それぞれの思惑⑪
四人の挨拶が終わったところで、今度は私の番だ。
私は軽く頭を下げる。
「アイラです。皆さん、よろしくお願いします。」
「ちっちゃーい。」
「おぉ~本物だ。」
「本当にセリーちゃんと同い年なのよね?」
「かわいい……。」
「…………。」
何だか初対面の人達に好き勝手言われてる気がする。
少なくとも最初の感想が私の身長については聞き逃さなかった。
確かにセリーちゃんと並べば私の方が小さいけどさ。
それに本物って何。
偽物のハイサモナーでも出回ってるの?
「皆、アイラちゃんに会えるの楽しみにしてたからね。」
「それは嬉しいけど……。」
もう少し普通の反応をしてほしかったな。
伝説のハイサモナーなんて言ってた割に、実物を見た第一声が「ちっちゃーい」なのは何とも言えない気持ちになる。
まあ、怖がられたり距離を置かれたりするよりはずっと良いけどね。
少なくとも悪意があって言っているようには見えない。
むしろ皆から向けられている視線は好意的だ。
そんな私達の自己紹介が一段落したところで、今度はシルフが前へ出た。
「シルフよ。あたし達もよろしくね。」
続いてドライアドも私の隣からひょこっと顔を出した。
「ドライアド。楽しもうね。」
「楽しむって……。」
私達がこれから行くのは魔王を倒すための戦場なんだけど。
だけどドライアドはまったく気にした様子もなく、いつもの調子で笑っている。
そんな二人の姿を見て、四人もそれぞれ挨拶を返してくれた。
これから同じテントで生活する六人と、そこにシルフとドライアドを加えた面々。
まだお互いのことはほとんど知らない。
それでも最初の顔合わせとしては、悪くない雰囲気なんじゃないかな。
少なくとも、さっき広場で見たような険悪さはここにはない。
短い間とはいえ、一緒に生活することになる人達だ。
できることなら皆と仲良くなりたいね。
「これからどうしたら良いの?」
一通り自己紹介が終わったところで、ドライアドが皆の顔を見回しながら尋ねた。
そういえば顔合わせに夢中ですっかり忘れていたけど、私達はこれから異次元へ向かわないといけないんだった。
「まずは異次元に侵入するところからですね。シン共和国の技術で人が通れるようになってるそうなので行ってみましょう。」
ドライアドの質問に答えたのはティナさんだった。
ほうほう。
今回、異次元の調査が上手く進んだのはシン共和国の功績だったんだね。
ゲームでは当たり前のように異次元へ移動していたから、どうやってそこへ行けるようになったのかなんて考えたこともなかった。
それで連合軍司令官もシン共和国の人間になったのかな。
今回の件で大きな功績を挙げた国なのだとすれば、連合軍の指揮を任されていても不思議ではない。
「異次元に行くなんて精霊でもできないのにどうやって……。それこそ女神様でもないと難しいはずなのに。」
シルフが不思議そうに首を傾げる。
精霊でも難しいことを、人間の技術で実現したということに疑問を覚えたようだ。
シン共和国の成り立ちを知る私からすれば特段、不思議なことは無いんだけど他の人には想像すらできないことをやっている感覚なのかもしれない。
「女神ガイア様はそのようなことまでできるのですね。あぁ……さすが全知全能なる我らの母。もしかしてシルフさんは女神ガイア様にお会いしたことが?」
「わっ。ええ、女神様ならできるわ。それと精霊は生まれた時には必ず女神様とお会いしてるの。」
突然横から食い気味に入ってきたピュアさんに、シルフが驚いている。
さっきまで優しいお姉さんという印象だったのに、女神様という単語が出た途端に目の輝きが変わった。
プリーストなだけあって、敬虔なガイア教の信徒なのだろう。
ちなみに私達は、精霊が生まれた時どころか実際に女神様とお会いしたこともある。
シルフはその辺りを話すつもりはないらしく、彼女に伝えても問題なさそうな情報だけを綺麗に抜き出して答えていた。
「と言うことはドライアドさんも。あぁ、ありがとうございます。」
ピュアさんが今度はドライアドへ向き直り、祈るように両手を組む。
「私にお祈りしても女神様とは関係ないよ?」
ドライアドが困ったように首を傾げた。
うん、その通りだと思う。
ドライアドに祈ったところで女神様へ届くわけじゃないよね。
「ご、ごめんなさい。ピュアは女神様のことになるとおかしくなる時があって……。」
「しばらくすれば落ち着くから慣れてねアイラちゃん。」
「そうなんだ……覚えておくよ。」
ティナさんとセリーちゃんから、まるでいつものことだと言わんばかりの説明を受ける。
あちらを諫めるのではなく、私に「慣れてね」と言う辺り、もう他の皆は諦めたということね。
了解です。私も皆に合わせます。
「あぁ、女神ガイア様……。」
まだドライアドへ祈っているピュアさんから、そっと視線を逸らした。
「その話よりも私達の移動予定時刻ですが、まだ一時間半もあるようですよ。所用がある方は今のうちに済ませた方がいいです。あ、こちらが私達の班番号です。全員分の識別番号が入った物になっているので失くさないように。」
そう言ってリリーナさんが、私達へ必要な物を配り始める。
「え、いつの間に?」
渡された物を受け取りながら、思わず聞いてしまった。
だって私達はさっきまで自己紹介をして、そのままここで話していたはずだ。
その間にリリーナさんは班の申請を済ませ、必要な資料と識別タグを受け取り、そのうえ異次元への転送時間まで確認してきたらしい。
第一印象通り、この人は本当にシゴデキみたいだ。
恐ろしく早い行動、私でも見逃しちゃうね。




