それぞれの思惑⑦
「連合軍司令官入場! ――礼!」
号令が広場に響き渡る。
それまで整列していた各国の人間が、一斉に頭を下げた。
私も周囲に合わせて頭を下げる。
「異国の人間風情が司令官ぶるなど偉そうに。」
「魔法も奇跡も使えん猿の分際でなぁ。」
「…………。」
私たちのすぐ後ろ。
ゾディアック王国の貴族達が並んでいる辺りから、周囲にしか聞こえない程度の声量で耳障りの悪い言葉が聞こえてきた。
今回の連合軍司令官は確かにシン共和国の人間だ。
だからといって、協力を要請している相手にその口ぶりは如何なものかと思う。
三か国が協力してレイディアントと戦おうとしている時に、味方同士でそんなことを言ってどうするの。
そういうのは士気にも関わるんだから、せめてこっちにも聞こえないようにしてほしい。
頭を下げたまま横をちらりと見る。
クレスが周囲から見えないよう、僅かに眉を潜めていた。
相当に不愉快そうだ。
真面目なクレスからしたら、こんな大切な場で他国を侮辱する発言なんて許せないんだろう。
私は少しだけ手を動かし、すぐ隣にあるクレスの指へちょんと触れた。
「……?」
クレスの体が僅かに動く。
少し驚いたように目を開くと、頭を下げた姿勢のまま私を見る。
何事かと言わんばかりの視線。
私はそんなクレスに、にっと笑ってみせた。
私も貴方と同じ考えだよ。
口には出さず、表情だけでそう伝えておく。
ちゃんと伝わったのかは分からないけど、クレスの体から少しだけ力が抜けた。
そして小さく笑ってくれた。
「直れ!」
号令と同時に全員が頭を上げる。
私も姿勢を正し、真っ直ぐ前を見た。
広場の前方に設置された高台。
そこには司令官服を身に着けた長髪の男性が立っている。
「…………。」
この人の名前、何だっけ。
見覚えはある。
間違いなく知っている人物だ。
ただゲームではちょい役で出てくるだけの人なので、名前がどうしても思い出せない。
ちなみに三国同盟の現在の関係性を憂いている、数少ないまともな権力者の一人だ。
名前を忘れたことは申し訳ないけど、彼の名誉のためにこれだけは伝えておく。
そんな司令官から、そこからみっちり三十分ほど説明を聞かされた。
前世で聞いた校長先生の朝礼よりも長い。
とはいえ話している内容は大切なことばかりなので、ちゃんと聞いておく。
レイディアントが逃げ込んだ異次元がどのような環境なのか。
そこにはどんなモンスターが出現し、それぞれどのような特性を持っているのか。
先遣隊がキャンプを設営した場所の環境について。
そして調査の結果、レイディアントが潜んでいる可能性の高い洞窟を発見したこと。
ただし、その洞窟内部に出現するモンスターは周辺に生息する個体よりも格段に強く、現在も十分な調査を進められていないらしい。
そこで私たち連合軍の任務となる。
件の洞窟を調査し、内部に存在するモンスターを殲滅。
安全を確保しながら奥へ進み、レイディアントの所在を突き止めるといった内容の共有を受けた。
全て知ってる内容の話ではあったものの、私の知る情報と齟齬がないことに安心を覚えた。
少なくともここまではストーリー通りに進行している。
正式な手順を踏めば大きな犠牲を出さずに解決に向かうはずだ。
「以上が作戦の概要となる。これより質疑応答の時間を設ける。何かある者はいるか。」
司令官の言葉と共に、今度は質疑応答の時間が始まった。
最初に手を挙げた人物が問い掛ける。
「駐屯地での食住についてはどうなっていますか。」
おお、それは確かに大事だ。
戦いに関することばかり考えていたけど、向こうで生活する以上は食事や寝床も重要になる。
「一テント六人組の班として行動してもらう。調査は気心知れた者とだけで良いが、食事の順番とテントの利用だけはこの六人組で必ず行うように。基本は男女を分けるが、仲間同士で一緒に行動したいなどの事情があれば申請してくれれば同じ組にする。」
なるほど。
基本的には男女で分けてくれるなら色々と安心だ。
元々一緒に活動している仲間など、男女混合でも同じテントを使いたい事情がある場合には申請すれば配慮してくれるらしい。
その辺りは柔軟に対応してくれるみたいだし、良いんじゃないかな。
続いて別の人物から質問が飛ぶ。
「六人集まらなかった場合に、他国の人間と組まされることはあるのでしょうか。」
ん? 流れ変わったな?
さっきまで純粋に駐屯地での生活について質問していたはずなのに、雰囲気が変わった。
「場所に限りがあるので、そうしている。これを機に他国との交流も深めてくれ。」
司令官が答えた瞬間だった。
ざわざわ。
先ほどまで静かだった広場のあちこちから、喧騒が聞こえ始める。
「横暴だろう。」
「ゾディアック王国の原始人と一緒のテントに……?」
「神政国家ストレリチアのような異教徒と食事を?」
「シン共和国って魔法が使えないから、機械とかいう邪な道具を使わないと生きていけないんでしょ?」




