危うい冒険心⑦
◇
帰りは来た道をゆっくり戻る。
せっかく怪我をしないよう慎重に歩いてきたのだから、最後で転んだら笑えない。
「家に帰る前に手も洗いたいよね。」
石を握っていたせいで、手に土汚れが付いている。
町へ戻る前に湖で手を洗おう。
そんなことを考えながら、森の小道を歩いていく。
「この道を選んで正解だったみたい。」
思わず頬が緩む。
まさか本当に誰ともすれ違わないなんて思わなかった。
いきなり石がふわっと宙に浮いたり、スライムが何もない空間で弾け飛んだりしたら、誰だって悲鳴を上げる。
「変な噂が立ったらやりづらくなるもんね。」
一人で何度も頷いていると、ようやく木々の隙間から町の外壁が見えてきた。
森の出口だ。
「今日は大冒険しちゃったし、夕方までゆっくり休もう。」
そう思っていた。
――だけど。
ざわざわ……。
町へ近付くにつれて、人々のざわめきが耳へ届いてきた。
冒険者も町の人たちもどこか殺気立っていて、普通じゃない空気が漂っている。
何事かと思い、近くにいた冒険者たちの会話へ聞き耳を立てた。
「何があったんだ?」
「子供が門番の目を離した隙に町の外へ出たらしい!」
「入口から真っすぐ来たなら、ここを通るはずじゃ?」
「誰も気付かなかったのか?」
「草むらに隠れて抜けていったみたいだ。」
「まさか、『深い森』まで入ったんじゃないだろうな!?」
心臓がどくりと跳ねた。
まさか、私が町の外へ出たことがバレた?
一瞬、自分のことかと思って血の気が引く。
「どんな子なの?」
「七歳の男の子だ。カイって名前らしい。」
知っている。
好奇心旺盛で、やんちゃな男の子だ。
「なんて無茶を……。」
泣いているカイ君のお母さんの周りへ、冒険者たちが次々と集まっていた。
それぞれが武器を手に取り、地図を広げ、捜索範囲を確認している。
捜索隊を編成して森へ向かうつもりなのだろう。
町の近くなら、まだ穏やかなモンスターしかいない。
けれど、その先――。
『深い森』には、好戦的なモンスターが数多く生息している。
子供が一人で生き残れるような場所じゃない。
もし、本当にそこまで入り込んでしまっていたら――。
『サジタリウスの深い森』。
そこには二体の強力なモンスターがいる。
ゲームサービス開始当初、多くのプレイヤーへトラウマを植え付けた悪魔型モンスター『辻斬り』。
そして、チェシャ猫のような見た目をした動物型ネームドモンスター『深い森の主』。
どちらも、一次職が何人集まっても勝てるような相手じゃない。
「……早く見つけてあげないと。」
冷静な判断もないまま、私は深い森へ向かって駆け出していた。




