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アイラ先生のムキムキパワーレベリング⑰

ムスペルは北欧神話に出てくる火の巨人の名前だ。

本来は固有名詞だけどこの世界では識別名になるのかな。


じっくり観察をしてみてもムスペルは殆ど動かない。

何か目的があって動いているわけではなさそうだ。

試運転、もしくは活動時間などの調査?

もしかしたら近くにストレリチアの人間がいる可能性がある?


「あいつの体から凄い火の元素を感じるよ。」

ドライアドがムスペルを見ながら呟いた。

「火の元素……。」

その言葉で、下層へ来た時にシルフが言っていたことを思い出す。


この辺りは自然界にしては異常なくらい火の元素が強い。

その原因がムスペル?

十分に考えられそうではある。

ただ、ムスペルそのものが原因とは限らない。


あれが人造兵器である以上、どこかにムスペルを生み出している装置がある可能性も考えられる。

もしその装置が火の元素を大量に集めているのだとすれば、この辺り一帯の異常にも説明がつくかもしれない。

もちろん今の段階では何も分からない。

このことは念のため記憶しておこう。


どちらにしても、今ここで確かめるつもりはない。

あいつは本来、パーティで倒すことを前提にしたモンスターだ。

今の私たちだけで戦うのは自殺行為に等しい。

もし戦うのであれば、少なくとも水属性を扱えてタンク性能も持っているウンディーネは絶対に欲しい。


だから今やるべきことは一つ。

「気づかれる前に逃げるよ。」

私は腰に下げていた冒険者のお守りへ手を伸ばした。

昔、ルカさんから貰ったものだ。


一度使うと魔力が再び溜まるまで数日は使えなくなる。

だから普段なら簡単には使わない。

でも、今が使うべきタイミングだと判断した。

ここで温存してムスペルに見つかれたら本末転倒だ。


「私が先に街に戻る。すぐに召喚するから二人は絶対に大人しくしててね。」

「分かったわ。」

「アイラの言うとおりにする。」

二人とも良い子だ。


ムスペルへ突っ込んでいくなんて言い出さなくて本当に助かる。

私は冒険者のお守りに手を触れ、その力を発動させた。

直後、ふわっと体が光に包まれる。

視界の端から洞窟の景色が崩れるように消えていき、一瞬だけ空間が揺らいだ。


ぐるりと視界が回るような感覚に襲われる。

そして次に足元の感覚が戻ってきた時には、もう火山の中ではなかった。

「……着いた。」

まだピントの合わないぼやけた視界が、少しずつ鮮明になっていく。


見慣れ始めた街並みが目の前に広がっていた。

無事に神政国家ストレリチアへ戻ってこられたみたいだ。

でも安心するのはまだ早い。

「まずはシルフとドライアドを召喚しないと。」


二人をムスペルの近くへ残したままだ。

すぐに意識を契約へ向ける。

「『サモンシルフ』。」

シルフへ繋がる糸を手繰り寄せる。


淡い光が私の隣へ集まり、輪郭を作っていく。

次の瞬間、光の中からシルフの姿が浮かび上がった。

「『サモンドライアド』。」

続けてドライアドへ繋がる糸も手繰り寄せる。


再び光が集まり、今度はドライアドの体が私の隣に現れた。

二人とも無事だ。

それを確認して、ようやく肩の力が抜けた。

「お疲れ様二人とも。」


「お疲れ様。」

「疲れた。」

ドライアドが素直な感想を口にする。

確かにこんなに長時間、三人で冒険したのは初めてのことだ。


朝からモンスターと戦い続け、上層から下層まで歩き回った。

疲れない方がおかしい。

ふと空を見上げる。

夕日は既に落ちかけていて、空は夜の始まりを知らせるように少しずつ暗くなっていた。


やっぱり思っていた以上に時間が経っていたみたいだ。

早く帰りたいけどその前に一つだけ釘を刺しておかないと。

「二人とも、さっき見た巨人については他言禁止。約束できる?」

「何かあるのね? 分かった、誰にも言わないわ。」


「ちゃんと黙ってる。」

「ありがとう。」

あんな人造兵器が火山の下層にいるなんて噂になれば、何が起きるか分からない。

ストレリチア側が戦争の準備を早めるかもしれないし、ムスペルをもっと分かりにくい場所へ隠してしまう可能性もある。


今は余計な刺激を与えたくない。

レイディアンの復活については上手く阻止することができなかったからこそ、メインストーリー上で解決できた事件については、ある程度正史通りの流れにしておきたいんだよね。

別に今すぐ何かをする必要はない。

それに何より、今は疲れてる。


今日一日だけでかなりの数のモンスターと戦ったんだから、ゆっくり休んでも良いはずだ。

二人にもちゃんと休んでもらおう。

「今日は頑張ったし、明日の冒険はお昼過ぎからにしようね。」

「午前中はどうするの?」


シルフが気になるという顔でこちらを見る。

「三人でゆっくりしよう。」

「やったー!」

真っ先に喜んだのはドライアドだった。


両手を大きく広げ、嬉しそうに声を上げる。

その隣ではシルフも言葉にはしないものの、羽をぱたぱたと動かしていた。

どうやらシルフも賛成らしい。

今日は十分頑張った。


レベルも上がったし、三人での連携も前よりずっと良くなった。

最後に予定外のものまで見つけてしまったけど、それについて考えるのはまた今度でいい。


明日の午前中くらいは、三人でのんびり過ごそう。

休む時は休んで、冒険する時は思いっきり冒険する。

こうして私たちのパワーレベリングは、順調に進んでいくのであった。

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