アイラ先生のムキムキパワーレベリング⑫
それからしばらく岩場を歩き続けたものの、モンスターどころか人っ子一人見当たりはしなかった。
これだけ何もいないと逆に不気味なくらいだ。
つまり、こんなところを歩いている人間はほぼ確で黒。
もちろん全員が悪人とは限らないけど、少なくとも普通の冒険者が好き好んで歩くような場所ではない。
近寄ってはいけない場所はゲーム時代の知識で大体覚えている。
だからといって、無闇に近づくような真似はしない。
でも、わざとらしく避けるようなこともしない。
万が一、どこかから誰かに監視されていたら、知っていることが逆に怪しまれる原因になるからだ。
それにシルフやドライアドには、『ハイド』のような姿を隠す能力を見破る力はない。
もしかしたら今この瞬間だって、誰かが物陰から私たちを監視しているかもしれない。
だからこそ、普段通りに振舞おう。
「ドライアド、そこの岩に気を付けてね。」
「手繋いで。」
「はいはい、これでよろしいですかお姫様。」
差し出された手を握りながら、大きな岩を一緒に乗り越える。
「シルフ、この辺にモンスターがいないか調べて。飛び回るときは目立たないように低空でお願い。」
「見てくるわ。少しだけ待ってなさい。」
シルフが地面すれすれを飛びながら先行していく。
こんな感じでいつものように会話しながら進みつつも、周囲への警戒は怠らない。
遠くにモンスターの気配があれば進路を変えて避け、ひたすら下層までの道を進んでいく。
だけど、何も起こらなくても体力だけは容赦なく削られていった。
舞い上がる砂埃に火山特有の熱気。
おまけに通気性の悪い洞窟を延々と歩き続けている。
さすがに疲れた。
ちょうど腰掛けるのに良さそうな岩を見つけ、その上へ座る。
水袋を取り出して口をつけると、こくこくと喉を鳴らして水を飲み込んだ。
冷却魔法で冷やした水が火照った体へ染み渡っていく。
まるで火山の中で見つけたオアシスだ。
「ぷはぁ。」
「下層までは後どのくらい?」
「もうすぐ着くはずだよ。足を踏み入れる前に体調を万全にしとかないと。」
ここから先は今まで以上に危険になる。
休める時にしっかり休んでおいた方がいい。
「下層に危ない敵はいる?」
「うーん。」
色々なモンスターがいるけど、その中でも特に危険だと感じる相手は、
「『プロミネンス』が危険だね。攻撃を与えると自爆してくるの。」
プロミネンスは丸い火の玉みたいな姿をしたモンスターだ。
見た目だけなら単純だけど、体そのものが爆弾のような性質を持っている。
初心者が不用意に手を出して、周囲にいた他の人たちまで爆発に巻き込まれて大変なことになった。
実装された当時は、そんな話をよく聞いたものだ。
「うげー、あいつかぁ。」
「精霊の面汚し。」
酷い言われようだ。
でも、二人が『プロミネンス』を嫌うのにはもちろん理由がある。
大分類として見れば『プロミネンス』も精霊に分類される。
だけど実際には人間や他の精霊を襲い、逆にモンスターを助けることから、ほとんどモンスターとして扱われている存在だ。
まあ、所構わず自爆しまくるせいで、そのモンスターたちからも嫌われている憐れな存在なんだけど。
人間からも精霊からもモンスターからも嫌われている。
改めて考えると凄い立ち位置だね。
ちなみにさっき二人に会わせたくないと言ったモンスターはこいつ。
精霊同士で戦わせるってちょっと後味が悪そうだから。
「ちなみに倒せそう? 同じ精霊と戦うことになるけど。」
「仲間だなんて思ったこと無いわ。」
「そもそもアールヴヘイム由来の精霊じゃない。」
アールヴヘイムでは自然由来と動物由来の精霊がいてどちらも仲良しって言ってたけど、アールヴヘイム由来ではない精霊の中には仲が悪いのもいるんだね。
これは思ったよりも貴重な情報だった。
しかし二人が気にしないと言うのならこれ以上のツッコミは野暮というものだ。
それよりも戦う際の注意点をまとめておいた方が良い。
「攻撃を加えたら爆発してくるから倒し方が大事だよ。」
「連携して一気に倒そうって言うのね?」
「できるかなぁ?」
ドライアドが少し不安そうな声を出す。
サポートも大事だけど、今回は火力も重要になる。
今までの冒険では、三人がタイミングを合わせて一斉に攻撃を叩き込むような練習はしてこなかった。
でもプロミネンスを相手にするなら、今回だけは息の合わせ方がかなり重要になってくる。
一応、自爆の威力は残っている体力を参照していた。
だから一撃で倒し切れないような事態になっても、体力のほとんどを削ってしまえば自爆の危険性はかなり減らせる。
それでも、できることなら一気に仕留めたい。
「注意点は以上だけど上手くやれそう?」
「行けるわ!」
「無理かも。」
綺麗に意見が分かれた。
それもさっきやる気だったドライアドと自信を失っていたシルフの立場が真逆になっている。
こうなるとどちらの意見を参考にするべきかと悩んだけど今回はシルフの方かな。
上層での落ち込みっぷりを考えると、ここで挽回させてあげないと後まで尾を引きそうだ。
自信を失ったままにしておくより、なるべく早く払拭させてあげた方がいい。
「私も頑張るからドライアドも頑張ってみよう、ね?」
「……分かった。」
優しく語り掛けると、渋々といった様子ではあるけどドライアドからも承諾を得られた。
これで決まりだね。
「そうと決まれば早く行くわよー!」
さっきまでの落ち込みはどこへ行ったのか。
やる気マックスになったシルフが勢いよく飛び上がり、そのまま私たちを先導するように飛んでいく。しかし、
「シルフ、そっちは下層の方じゃないよ~!」
私は慌てて岩から立ち上がり、元気いっぱいに間違った方向へ飛んでいくシルフを制止するのであった。




