アイラ先生のムキムキパワーレベリング⑬
下層へ足を踏み入れると、そこには上層とはまた違った光景が広がっていた。
足元を覆っているのは、黒く冷え固まった火山岩。
ただし全てが完全に冷えているわけではなく、よく見るとまだ赤く熱を持っているものが所々に落ちている。
少し離れた場所では赤々と輝く溶岩が今もゆっくりと流れている。
私たちは冷めきってない火山岩や流れる溶岩を避けながら、冷え固まった場所を選んで慎重に進んでいった。
「アイラ、そこ歩いちゃダメ。」
「えっ?」
踏み出しかけた足を慌てて止める。
見た目には周囲と同じ黒い地面にしか見えない。
だけどドライアドに言われてよく観察してみると、僅かに赤みを帯びているような気がした。
「そこ、まだ熱い。」
「危なかった……。ありがとう、ドライアド。」
「うん。アイラがケガするの嫌だから。」
見た目には普通に歩けそうでも、内部に熱を残していて完全には冷え固まっていない場所が至るところにある。
下手に踏み抜いたらどうなるのか。
想像したくもない。
その点、地の精霊であるドライアドには、どこが安全でどこが危険なのか感知できるらしい。
私には違いが分からない場所でも迷わず教えてくれるので、本当に助かっていた。
「こっちは大丈夫。」
「はい、先生。ついていきます。」
ドライアド先生の指導に従いながら、ゆっくりと先へ進んでいく。
そうなってくると面白くないのが、もう一人の精霊だった。
「うー……。」
シルフが不満そうな声を漏らしながら私たちの周りを飛んでいる。
上層で思うような活躍ができず、今度こそ汚名返上すると息巻いていたのに、下層へ来ても未だに出番がない。
むしろドライアドばかりが活躍している。
「さっさと何か出てきなさいよ。」
そんなことを言いながら前方を睨みつけているけど、唸ったところで都合良くモンスターが現れてくれるわけもない。
周囲には私たち以外に動くものすら見当たらなかった。
それにしても歩きにくい。
冷めて凝り固まった溶岩の上は意外とゴツゴツしていて、平坦な場所がほとんどない。
転んだだけでも怪我をしそうなのに、その周囲には今も高熱を放っている場所が点在している。
ただ歩くだけなのに気を遣う。
足元ばかりに注意を向けているせいで進む速度も遅く、下層へ入ってから大して前へ進めていなかった。
このままのペースでは、何のモンスターにも会えないまま帰る時間になってしまってもおかしくない。
さすがにそれは困る。
「仕方ない、私たちを浮かせてもらえる?」
「……うんっ! あたしに任せなさーい。」
途端にシルフの表情が明るくなった。
頼りにされたのが余程嬉しかったらしい。
それにしても今、「うんっ!」って言ったよね?
普段大人っぽさを気にするシルフが子供っぽい返事をするのは珍しい。
いつもなら絶対に「ええ」と答えていたはずだ。
子供返りするほど落ち込んでいたんだ。
気付いてあげられなくてごめんね。
心の中で謝っていると、シルフの魔法が私とドライアドの体を包み込む。
次の瞬間、足の裏が地面から離れ、体がふわっと宙へ浮き上がった。
冒険中にこんな移動方法をすることはあまりない。
冒険で楽をすることを覚えたら急場の対応力が下がる。
勘というものは自分の目で見て歩いて肌で感じてこそ培われると思ってるけど今回は特例。
この足場を歩き続けるより、ずっと安全で効率も良い。
「あそこの奥まで移動お願いします。」
「ええ、ええ。あたしが連れていってあげるわ。」
いつもの調子に戻った。
しかも心なしか声が弾んでいる。
私とドライアドを浮かせたシルフが先頭に立ち、そのまま下層の奥へと進んでいく。
足場へ意識を割かなくてよくなったことで、その後の探索は驚くほどすいすい進んだ。
下層は大きく開けた空間になっているけど、至るところから溶岩が流れ込んでいる。
壁の亀裂から赤い光が漏れている場所もあれば、遠くでは小さな溶岩の川がゆっくりと流れていた。
……考えたくないけど、大きな地震や噴火でも起きたらどうなるんだろう。
今は安全そうに見えるこの空間へ、一気に溶岩が流れ込んできてもおかしくない。
その時はシルフに全力で逃げてもらおう。
「サラマンダーが好きそうな場所。」
ドライアドが周囲を見渡しながら呟いた。
「やっぱり熱い場所が好きなの?」
私が尋ねると、シルフが少し考えるように周囲を見回した。
「と言うよりここら辺一体の火の元素がかなり強いわね。逆に自然界にしてはちょっと異常なくらい。」
「異常なくらい?」
思わず聞き返す。
火の元素が強いのは火山だから当然だと思っていた。
でも精霊であるシルフがわざわざ異常と言うのなら、少し気になる情報だ。
私はこの世界で火山地帯へ来るのが初めてなので、他の場所との比較ができない。
これが火山なら普通なのか、それともこの場所だけがおかしいのか。
今の私には判断できなかった。
ただ、精霊が異常だと感じるほどなら、何かある可能性くらいは疑っておいた方が良さそうだ。
覚えておこう。
「お話はここまでよ。前に何かいるわ!」
突然シルフが声を上げた。
すぐに意識を切り替え、言われた方向へ目を凝らす。
少し離れた場所に、大きな火の球体が浮かんでいた。
赤々と燃える球体が横に八の字を描くようにせわしなく揺れながら、一定の間隔で明滅を繰り返している。
実物を見るのは初めてだ。
だけど、あの姿を見間違えるはずがない。
プロミネンスついに見つけた。
「いた、精霊の面汚し。」
ドライアドがぼそっと呟いた。
「……ドライアド、さっきからプロミネンスへの当たり強すぎない?」
本人は全く気にした様子もなく、浮遊する『プロミネンス』をじっと見つめている。
どうやら本当に嫌いらしい。




