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それぞれの思惑⑨

「さっきのカッコ良かったですよ。」

解散の流れになったところで、私は隣にいるクレスへ声を掛けた。

先ほど三か国の人達が言い争いを始めた時、真っ先に大剣を地面へ突き刺して場を制した姿。

同じゾディアック王国の人間として、素直にカッコいいと思った。


「そ、そうか? そんなこと無いと思うが……。」

「あれ、どうかしました?」

クレスは何故か私から顔を逸らし、あっちを向いてしまった。

もしかして馬鹿にされたように感じさせちゃったかな。


私は普通に褒めたつもりだったんだけど。

「アイラー! もう降りてきても良いわよね?」

「待たされて退屈だった。」

上から声が聞こえたと思った直後、待機していたシルフとドライアドが降りてきた。


そのままドライアドが一直線に私のところまでやってくる。

「わわっ、ドライアド。急に抱きついたらダメだよ。」

着地するなり抱きついてきたので、少し驚いてしまった。

最近のドライアドはやたらと私に抱きついてくる。


前はキス魔だったけど、最近はハグ魔になっている。

どうやら長い話を聞かされている間、暇で仕方なかったようだ。

「だって、話長い。」

「ごめんごめん。二人ともお待たせ。」


「話が長かったのはアイラのせいじゃないんだから仕方ないじゃない。」

事実ではあるけど、そう言ってもらえると助かる。

私だって好きで長話を聞いていたわけじゃないからね。


「さっきの話は後で共有するね。」

「要らないわ。全部聞こえていたもの。」

「え、そうなんだ。ドライアドも?」

「興味ない。」

「そ、そう。話が早くて助かるよ。」


ドライアドは聞こえていたのかどうかすら答えてくれなかった。

まあ、興味がないなら仕方ない。

それにしても、二人が待機していたのは二十メートル以上も上空だったはず。

普通なら会話がはっきり聞こえるような距離じゃなかったと思うけど、何かしたのかな。


シルフの力にはそういうことができるものもあるのかもしれない。

「近くにいてよければドライアドも拗ねなかったでしょうに。」

「仕方ないでしょ。あんな厳格な場に二人を並ばせる場所なんてなかったんだから。」


そんな会話をしていると、

「アイラちゃーん。お久しぶり。」

よく知った声が私の名前を呼んだ。

声のした方へ振り向けば、さっき後ろの方から手を振ってくれていたセリーちゃんが、こちらへパタパタと走ってきている。


「お久しぶり。セリーちゃんも参加してたんだね。」

「うん。私にも召集がかかってね。でもまさかアイラちゃんとこんな近くになるとは思わなかったよ。」

近くまでやってきたセリーちゃんが笑顔を浮かべる。

そして私の隣にいるクレスへ視線を向けた。


「クレスさんもお久しぶりです。」

「ああ、久しぶりだなセリー。そちらも元気そうで何よりだ。」

二人が顔を合わせるのは、レオでの失踪事件以来なのかな。

あの時はナイトとマーチャントだった二人が、今ではグランドナイトとペドラーかぁ。

随分と変わったものだ。


かく言う私も、あの頃とは違って今ではハイサモナーなんだけどね。

「いやー、発明ばかりで戦闘実績がない私がペドラーに選ばれるなんて光栄でした。」

セリーちゃんが少し照れたように笑う。

「それだけ凄いものを作ってるってことだよ。」


実際、セリーちゃんの発明品はうちでも大活躍している。

戦闘実績が少なくても、それだけの功績が認められたということなのだろう。

「しかし、そのせいでこの連合軍に参加させられているから良いことばかりではないな。」

「ははは……。」


セリーちゃんが苦笑する。

私は少し意外に思いながらクレスを見た。

クレスがそんなことを言うんだ。

もっとこう、祖国のために今こそ一丸となって戦おう、みたいなことを言うタイプだと思ってた。


だけど考えてみれば、クレスは昔から弱い立場の人にもちゃんと寄り添える人だ。

本人が望んでいないのに戦場へ来ることになったセリーちゃんへ、こういう気遣いができるということなのだろう。

何だか、ますますクレスの好感度が上がった気がする。


「それよりアイラちゃん、同じテントに来てくれない? 冒険は別で良いから。」

「え、行く行く!」

どうしようか悩んでいたところなので願ってもない提案だ。

私は二つ返事で了承した。

知らない人達の中に一人で入る可能性も考えていたけど、セリーちゃんが一緒なら安心できる。


「他のメンバーは決まっているのか?」

クレスが尋ねる。

「ええ、私の知り合いの子が四人いるので六人揃ってますよ。」

「それは私が混じっても大丈夫なの?」


既にセリーちゃんを含めて五人いるということか。

そこへ私が入ればちょうど六人になる。

だけど、他の四人からすれば知らない人間が急に混ざってくることになるよね。


「皆も伝説のハイサモナーと一緒のテントになれたら光栄だって言ってたよ。」

「そんなありがたい存在じゃないと思うけど。」

何だか私の知らないところで評価が大変なことになっている。

私としては、普通に同じテントで寝泊まりするだけなんだけどな。

そんなことを考えていると、シルフが突然クレスへ顔を向けた。


「金髪。あんたもしかしてアイラと一緒のテントがよかったの?」

「ぶっ。」

クレスが吹き出した。

シルフは突然、何を言い出すの。


「何を言ってるのシルフ。騎士団所属なんだから仲間と一緒に決まってるじゃない。」

「いや、そんなことより未婚の女性が男性と同じ一室で夜を明かすなんて問題があるだろう!」

クレスが慌てて否定する。

確かに貴族的な価値観だとそうなるか。

二人っきりならともかく、他にも人がいる状況なら私としてはそこまで気にしないけど。


「あ、それくらいは他の子がいるなら大丈夫ですけど……。そういえばセリーちゃんの知り合いの中に男性はいる?」

「なっ!?」

私がセリーちゃんへ確認すると、何故かクレスが声を上げた。


「ううん、いないよ。」

「いないのか……。」

セリーちゃんの返事を聞いたクレスが、小さく息を吐いた。

すると私に抱きついたままだったドライアドが、クレスを見上げる。


「心配ならクレスが一緒のテントに入れば良い。」

「!?」

さっきから驚きすぎなクレスは置いといてドライアドにツッコミを入れておかないと。

「何言ってるのドライアド。それじゃ何も解決してないでしょ。」


男性がいるのを心配しているのに、クレスが入ったら男性が一人増えるじゃない。

「? してると思うけど。」

「?」

ドライアドが不思議そうに首を傾げる。


私も同じように首を傾げた。

お互いの頭の上に、大きな疑問符が浮かぶ。

何で解決すると思ったんだろう。

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