋が冷たくなった。

考えたくもない話だ。

だけど、あり得ないとも言い切れない。

むしろそう考えれば、私が知っているサイドストーリーと今目の前で起きていることに説明が付いてしまう。


最初は体の弱い人達へ、モンスターから採取した細胞を使って実験する。

そして、その実験で成果を上げた後は、より強い肉体を持つ人間へレイディアントの細胞を埋め込む。

もしそうだとしたら――。

今回シン共和国が三か国による魔王討伐へ参加した理由まで見えてくる。


「初めからシン共和国が参加した理由は、この世界で多くのサンプルを持ち帰るため。だからマリスも一般兵士に混ざって参加していたんだ。」

シン共和国の事実上の指導者であるマリス。

最初に彼の姿を見つけた時から、どうしてこんな場所へ本人が来ているのか不思議だった。


だけど、この異次元そのものが研究対象なのだとしたら?

ここでしか手に入らない大量のサンプルを回収することが目的なら、彼自身が来ている理由も分かる。

そして、もし何かトラブルが起きれば自分自身が出ていくつもりなのかもしれない。

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