アイラ先生のムキムキパワーレベリング⑮
ようやく自分の出番が回ってきたことが嬉しいのか、見るからに気合いが入っている。
シルフが突き出した掌の上へ魔力が集まり、激しい風が渦を巻き始めた。
最初は掌の上でくるくると回っていただけの小さな風だったはずなのに、急速に回転速度を上げていく。
周囲の空気まで巻き込み、いくつもの風の刃を内包した小型の竜巻へと成長していった。
シルフさーん? 弱めの魔法で大丈夫ですよ~?
プロミネンスは既にドライアドの『アースプレッシャー』と私の『アイスジャベリン』を受けて瀕死だ。
最後に軽く攻撃して倒すだけで良い。
そんな私の心の声など届くはずもなく、シルフは満面の笑みを浮かべながら両手を前へ突き出した。
「『ジェットハリケーン』!」
止める間もなかった。
両手から放たれた二つの小さな竜巻が、凄まじい速度でプロミネンスへ向かっていく。
『ジェットハリケーン』は小型の竜巻を高速で前方へ噴出し、無数の風の刃で対象を切り刻む魔法だ。
もちろん断じて、瀕死のモンスターへトドメとして使うようなスキルではない。
逃げる力すらほとんど残っていなかったプロミネンスへ、竜巻が直撃する。
「―――――!!!!!!!!!」
激しい風の音が洞窟内へ響き渡った。
空気そのものが震えているような轟音に、私は思わず目を細める。
何を言っているのかまでは聞き取れない。
だけど吹き荒れる風の音に混じって、何かの声が確かに聞こえていた。
多分、プロミネンスの絶叫だ。
風の刃を浴びせられながら、燃え盛る球体が竜巻の中で凄まじい勢いで回転している。
右へ左へ振り回され、時には上下までひっくり返されていた。
体そのものまでバラバラになってしまいそうだ。
それはやり過ぎだよシルフ。
言葉にはせず、心の中だけで諫める。
別にプロミネンスを庇うつもりはない。
さっきから自爆させようとしてくる危険なモンスターだし、倒すこと自体に躊躇する理由はないんだけど、それにしたって限度というものがある。
今のプロミネンスに必要だったのはトドメの一撃。
これはもうトドメというより過剰防衛だ。
やがて吹き荒れていた風が少しずつ弱まり、『ジェットハリケーン』が消えていく。
そこに浮かんでいたはずのプロミネンスの光も、完全に消滅していた。
しばらく警戒してみるものの爆発は起きていない。
自爆する暇すら与えず、完全に倒し切ったらしい。
どうやら見事な……見事な? 連携で倒し切ることには成功したようだ。
「ざまぁだよ。」
ドライアドがプロミネンスの消えた場所を見ながら呟く。
……ドライアド、お口が悪いよ。
相変わらずプロミネンスに対してだけ当たりが強い。
「あたしってばやっぱり完璧ね!」
一方のシルフは胸を張ってドヤ顔だ。
さっきまで落ち込んでいたのが嘘みたいな表情をしている。
ちゃんと倒せたし、攻撃を外したわけでもない。
プロミネンスに自爆させる隙を与えなかったという意味では間違いなく成功だ。
完全にオーバーキルだったけどね。
お口が悪いドライアドと、瀕死の相手に全力でトドメを刺してご満悦なシルフ。
どちらもあまり褒められたものではない。
とはいえ、ここで下手に注意してせっかく出てきたやる気を損なっても困る。
特にシルフは、上層では相性の悪いモンスターとの戦闘が続き、さっきまで自信を失って落ち込んでいたばかりだ。
ようやくいつもの調子が戻ってきたところで水を差す必要もないだろう。
今回は見なかったことにしよう。
それよりも聞いておきたいことがある。
「プロミネンスは一定時間で完全再生するの?」
精霊属には、実質的に死亡という概念がないはずだ。
致命的な傷を受ければ一時的に存在できなくなるけど、それで完全に消滅するわけではない。
シルフやドライアドだって、致命傷を受ければその場では存在を維持できなくなるものの、それが人間でいう死と同じ意味になるわけではない。
だとすれば、同じ精霊属に分類されているプロミネンスも時間が経てば復活するのだろうか。
もし短時間で完全再生するのなら、今のうちにここから離れた方がいい。
倒した相手が背後で復活して自爆してきました、なんて笑えないからね。
「するね。でも私たちのように契約しているわけじゃないから時間はかかるかも。」
ドライアドが答えてくれる。
「分からないけど、ここほど火の元素が強い場所でも数日はかかるんじゃないかしら。」
シルフも消滅したプロミネンスのいた場所を眺めながら答えた。
「数日かぁ。」
正確な時間まではシルフにも分からないらしい。
でも、それだけ分かれば十分だ。
少なくとも倒した直後にいきなり復活して、背後から自爆されるような心配はない。
その事実に少しだけ胸を撫で下ろす。
それに、数日単位で復活できないのであれば、今日ここで倒したプロミネンスが再び私たちの前へ現れる可能性も考えなくて良さそうだ。
安心してレベリングを続けられる。
「そんなことより次行きましょ。次はあたしから攻撃させて。」
シルフが待ちきれないとばかりに周囲を見回している。
さっきまで落ち込んでいたのが嘘みたいだ。
一匹倒しただけでここまで元気になるなんて、分かりやすい。
でも元気になってくれたのなら何よりだ。
「良いよ。シルフから攻撃してみようか。」
「任せなさい!」
今度は最初から自信満々だ。
次のモンスター討伐は、すっかり調子を取り戻したシルフに任せることにしよう。
それから一時間ほど。
下層を探索しながら、私たちは数匹のプロミネンスを狩ることができた。
最初の一匹ほど慎重になる必要もなく、戦う回数を重ねるごとに三人の攻撃を合わせるタイミングも少しずつ分かってくる。
シルフが先に攻撃してプロミネンスの注意を引き、ドライアドが動きを止める。
私が二人の攻撃に合わせて魔法を撃ち込むこともあれば、私が先に体力を削ってから二人にトドメを任せることもあった。
最初は攻撃のタイミングが微妙にずれることもあったけど、何度か戦えばお互いが何をしようとしているのか少しずつ分かってくる。
私が声を掛けなくてもシルフが次の攻撃を準備し、ドライアドがそれに合わせて動く。
逆にドライアドが拘束を始めれば、シルフもすぐに攻撃へ移れるようになった。
まだ完璧な連携とは言えない。
それでも最初の一匹と比べれば、随分と戦いやすくなっている。
こういう経験を積んでほしくてやってることでもあるので良い調子だ。
単純にレベルを上げるだけなら、シルフの魔法で飛び回って集めたところを、私の大魔法でまとめて倒した方が圧倒的に効率的だ。
しかし、いつもそれでは私たちが考えて戦う機会が減ってしまうので、多少の時間がかかっても今日みたいな戦い方を学ぶのは大事だと思う。
これから話すことも学びの一つだと思うのだけど。
そんな中、一度だけ本当に瀕死まで追い込んだプロミネンスから自爆を受けてしまった。
私たちの連携が少しだけずれて完全な止めを刺すことに失敗した隙をプロミネンスは見逃さず、これまでとは違う激しい明滅を始めた。
「二人とも気を付けて!」
反射的に身構える。
「爆発スルゥゥゥ!」
プロミネンスの体が強く輝く。
来ると思って身構えた次の瞬間、
パチパチッと火花が散って光が消えた。
「……えっ、これだけ?」
思わず拍子抜けしてしまった。
爆発というより、少し大きな火花が弾けただけだ。
近くにいた私たちまで火花を浴びたものの、服が焦げることすらない。
体のどこにも痛みはなく、もちろん火傷もしていなかった。
シルフとドライアドの様子も確認してみるけど、二人とも何ともなさそうだ。
自爆したプロミネンス本人は、そのまま光を失って消滅している。
私たちへの被害はほぼ皆無。
「本当に残り体力で威力が変わるんだ……。」
偶然だけど、自爆のについてもこれで確認できた。
どうやら自爆の威力が残り体力を参照するというのは、ゲーム時代と変わっていないと見て間違いなさそうだ。
体力が多く残っている状態で自爆されれば危険。
逆に十分なダメージを与えて瀕死まで追い込んでしまえば、自爆されても大きな危険はない。
もちろん、だからといってわざと自爆を受ける必要はない。
防げるなら防ぐに越したことはないし、今後もっと強い個体が出てきた時にも同じ結果になるとは限らない。
それでも実際に自分たちで戦い、自爆を受けたことで確かめられた情報には大きな意味がある。
ゲーム時代の知識が現実でも通用する。
また一つ、実戦で確認できる情報が増えた。




