アイラ先生のムキムキパワーレベリング⑯
「アイラ、ドライアド、大量に連れて来たわよー!」
大フロアの奥からシルフの声が響いてきた。
声のした方へ目を向けると、猛スピードでこちらへ飛んでくるシルフの姿が見える。
そして、その後ろには赤々と燃える火の玉が一つ、二つ、三つ。
数えるのも面倒になるくらいのプロミネンスが、シルフを追いかけてこちらへ向かってきていた。
ざっと十体くらいかな。
「ヒヒヒ!」
「人間イル!」
「爆発スル!」
君たちは何体いてもブレないね。
シルフは追いつかれない程度の速度を保ちながら、綺麗にプロミネンスたちを一か所へまとめている。
さっきまで一体ずつ相手にして連携の練習をしていたけど、ストレリチアに来た本来の理由はレベリングだからね。
一気に倒して大量経験値ゲットもしておかなきゃ。
私は既に準備していた魔法を、シルフの通過した地点で発動させた。
「『ダイヤモンドダスト』。」
猛烈な冷気が前方へ広がった。
気温が急速に下がり、火山の中とは思えないほど冷たい空気が一帯を覆い尽くす。
それはそのままシルフを追いかけていたプロミネンスたちを纏めて飲み込んでいった。
「何コレ!?」
「寒イ、冷タイ、痛イ、苦シィ。」
赤い光が次々と白い冷気の中へ入ると自爆することもできずに消えていった。
「ざっとこんなものかな。」
手を叩く攻撃役の私。
「完璧だったでしょう。」
胸を張って戻ってくるトレイン役のシルフ。
「私も頑張った。」
そして万が一、プロミネンスがこちらまで抜けてきた時の防御役として待機していたドライアド。
幸い今回は出番がなかったけど、それも立派な役割だ。
誰か一人が失敗すれば危険な方法ではあるけど、今の一連の流れは三人とも見事に役割を果たせていた。
最初は慎重に戦っていたせいとはいえ何でも有りなら大したこと無かったね。
レベルも今日一日だけで十も上がった。
これなら十分すぎる成果と言っていいだろう。
「さてと、そろそろ街に帰ろうか。」
洞窟の中にいるから外の様子は分からないけど、潜り始めてからかなり時間が経った気がする。
もしかしたらもう夕方を過ぎているかもしれない。
レベルも上がったし、最後はプロミネンスをまとめて倒せてキリも良い。
今日の冒険はそろそろ終わりにしよう。
そう思って帰る準備を始めようとした時だった。
「アイラ、動かないで。」
「どうしたの?」
ドライアドの声に反射的に足を止める。
いつもののんびりした声とは少し違う。
ドライアドは近くにあった大きな火山岩へ身を寄せると、その横から向こう側をそっと覗き込んだ。
「何かあるなら、あたしが見てきて――ひゃあ!」
飛び出そうとしたシルフの足を、ドライアドが咄嗟に掴んだ。
突然足を引っ張られたシルフが空中でつんのめる。
「しっ、静かにしてて。……何か、いる。アイラも気づかれないように見て。」
「分かった。」
いつになく真剣だ。
私は声を落とし、ドライアドと同じように火山岩へ身を寄せた。
少しずつ顔だけを出して、恐る恐る向こう側を覗き込む。
そして、その姿を見た瞬間に息を呑んだ。
頭からつま先まで、全身が燃えている。
人間に近い形をしているけど、皮膚と呼べるものがあるのかすら分からない。
全身を覆う炎の先端では絶えず火花が弾け、パチパチと小さな音を立てていた。
体格は大きく、見るからに筋肉質。
腕も脚も太く、全身が力の塊みたいだ。
立ち姿も人間のように整っているとは言い難い。
少し前屈みになった原始的な姿勢からは、あまり高い知性を感じさせなかった。
何より、ただそこに立っているだけなのに妙な威圧感がある。
明らかに普通のモンスターではない。
初めて見る人でも、それくらいはすぐに分かるだろう。
私はその名前を知っている。
「『ムスペル』……。」
「誰よ、そいつ。」
「知らない。」
シルフとドライアドが揃って首を傾げる。
世界の知識を持っている二人が知らないのも無理はない。
あれは自然界から生まれたモンスターではないからだ。
『ムスペル』は神政国家ストレリチアの過激な人たちが生み出した、戦争用の人造兵器。
ゲーム時代から、この火山の下層に出現するネームドモンスターだった。
そして、その強さは三日前に戦ったリュカオンとは比較にならないほど。
少なくとも今の私たち三人が普通に戦ったら絶対に勝てないことは確実。
人間を見つければ見境なく襲いかかる危険な存在だけど、ストレリチアではムスペルをコントロールする方法を持っているらしい。
メインストーリーではムスペルの軍隊を作り、それを使って他国と戦争を起こそうとしていた。
つまり、ただモンスターがあそこにいるのではなくて、それを操る人間が近くにいる可能性もある。
「どうするのアイラ?」
シルフが小声で尋ねてくる。
「どうするもこうするも無いよ。ムスペルには手を出しちゃダメ。」
戦闘なんて論外だ。
今日のレベリングで二人はかなり成長したけど、だからといって何でも倒せるようになったわけじゃない。
戦ってはいけない相手を見極めることも冒険では大切だ。
私たちは息をひそめて様子を窺うことにした。




