アイラ先生のムキムキパワーレベリング⑦
三日後。
「さぁ十分に休んだよね。また頑張るよ~。」
「あたしにまっかせなさーい!」
「おー。」
シルフが元気いっぱいに片手を上げ、ドライアドもそれに続いて拳を突き上げる。
うんうん。やる気があって大変よろしい。
先日の荒野でのレベル上げを終えた翌日から、ストレリチア周辺では雨が降り続いていた。
そのせいで奇しくも二日間の休憩。
私としては何もすることが無いと法皇様とのことをつい思い出してしまうけど、シルフとドライアドは大喜びだった。
もちろん『ポータル』を使えば、雨が降っていない別の地方へ移動してレベル上げを続けることもできた。
でも、それを提案したら今度こそ二人が本気でいじけそうだったのでやめておいた。
私だって鬼じゃない。ちゃんと休む時は休ませますよ。
その間に、先日のパワーレベリングで手に入れた素材も全て売却しておいた。
鳥型モンスターから取れた大量のお肉も、既にストレリチアの市場で売却済み。
とはいっても、食用素材は高級品でもない限り大したお金にはならない。
食べられるモンスターは他にもたくさんいるので、希少性が低ければ当然ながら値段も安い。
それより高く売れたのは、薬や道具の材料として使える爪や嘴だった。
素材によってはお肉よりずっと高い値段が付く。
冒険者としてお金を稼ぐなら、やっぱり食料より素材を狙った方が効率は良さそうだ。
そして二日間たっぷり休んだ今日は、再びレベル上げへ出発する。
「今日は二人にも頑張ってもらうからね。」
「任せなさい!」
「頑張るー。」
二日も休んで元気いっぱいになったからなのか、二人ともやる気満々だ。
でも私は知っている。
二人とも最初の返事だけは良いんだよね。
今回も根を上げるまで頑張ってもらいましょう。
今日向かうのは、ストレリチアにある活火山内のダンジョン。
名前の通り火属性のモンスターが多く生息している。
つまり、シルフやドライアドにとって有利を取れる相手ではない。
特に風属性のシルフにとって火属性は最も攻撃の通りが悪い天敵だ。
だけど、いつでも得意な相手と戦える環境を用意できるわけじゃない。
相性の良い相手ばかり選んで戦っていたら、いざ相性の悪い敵と遭遇した時に困ってしまう。
だから、たまにはこういう相手と戦ってみるのも良いんじゃないかな。
それで本当に危険な思いをしたら逃げ帰ればいい。
逃げるのだって立派な選択肢だ。
色々な相手と戦って、経験をたくさん積んで強くなろうね、皆!
「私、アイラのあの顔嫌い。」
「同感よ。」
聞こえてますよ二人とも。
最近、遠慮がなくなってきて本当に嬉しいよ。
「アイラの敵の倒し方って何か凄いよね。」
ドライアドが歩きながら私を見上げた。
「何かパワーレベリング?って言うらしいわ。前世で沢山やったんだって。」
「そうそう。」
ネームレスオンラインのモンスターについてなら、私は大体のことを熟知している。
AIの行動パターンから使用するスキル。
何をすればどう動いて、どんな行動に反応するのか。
それだけ分かっていれば、相手の動きをコントロールするのは簡単だ。
もちろん現実となった今ではゲームと全く同じとは限らないけど、基本的な知識が役に立つことに変わりはない。
私は少し得意げに胸を張った。
「知識はね、力なんだよ。」
それっぽいことを言って、ちょっとカッコいい私を演出する。
「凄いねー。」
「ふふん。」
そんな適当な発言でも、しっかり聞いてくれるドライアドは可愛い子だ。一方で、
「はいはい。」
シルフはこれだもん。
最初の頃は、私がゲーム時代の話をすると熱心に聞いてくれていたのに慣れって怖いね。
未来でドライアドの対応まで塩にならないことを祈ろう。
そんな話をしながら、私たちは活火山の内部にあるダンジョンへ足を踏み入れた。
中は想像していたより明るい。
壁や地面の亀裂から赤い光が漏れ、場所によっては照明がなくても周囲を見渡せる。
とはいえ、全てが明るいわけではない。
光の届かない場所には暗闇も広がっている。
見えないところを踏んだら溶岩でした、なんてことになったら笑えない。
「『ライト』。」
魔法で周囲を照らし、特に足元をしっかり確認できるようにする。
少し進むだけでも、このダンジョンが危険な場所だということはすぐに分かった。
道の所々が大きく途切れ、崖になっている。
その下を流れているのは大量の溶岩。
赤く輝く液体がゆっくりと流れ、時折大きな泡を作って弾けていた。
「火山って初めて見たけど凄いわね……。」
シルフが珍しく感心したような声を漏らす。
「溶岩ってこんな感じなんだ~。」
ドライアドは崖の下を興味津々に覗き込んでいた。
「ここから落ちたら絶対助からないね。」
ゲームでは感じられなかった地形そのものの恐ろしさも凄い。
画面越しなら、溶岩なんて触れればダメージを受ける地形でしかなかった。
でも、現実になれば話は別。
立っているだけで熱気が全身へまとわりついてくる。
あらかじめ冷却魔法で体を防護していなかったら、今頃は一瞬で汗だくになっていただろう。
しかも、危険なのは熱や溶岩だけではない。
場所によっては有毒なガスが流れていることもあるらしい。
目に見えない危険なので、こっちの方が厄介かもしれない。
その辺りを察知してくれる役割はドライアドにお願いしている。
植物の精霊を鉱山のカナリアみたいに扱っていいのか少し疑問だけど、私より先に異変へ気付いてくれるのだから仕方ない。
何か変だと思ったら、すぐに教えてもらうことになっている。
とまあ、ここまで聞いただけでも十分に厄介なダンジョンだ。
だけど、当然それだけでは終わらない。
低層には『ヘルハウンド』を始めとした強力なモンスターが跋扈している。
ヘルハウンドは名前の通り犬型のモンスターだ。
動きが素早く、匂いにも敏感。
獲物を見つければ執念深く追いかけ、口からは火まで噴いてくる非常に獰猛なモンスターでもある。
危険な地形に強力なモンスター。
この世界の冒険者の一般水準では、とてもじゃないけど攻略できるダンジョンじゃない。
当然のことながら、人の姿は誰一人見当たらなかった。
「まぁ、人がいないのはこの辺と奥深くだけなんだけど。」
「ん、何か言った?」
「独り言だよ。」
シルフに聞かれ、適当に誤魔化す。
実は中層付近には秘密の工場がある。
そこでは多くの人間が働いているはずだ。
もちろん、こんな危険な場所で人目を避けるように働いているなんて、まともな連中ではない。
絶対に近づいてはならない場所だ。
今日はレベル上げに来ただけ。
余計なことへ首を突っ込むつもりはない。
そのまま慎重にダンジョンを進んでいると、
「犬っころが来たわよ、アイラ。右前の曲がり角の先にいる。」
シルフが声を潜めた。
「ありがとうシルフ。」
まだ姿は見えない。
だけど、シルフには既に居場所が分かっているらしい。
強いモンスターともなれば、頭が回るものも多くなる。
どうやら曲がり角の先でヘルハウンドが構えているようだ。
何も知らずに顔を出せば、待ち伏せを受ける可能性が高い。
「ドライアド、防御の魔法をかけて貰える?」
「分かった。」
ドライアドが魔法を唱える。
すると私の周囲へ、小さな茨の盾がいくつも浮かび上がった。
『プラントウォール』。
一定量のダメージまで、私の代わりに攻撃を受け止めてくれる盾だ。
これで準備はできた。
ヘルハウンドは、おそらく私が曲がり角から顔を出した瞬間に火を吐いてくる。
だから先にシールドを用意してもらったというわけだ。
私は茨の盾が自分の周囲に浮かんでいることを確認する。
「じゃあ行くよ、いち、にの、さんっ!」
勢いよく地面を蹴る。
私はそのまま、ヘルハウンドが待ち構えている道へ飛び出した。




