アイラ先生のムキムキパワーレベリング⑧
曲がり角から全速力で飛び出す。
そして、ほとんど同時にヘルハウンドの姿を捉えた。
近い。曲がり角の死角から距離にして二メートルほど。
黒い体毛に覆われた大きな犬型のモンスターが、まるで私が飛び出してくるのを待っていたかのように大きく首を上げる。
その瞬間、ヘルハウンドの喉が大きく膨らんだ。
体内から集められた魔力が喉元へ集中していくのが見える。
ブレスが来る。本来なら回避行動を取るべきだ。
しかし今回はドライアドの『プラントウォール』を信じると決めている。
私はそのまま足を止めることなく、攻撃の準備へ入った。
「『トリプルマジック』!」
『トリプルマジック』は詠唱した魔法を三回発動させるスキルだ。
こうして聞くと、とてつもなく強力なスキルに思えるけど、当然ながら何でも三回発動できるわけではない。
大魔法のような高威力かつ広範囲に影響を与えるものは対象外。
『アイスジャベリン』のような比較的低威力で、単体を指定して攻撃する魔法に限られている。
それでも同じ魔法を一度に三発叩き込めるのだから、十分に強力なスキルだ。
続けて攻撃魔法を発動しようとした、その時。
「ガァウ!」
こちらの攻撃は間に合わなかった。
ヘルハウンドが大きく口を開き、火炎の吐息を真正面から放ってくる。
「っ!」
視界が一瞬で真っ赤に染まった。
猛烈な勢いで押し寄せた業炎と共に、凄まじい熱風が全身を襲う。
熱っ! 直接炎に触れていないはずなのに、とてつもなく熱い。
これ、冷却魔法無しで受けたら、それだけで火傷しない?
だけど今回に関して言えば対策はバッチリ。
私の周囲に浮かんでいた茨の盾が炎を受け止め切っている。
しかし、植物で作られた盾が炎に包まれれば当然、無事では済まない。
茨が次々と黒く焦げ、焼け落ちていく。
それでも『プラントウォール』は私を守るという役目を見事に果たしていた。
ヘルハウンドの火炎は私のところまで届いていない。
同時に押し寄せた熱風も、あらかじめ出力を上げておいた冷却魔法を貫通することはできなかった。
なら、今こそ反撃の時。
火属性のモンスターに叩き込むなら当然、
「『アイスジャベリン』!」
目の前に鋭く尖った氷の槍が形成される。
直後、『トリプルマジック』の効果によって一本だった氷の槍が三本となった。
狙いは目の前のヘルハウンド。
手をかざすと三本の『アイスジャベリン』が一斉に放たれた。
いかに素早いヘルハウンドでも、ブレスを吐き終えた直後に体勢を変えて魔法を避けることなんてできない。
「ギャウンッ!」
一本目、二本目、三本目。
全ての氷槍がヘルハウンドの体へ深々と突き刺さり、そのまま体が地面へ倒れ込む。
「……。」
念のため警戒して様子を見るが動く様子はない。
どうやら完全に沈黙したようだ。
「ヒヤヒヤさせるんじゃないわよ!」
「アイラ大丈夫?」
戦闘が終わったと判断したシルフとドライアドが、すぐにこちらへ駆け寄ってきた。
二人が私の周囲を回りながら、身体中を見渡していく。
自分でも確認してみると、足元のスカートの先端が少しだけ焦げていた。
「うん、ちょっとスカートが焦げたくらいだよ。」
あれだけの熱となると完全に防ぎ切ることまではできなかったらしい。
それでも外傷らしきものは無かった。
スカートの先端が焦げた程度なら活動にも問題なし。
そのまま焦げた部分へ魔力を流していく。
すると傷んでいた生地が少しずつ元の形へ戻り、やがて焦げ跡も綺麗に消えていった。
サモナーの服と同じく、こうして魔力を流せば元通りになるのは便利だね。
それより今、確認したいのは、
「やっぱり一発しか耐えられないみたいだね。」
私たちは揃って『プラントウォール』を見る。
さっきまで私の周囲を囲んでいた茨の盾は、見るも無残な姿になっていた。
大部分が焼け落ち、残っている部分も黒く焦げている。
これでは、もう一発同じ攻撃を受け止めるのは無理だろう。
でも、実際にヘルハウンドのブレスを受けて敵のスキルの攻撃力と味方のスキルの耐久力を確認できた。
これで次からは、どこまで『プラントウォール』を信用していいのか判断できる。
「掛け直す?」
ドライアドが私を見つめてくる。
「ううん、ありがとう。耐久力は分かったからもう大丈夫。でも危険だと思ったらドライアドの判断でお願い。」
「分かった。『プラントウォール』。」
「……ん?」
私の周囲に、新しい茨の盾が次々と浮かび上がった。
さっきまでボロボロだった防御が、一瞬で元通りになる。
それを見て、思わず笑ってしまった。
どうやらドライアドの中では、今が危険だと判断されたらしい。
「ありがとう、でも戦闘前だけで大丈夫だよ。」
「大丈夫、ずっと維持する。」
「そ、そう?」
いつになく強い意思を感じる。
どうやら、さっき私が炎に包まれたように見えたのがよほど堪えたらしい。
まあ、これも経験だよね。
自分の魔法でどのくらい攻撃を防げるのか。
どんな状況なら使った方がいいのか。
そういうことをドライアド自身が考えて判断するのは、これからの強さにも繋がるはずだ。
慎重なことは決して悪いことではない。
それなら、わざわざ注意する必要もないだろう。
私は周囲を漂う新しい茨の盾を眺めながら、次の戦闘へ向けてダンジョンの奥へと歩き出した。




