それぞれの思惑⑫
「リリーナいつもありがとう。あなたがいると助かるわ。」
「どういたしまして。私もこういうのは嫌いじゃないので役に立てて嬉しいですよ。」
ティナさんからお礼を言われたリリーナさんは、涼しい顔で微笑んでいる。
これは完全にうちの班の委員長タイプだね。
班だからこの場合は班長かな?
正直別にどっちでもいいんだけどね。
私も受け取った識別タグを失くさないように腕に付けてから、紙に書かれた資料へ目を落とす。
異次元内部の地理と、私達が利用するテントの位置が記載されているらしい。
「向こうは結構狭い場所なんだね。」
セリーちゃんが資料を眺めながら呟いた。
「そうなの?」
私にはさっぱり分からない。
紙の上には地形らしきものと一緒に、所々へ謎の記号が書き込まれている。
魔道具を作っているだけあって、セリーちゃんはこういうものから距離や大きさを読み取れるみたいだ。
たぶん所々にある謎の記号が大きさを表しているのかな。
教えてもらったところ、異次元といっても全長にして数キロ程度しかない空間らしい。
異次元と聞いていたから、もっと果てしなく広い世界を想像していた。
それなら確かに狭いと言ってもいいのかもしれない。
「だけど、日に日に空間がほんの少しずつ広がってるらしいです。」
「え?」
それまで静かに話を聞いていたアサシンさんが、小さな声で教えてくれた。
今の情報、かなり重要じゃない?
日に日に異次元そのものが広がっている。
その話を聞いた瞬間、昔の記憶が頭の中から引っ張り出されてきた。
確かそんな設定があった。
レイディアントの力が強まるにつれて、新しい世界が少しずつ構築されていく。
今の話は、まさにその設定と一致している。
「…………。」
ゲームの設定として知っていたことが、今この瞬間にも現実で進行している。
つまりレイディアントが逃げ込んだ異次元は、今も少しずつ広がり続けているんだ。
どうやら私達が向かおうとしている場所は、思っていた以上に特殊な空間みたい。
時間が来て、ようやく私達の班の順番になった。
案内された場所には、今まで見たことのない不思議な形をした巨大な機械が設置されている。
「これが異次元への入り口……。」
概念的には、八芒星を描くように配置された八本のアームから絶えず何らかの力が発せられ、空間そのものに穴を開けているように見える。
さらに八本のアームが開いた穴の縁を掴み、そのまま閉じないように固定しているといったところだろうか。
実際にどういう原理で動いているのかは私にも分からない。
『ポータル』が地面へ魔法陣を描いて目的地へ移動するものだとすれば、この機械は空間そのものへ横穴を開けているような状態だ。
その穴の向こう側には、うっすらと荒廃した台地が見えている。
確かにあそこは、今私達がいる世界とは別の場所なのだろう。
「おぉ………?」
「なんか変な感じね。」
真っ先に装置へ食いついたのはドライアドとシルフだった。
二人とも興味津々といった様子で、八本のアームと空間に開いた穴を交互に眺めている。
「これ、魔道具じゃないね。どういう原理なんだろう。」
そこへセリーちゃんまで加わった。
次元移動装置の前で少し姿勢を屈め、あちらこちらからまじまじと観察している。
魔道具作りでは天才コンビとも言える精霊とペドラーでも、見ただけでは原理が分からないらしい。
まあ、すぐに見て分かったらそれはそれで怖いんだけど。
「あちら側が見えてるんですね。」
「不思議です。」
「こっちの世界では見ない植物が生えてるそうですよ。」
「趣味が悪い……。」
ピュアさん達は機械そのものよりも、穴の向こうに広がっている異次元の風景が気になるようだ。
確かに荒れ果てた大地が広がっていて、こちらの世界では見慣れない植物らしきものも生えている。
ドライアドの感想は随分と辛辣だったけど、植物を司る精霊からすると気に入らない景色なのかもしれない。
「今から全員に次元移動を安定させる水を噴出しますので浴びてください。もしこれを受けずに次元移動した場合は最悪の場合、消滅しますので必ず守ってくださいね。」
「消滅……。」
安全に利用できる装置だと聞いていたけど、さらっと怖いことを言われた。
「安全性は担保されていると聞いていても怖いですね。」
ティナさんも同じことを思ったらしく、次元移動装置と、その近くに設置されている水を噴出するための装置をまじまじと眺めている。
確かに失敗した時の結果が消滅と言われたら、いくら安全だと言われても緊張するよね。
そこで私は、あることに気付いた。
「精霊への影響は? 使った記録とかはありますか?」
「残念ながらありません。」
調査隊の人から返ってきたのは、予想していた中でも一番困る回答だった。
人間が安全に使えることは確認されていても、精霊が同じとは限らない。
シルフとドライアドは私達人間とは全く異なる存在だ。
「そうなるとおいそれと二人には使えないね。一旦、私が先に入るから召喚できるか試して良い?」
私の勘では、二人を向こうへ喚べるはずだ。
ゲームでも異次元へ移動した後に精霊を召喚できていた。
現実になったこの世界でも同じとは限らないけど、少なくとも精霊への使用実績のない装置へ二人を直接通すよりは安全だと思う。
「それが安全かしらね。」
「異議なし。」
シルフとドライアドも素直に頷いた。
次元移動装置を使ってみたいとか言ってこなくて良かった。
好奇心を出されても、さすがに今回ばかりは許可できないからね。
「アイラちゃんの着眼点は良いね。参考になるなぁ。」
「そう?」
セリーちゃんが私を見ながら、ふむふむと何かに納得したように頷いている。
私からすればゲームのデバッグと似たようなものなんだけど、この世界の人達とは少し感覚がズレているらしい。
実績がないなら、まず安全そうな方法から試してみる。
前世では当たり前にやっていた考え方が、こういうところで役に立っているのかもしれない。




