アイラ先生のムキムキパワーレベリング⑪
「もうヘルハウンドとは十分戦ったねぇ。」
ここまで何度も戦ったおかげで、ヘルハウンドがどんなモンスターなのかは大体分かった。
素早い動きに優れた嗅覚。
それに火属性らしく炎を使った攻撃を得意としている。
この今までの冒険でもかなり強いモンスターを相手に一人ずつ戦ってみた。
同じモンスターを相手にしたからこそ、それぞれの戦い方の違いも確認できたと思う。
相性の問題や危険な場面はあったけど、上層で戦い続けるだけなら二人とも十分にやっていけそうだった。
これなら三人で協力して戦えば、下層にいるもっと強いモンスターとも十分戦えるだろう。
問題は、そこまで二人を連れていくべきかどうか。
下層に出現するモンスターたちを精霊と会わせるのは少し気が引けた。
精霊にとっては少し不愉快な相手に感じられたからだ。
私はゲームで何度も見てきたモンスターだけど、二人は初見。
出会った時にどう感じるのか分からないので正直悩むけど、これも経験なのかな。
知らないままでいるより、一度自分の目で見ておいた方が良いこともある。
「このまま下層まで行ってみようか。」
「ん、アイラに任せる。」
ドライアドは特に気負うこともなく頷いた。
私が行くなら自分も行く。
そんな感じで、下層へ向かうこと自体には何の抵抗もないらしい。
「あたしは自信を失ってるわ。」
一方、シルフは目に見えて元気がない。
いつもならもっと勢いよく反応するのに、今日は声にも覇気がなかった。
ここまで思うような成果を出せていないことが、かなり悔しいらしい。
最初に攻撃したヘルハウンドには逃げられた。
それに比べてドライアドは、一人で攻撃を防ぎ切った上で相手を倒している。
比べる必要なんてないんだけど、本人としては色々と思うところがあるんだろう。
そもそも私の意向で苦手な相手と戦わされているんだから、そこまで気にしなくても良いんだけどね。
ここはひとつ、先生がフォローしておこう。
「シルフもちゃんと頑張ってるから大丈夫だよ。」
「慰めはいらないわ。」
「あ、ごめんなさい……。」
即座に拒否。
励ますつもりだったのに、むしろ落ち込ませただけだった。
変なところで負けず嫌いなのも、シルフらしいと言えばシルフらしいけど。
ダンジョンを進んでいくと、周囲の景色が少しずつ変わり始めた。
これまで続いていた溶岩地帯を抜け、崖の多い岩場へと入っていく。
地面や壁の亀裂から赤い光が漏れていた上層とは違い、周囲から溶岩の姿が消えていった。
ここはゲーム時代では二層に当たる場所だ。
洞窟内でありながら空間は大きく開けていて、天井もかなり高い。
複雑な形をした岩や崖が至るところに存在しているせいで視界は悪いけど、上層のように足を滑らせた先に溶岩があるような場所ではない。
それだけでもさっきより随分と歩きやすく感じる。
火山の中としては比較的涼しく、上層と比べれば随分と過ごしやすい場所になっている。
もちろん外と比べれば十分暑いんだけど、さっきまでの場所を歩いた後だと涼しく感じてしまう。
だけど、安心して良い場所ではない。
むしろ、こういう場所だからこそ注意しなければならないことがある。
大きな岩。
複雑に入り組んだ崖。
遠くまで見渡せない地形。
つまり、人が隠れるにはもってこいの場所なのだ。
「シルフ、ドライアド。この辺を歩くときの注意点なんだけど、すれ違う人間には目を光らせておいて。」
「どうして?」
ドライアドが不思議そうな顔で私を見る。
まあ、そうなるよね。
特にドライアドは、ここまで人の悪意というものにほとんど触れてきていない。
人間と出会えば普通に話すし、悪意があることを前提に相手を見るような経験もしていない。
悪意を持った人間の怖さをまだ知らないのだ。
そんな子に、いきなり人間を警戒しろと言っても難しいよね。
それに、私はドライアドに誰彼構わず疑うような考え方を覚えてほしいわけでもない。
警戒することと、最初から悪人だと決めつけることは違う。
その辺りをどう説明したものか。
「何かあるのね?」
一方でシルフはさすがだった。
出会った頃からそうなんだけど、かなり察しが良い。
私がわざわざ人間を警戒するように言った時点で、何か理由があると気付いたらしい。
シルフは人間社会についてもドライアドより長く見てきている。
人間には優しい人もいれば、そうではない人もいるということを分かっているのだろう。
出会ったばかりの頃に見た人間の影響もあるのかな。
あの頃はいろんな人と出会ったし……。
まぁ今はそんなことよりもどこまで話したものか。
全部正直に教えてしまうと、今度はここで出会う人間全てを疑ってかかりそうな気がする。
それはそれで困る。
警戒してほしいだけで、人間不信になってほしいわけじゃない。
かといって何も教えないまま進んで、知らずに危険な相手へ近づいてしまうのはもっと困る。
だったら、とりあえず必要なところだけ説明しておこう。
「ここの近くにね、悪い人の秘密基地があって。」
「悪いやつの?」
「秘密基地?」
二人がほぼ同時に反応した。
ただし、食いついた部分は全く違う。
シルフは「悪い人」の方に反応して嫌そうな顔をしている。
眉を寄せて、明らかに警戒心を強めていた。
対するドライアドは「秘密基地」という言葉に目を輝かせている。
さっきまで人間を警戒する理由が分からず首を傾げていたのに、今は完全に別のところへ興味が向いていた。
反応する単語に性格差が出るね。
「秘密基地……。」
ドライアドがどこか楽しそうに呟いている。
何かを想像しているのか、ほんの少しだけ表情まで明るくなった。
うん、分かるよ。
秘密基地、良いよね。
子供の頃なら自分たちだけが知っている場所。
大人になってからなら、物語やゲームの中に登場する隠された拠点。
言葉を聞いただけで何となく心をくすぐられるものがある。
まあ、今回の場合は近づきたい秘密基地じゃないんだけど、その響きに惹かれてしまう気持ちはよく分かる。
オタクはそういうのが好きだから。




