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それぞれの思惑⑯

まだ夕飯までは時間がある。

怪しい三人組の方も集合時間に居ないような大胆な行動は控えるだろう。

皆から別れて十分に離れたところで、私は二人へ小声で指示を出した。

「シルフは怪しい三人組の監視を継続。ドライアドは私のことを見ている人がいないかこっそり探して。」

「りょーっかい。」

「ん、任せて。」


二人ともすぐに動き始める。

まずは人混みを抜けて、できるだけ人気のない場所を探す必要がある。

さっきまでプライバシーがないなんて考えていたくらいだから、人目を避けて移動するのは簡単じゃない。

それでもシルフが三人組の位置を確認し、ドライアドが周囲から向けられる視線を探ってくれる。


「あっちに行ったわ。そこを右。これ以上先に行ったら見つかるわ。」

「変なおじさんに見られてる。まだ見られてる。着いてくるつもりはないみたい。」

「分かった。」

こういう時に三人分の目があると助かる。

しかも精霊は、こういう感覚が人間よりずっと鋭敏だ。

私一人だったら見逃してしまうような視線や気配まで、二人はちゃんと気付いて教えてくれる。


シルフの指示に従って右へ左へ。

置かれている機材の裏側を通り、並んだテントの影へ入り、できるだけ人目のない場所を選んで歩いていく。

途中から、これって逆に怪しくて目立たないかなと心配になってきた。

だけどシルフとドライアドの指示は的確だったようで、誰かが私達を追ってくる気配はない。


どうやら完全なハイドに成功したみたいだ。

それでも三人組との距離を保ちながら、人目まで気にして追い続けるのは面倒だった。

このまま慎重に進んでいたら、見失う可能性もある。

「埒が明かないからここからは隠れて追うよ。」


シルフとドライアドの了承を得るのも待たず、頭の中で《HidePC》と念じる。

次の瞬間、自分の手足が視界から消えた。

「……。」

ちゃんと使えた。


最後に《HidePC》を使ったのっていつだっけ?

一瞬そんなことも頭に浮かんだけど、今は良いか。

「ドライアドありがとうね。もう周りを気にしなくて良いよ。」

「ん、これも見られてないから大丈夫。」


どうやら《HidePC》を使った瞬間も誰にも見られていなかったらしい。

これなら少なくとも、私が突然消えたところを目撃された心配はない。

あとは三人組を見失わないことだけ考えればいい。

「あっちに行ったわ。明らかに防衛線の向こうまで出ていくつもりね。」


シルフの言葉を聞き、言われた方向へ目を凝らす。

さっきまで人目を避けるように歩いていた三人組が、今度は駐屯地を抜けて遠くへ向かって駆けているのが見えた。

あの方向は明らかに防衛線よりも外側へ出ていくつもりだ。


何をしに行くのかは分からない。

だけど探索が禁止されている今、わざわざ人目を避けて駐屯地から離れていく時点で怪しいことに変わりはなかった。

「まずいなぁ。」

相手は三人とも走っている。

普通に追い掛けたら、私の足ではどう考えても追い付けそうにない。


それどころか、このままではどんどん距離を離されて見失ってしまう。

「ごめんシルフ、このままだと離されちゃうから飛んで追いかけたい。」

「いいわよ、舌噛まないでね。」

シルフが私へ魔法を掛ける。


直後、足の裏から地面の感触が消えて、私の体がふわっと宙へ浮かび上がった。

「このまま一気に距離を詰めるわよ!」

「上空から様子を見たいから高めでお願い。」

「分かったわ。」


低い位置から追い掛けるより、高いところから三人の動きを確認した方が見失いにくい。

それに今の私は《HidePC》を使っている。

空を飛んで追い掛けても、私の姿を見られる心配はないはずだ。

高度が少しずつ上がり、宿営地に並んでいた無数のテントが眼下へ遠ざかっていく。


その先では、怪しい三人組が駐屯地から離れるように走り続けていた。

どこへ向かって何をしようとしているのか。

まだ何も分からない。

こうして私達の大追跡は開始された。




追跡を開始して五分ほど経過した頃、変わらぬ景色の中に少し異質な影が見え始めた。

「ねぇ、正面のあれ何?」

ドライアドに言われて正面へ目を向けると、少し離れた場所をゴツゴツした人型のモンスターが歩いていた。

「あれは『ロックゴーレム』だね。レイディアントが生み出したモンスターだよ。」


「ロックゴーレムなんてモンスターは私の知識にはないわ。」

シルフが不思議そうに呟く。

「もちろん私達の世界にはいなかったからね。精霊が知らないのも無理はないよ。」

ロックゴーレムは、この異次元に生息するモンスターの一種だ。


体付きだけならレイディアントに似ているけど、威圧感も大きさもまったく異なる。

岩を無理やり人型に組み合わせたような姿で、何というかSD化されたデフォルメキャラクターみたいなチープさがあった。

とはいえそれはレイディアントと比較した時の話である。

その強さはしっかりとした確かなものであった。


「あいつら攻撃を仕掛けるわよ。」

「ここまで来ると明らかに命令違反の単独行動だね。バレたら軍法会議ものだと思うけど何が目的なんだろう。」

探索開始の許可はまだ出ていない。

それなのに三人組は人目を避けて防衛線を抜け出し、そのうえモンスターと戦おうとしている。


そうまでしてモンスターと戦いたい理由があるの?

私達は上空から三人組の行動を観察する。

こちらは《HidePC》を使っているので、少なくとも私の姿を見られる心配はない。

「へー、あいつら変な戦い方するのね。」

「あの武器の威力おかしい。」


シルフに続いて、ドライアドも三人組の戦い方に興味を示した。

私も改めて注意深く観察してみる。

「本当だ。」

よく見ると、三人とも魔法を使っていない。

それどころか、魔力を利用した戦い方自体していないように見える。

その代わり、三人が手にしているのは私にも見覚えのない道具だった。

この世界の武器としてはかなり異質な形をしている。


だけど私には、その形状に少しだけ馴染みがあった。

前世で見た銃器や工具に近い。

もちろん完全に同じものではないけど、少なくとも剣や槍、魔道具の類には見えなかった。

三人組は互いに距離を取りながらロックゴーレムを囲み、迷うことなく攻撃を続けていく。


「あ、倒した。」

銃のような武器から放たれた光弾が、ロックゴーレムの胸部を正確に貫いた。

直後、それまで動いていた巨体がぴたりと停止する。

前のめりに傾いた体が、そのまま大地へ倒れ込んだ。

どうやら核の部分を正確に貫いたらしい。

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