それぞれの思惑⑩
その後、騎士団の人達と話があると言ってクレスは去っていった。
去り際に見えた耳が、ほんの少しだけ赤くなっていた気がする。
シルフとドライアドにからかわれたのが、そんなに恥ずかしかったのかな。
真面目なクレスだから、ああいう冗談には慣れていないのかもしれない。
クレスを見送った私達は、その場で輪になるように集まった。
すぐに移動しなければならないわけでもないので、これからどうするかなどを話しながら皆で談笑する。
すると何故か、
「ふふ、あははっ。」
「はーーーっ。さいっこうだったわね。」
シルフとセリーちゃんが、お腹を抱えながらケラケラと笑っていた。
二人ともひーひー言っている。
何がそんなに面白いんだろう。
私が知らない間に、そんなに面白いことでもあったのかな。
「クレスさんの顔、面白かったね~。」
「何がそんなに面白かったの。」
確かに驚いてはいたけど、あそこまで笑うほど変な顔をしていただろうか。
私には普通に驚いているようにしか見えなかった。
「アイラがこれなのも味わい深い。」
そこへドライアドまで参戦してきた。
三人だけで何かを理解しているらしく、いよいよ私だけが蚊帳の外になってしまった。
「アイラちゃんって天然で純情を弄んじゃうタイプなんだ。」
「サジタリウスでもこんな感じよ。まぁアイラ側の事情もあるんだけどね。」
「???」
サジタリウスで何かあったっけ。
それに私側の事情って何だろう。
二人が何の話をしているのかさっぱり分からず、私は首を傾げる。
もしかしてシルフ、私の知らないところで勝手に個人情報を漏らしてる?
私とずっと一緒にいるシルフなら、他の人には話していないことも色々と知っている。
さすがに変なことは言わないと思うけど、ちょっと心配になってきた。
「へー、今度二人っきりの時に教えて。」
「良いわよ。こういう話できる友達がいなくて残念に思っていたのよ。」
「ぜひ! そのうち招待するね。」
何やら私を置いて話がどんどん進んでいる。
シルフも楽しそうだし、セリーちゃんも随分と乗り気だ。
「私も呼んで。」
ドライアドまで参加するつもりらしい。
だったら私も仲間に入れてもらおう。
「じゃあ私も参加しようかな。」
「ダメダメ、これはアイラちゃんには聞かせられないから。」
「そうよ。大人の女性の話なの。」
「ん?」
大人の女性向けの話を私には聞かせられない?
今もしかして子供扱いされました?
かっちーん。それはさすがに怒っちゃうよ。
確かに見た目だけなら三人より小柄かもしれないけど、私だって立派な大人なんだからね。
いや、でも待てよ。
ここでムキになって怒ったら、それこそ子供っぽく見えるんじゃないだろうか。
子供扱いされたからといって感情的にならず、余裕を持って受け流す。
それこそが大人の女性というものでは?
よし、ここは大人の余裕を見せることこそ肝要だよね。
私は少しだけ姿勢を正す。
そして髪をさらりと払いながら、できる限り余裕のある笑みを浮かべた。
「ふふ、そんなことで盛り上がるなんてまだまだ子供ね。」
決まった。完璧だ。
しゃらんとした優雅さで、大人の女性であることを存分にアピールしてあげた。
これなら誰も私を子供扱いなんてできまい。
「大人はそんな対応しないから。そうやって気にしてませんよって態度で気にしてるところが子供っぽいわよ。」
「何でそんなこと言うのー!こら~シルフー!」
せっかく大人の余裕を見せてあげたのに!
私が捕まえようと手を伸ばした瞬間、シルフがひらりと宙へ舞い上がる。
「追えるものなら追ってみなさい。べー。」
「降りてきなさーい!」
シルフは私の手が絶対に届かない高さまで逃げると、こちらへ向かって舌を出した。
ズルいよシルフ。空を飛べる相手なんて追いかけられるわけがないじゃない。
私が地上から手を伸ばしている間にも、シルフは楽しそうに空中を飛び回っている。
「あはは。」
「くすくす。」
振り返れば、セリーちゃんとドライアドはそんな私達を楽しそうに笑って見ていた。
「二人とも笑ってないでシルフを捕まえるの手伝ってよ!」
どうやら私が大人の女性だと認めてもらうには、まだまだ時間が掛かりそうだった。
「こちらがお友達のアイラちゃんだよ。」
同じテントで過ごすことになった四人との顔合わせは、セリーちゃんの紹介から始まった。
私のことは既に話してあるらしく、四人から一斉に視線が向けられる。
こうして知らない人達に注目されると、ちょっとだけ緊張するね。
「はじめましてアイラさん、ピュアです。よろしくお願いします。」
最初に挨拶してくれたのは、私と同じ銀髪をしたプリーストの女性だった。
柔らかな笑顔と落ち着いた雰囲気。
いかにも優しいお姉さんという風貌をしていて、何だか見ているだけで甘えたくなってしまう。
プリーストという職業も合わさって、包容力という言葉がよく似合いそうな人だ。
「リリーナです。短い間になりますが仲良くしてください。」
続いて挨拶してくれたのは、栗色の髪をしたマーチャント。
こちらはピュアさんとは対照的に、鋭く尖った目付きをしている。
背筋もぴんと伸びていて、シゴデキ感が凄い。
マーチャントという職業も妙に納得できる。
実際にどんな人なのかはまだ分からないけど、少なくとも仕事をお願いしたら完璧にこなしてくれそうな第一印象だ。
「ティナと申します。伝説のハイサモナーに出会えるなんて光栄です。」
三人目は金髪のロードナイト。
騎士という職業からもっと堅い人を想像したけど、ティナさんから感じる印象は随分と柔らかい。
穏やかな表情を浮かべていて、話し方も丁寧だ。
ただ、その健康的な肉体を見る限り、戦闘になれば相当に動けそうだね。
体力もありそうだし、頼りになりそう。
「よ、よろしくお願いします……。」
最後に挨拶してくれたのは、ピンク色の髪をした小柄なアサシン。
先ほどから少しだけ他の三人の後ろに隠れるようにしていたけど、順番が回ってきたことで意を決したように頭を下げた。
声も小さく、何だかおどおどしている。
ちょっと恥ずかしがり屋なのかな。
アサシンという職業から受ける印象とは随分違う。
もちろん職業と性格が一致する必要なんてないんだけどね。




