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それぞれの思惑⑮

あと、私が利用することはないんだけど、テントから少し離れた隔離された一角に、いわゆる『休憩所』も設けられている。

長い調査になる可能性がある以上、時には『発散』も必要だろうという理由で用意されたものらしい。

こういう施設をわざわざ作るなんて不潔だと思う人もいるかもしれない。

だけど何か月もここで生活することになれば、溜まりに溜まってよろしくない行動に出る人間が絶対に現れないとも言い切れない。


それに、禁止されれば逆に抜け道を探すのが人間というものだ。

完全に禁止して隠れて何かをされるより、制限されたルールの中で許可した方が治安維持という意味ではずっと良い。

その辺りも考えたうえで設置されているのだろう。

さすがに知り合いが利用しているところを見掛けたりしたら驚くけど、ご利用される方はどうぞご勝手に。

さっきも言った通り私には関係ないので近付くつもりもないけどね。


「それにしてもテントがこんなに広いとは思わなかったね。」

「うん。それにベッドも高台になってたよね。寝袋で地面に寝かされると思ってたから嬉しい。」

「野営の時より良い環境でした。さすが魔王討伐のために集められただけありますね。」


荷物の整理も終わり、今は班員の皆と宿営地の周囲を散歩しながら雑談していた。

異次元に作られた臨時の拠点なんて聞いていたから、私ももっと過酷な生活を想像していたんだよね。

寝る場所は狭いテント。

地面に寝袋を敷いて、食事も最低限。


そんな環境を覚悟していたんだけど、実際に来てみれば想像していたよりずっと快適だった。

六人で利用しても十分な広さのあるテントに、地面から少し高く作られた寝やすそうなベッド。

大勢の人が一度に押し寄せても素早く捌けるように整えられた配給所まである。

水回りやお手洗いもしっかり完備されているし、生活するだけならゾディアック王国にある平均的な宿よりもずっと良い環境かもしれない。


思わずここが魔王討伐の最前線だということを忘れそうになるくらいだ。

唯一守られていないのは、プライバシー面かな。

これについては終わり散らかしてると断言できる。

そもそも六人一組で同じテントを使っている時点で、一人になれる時間なんてほとんどない。


寝る時だって同じ空間には班員がいるし、そのテント自体も薄い布切れみたいなものだ。

防音なんて期待できるはずもない。

ちなみに見た感じでは雨にもあまり強そうな素材には思えなかった。

ただ、この異次元では雨も降らなければ風も吹かないらしく、この程度のテントでも問題なく使えるのだそうだ。


天候の変化がないというのは、野営する側からすればありがたいのかもしれない。

……って、テントの話になって話題が逸れたね。

問題は、この異次元そのものがあまり広い空間ではないということだ。

元々数キロ程度しかない世界の中へ、三か国から大勢の人間が押し寄せている。


宿営地の中を少し歩くだけでも必ず誰かとすれ違うし、視線を向ければどこかしらに人の姿がある。

どこかへ行こうとすれば、ほぼ確実に誰かの目に入ると思っていい。

つまり一人になりたくても、そう簡単にはなれない。

この宿営地で唯一あまり人が寄り付かなそうなのは、さっきの『休憩所』くらいだろうか。


あとは、ここから離れたモンスターの生息地くらい。

もちろんどちらも、一人になりたいからと気軽に向かうような場所じゃない。

「…………。」

改めて周囲を見回してみる。


本当に人、人、人。

三か国の人間が一つの場所へ集まっているのだから当然なんだけど、しばらくは常に誰かの視線がある生活になりそうだ。

設備については想像していたよりずっと快適。

その代わり、プライバシーについてはほぼ皆無。

どうやらこの異次元での生活は、思っていたのとは少し違う意味で大変になりそうだった。


「ねぇアイラ。怪しい行動をしてるヤツらがいるわ。」

「……どこ?」

突然シルフが私の耳元へ顔を寄せ、小さな声で囁いてきた。

その声色から冗談ではないと察して、私も視線を動かさないまま小声で聞き返す。


「右の方。明らかに人の目を気にして離れていく三人組がいるわ。」

右側に怪しい三人組ね。

直接見たい気持ちはあるけど、ここで露骨に顔を向ければ逆にこちらを警戒されるかもしれない。

班の皆と周囲を散歩している振りを続けながら、どうするべきか考える。

もし本当に怪しい人達なら、こんな場所で何をしようとしているのか知っておきたい。


「こっそり追おう。……ちょっと用事ができちゃった。夕飯までには戻るからまた後でね。」

「はーい、行ってらっしゃい。気をつけてね。」

「ありがとう。行ってきます。」

班員の皆へ軽く手を振り、そのままシルフとドライアドを連れて歩き始めた。


その怪しい三人組が何をするつもりかは分からない。

しかしきっとこれから何かが起こる。

そんな不確かな予感を私は感じていた。

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