アイラ先生のムキムキパワーレベリング⑤
非常に気まずい。
「喉とか乾いたりしませんか?」
「いえ、大丈夫です。」
「寒くないですか?」
「平気です。お気遣いありがとうございます。」
「そ、そうですか。」
「はい。」
「……。」
「……。」
さっきからずっとこんな感じだ。
何度語りかけてみても全く会話が弾まない。
街へ向かって一緒に歩き始めてから、ずっと当たり障りのない会話を繰り返している。
私から何か話題を振れば答えてくれる。
でも、そこで会話が終わってしまう。
また少し無言で歩いて、気まずくなった私が新しい話題を探す。その繰り返しだ。
「暗い子ねぇ。」
「こらシルフ。」
本人の目の前でそういうこと言っちゃ駄目。
「ぽんぽん痛い?」
今度はドライアドが女性のお腹を見ながら尋ねた。
「いえ、そうではないのですが……申し訳ございません。」
「謝らなくていいですよ。」
何でこの人は謝ったんだろう。
うーん困った。
前世からコミュニケーション能力が高かったわけじゃない私に、この空気は寒すぎる。
真冬の荒野だからという意味ではなく、精神的な意味で寒い。
しかも、こういう空気は魔法でも温められない。
ここは魔法と奇跡の世界じゃなかったの、と女神様に問いたい。
もしそうだと言うのなら今すぐ助けてください。
ちらりと隣を見る。
「……。」
女性は黙って歩いている。
でも、さっきから何度もこちらへ視線を向けているのは分かる。
向こうからの視線は感じるのに会話ができないよ~!
何か気になることがあるなら聞いてくれていいんですよ?
私も話題がなくて困ってるんです。
そんなことを考えながら歩いていると、
「アイラさんはどうしてストレリチアにいらしたんですか?」
「っ!」
やっと向こうから会話してきてくれた。
良かった。会話するのが嫌だったわけじゃなさそうだ。
「戦闘経験を積むのと、まだ生まれたばかりのドライアドに色んなものを見せてあげたくて。」
「私のため?」
「そうだよ。」
「そうだったんだ。」
せっかく人間の世界へ来たんだから、ドライアドには色々な場所を見せてあげたい。
もちろんレベル上げも大切だけど、それだけのために一緒に旅をしているわけじゃないからね。
「なるほど。どうですか、この国は。」
「えっ。」
思わず女性の方を見てしまった。
今度は突然、随分とセンシティブな話題を振ってきたね。
「そ、そうですね。ゾディアック王国とは違いますが、素敵な国だと思いますよ。」
我ながら無難な回答だ。
でも、これでいいよね?
もしかして私、邪教徒扱いとかされてないよね?
ゾディアック王国とストレリチアでは、信仰している神も教義も違う。
教義が違えば、国家としての方針まで違ってくる。
当然、お互いに相容れないと考えている人も多い。
私はどちらか一方が優れていて、もう一方が間違っているとは思わない。
気に入らなければ、自分に合う方で生活すればいい。
本来ならそれだけの話だ。
だけど、両者ともに相手を迫害する方向へ舵を切っているのが実情だった。
この人も、そういう考えを持っているのだろうか?
「ええ、それを聞けて良かったです。私も両国の良い所があると思ってますので。」
「あ、そうですよね。私も平等に幸せを分かち合うって考え方は、賛同できる点もあります。」
よかった。どうやら正解を引けたみたい。
少なくとも、ゾディアック王国を嫌っている人ではないらしい。
前世の知識で大雑把に分類するなら、ゾディアック王国は資本主義に近い。
それに対して神政国家ストレリチアは、社会主義に近い考え方をしている。
どちらも前世に存在した制度そのものではないけど、私の感覚ではそう分類するのが一番分かりやすい。
ちなみに今回の話に上がらなかったシン共和国は、前世の資本主義をさらに煮詰めたような国なんだけど、今は置いておこう。
どんな仕組みにも良いところと悪いところがある。
私としては、そこで暮らす人が幸せならそれでいいと思っている。
「ですが、どちらの国も水面下では争いが絶えません。」
「そ、そうですね。」
おいおい、流れ変わったね。
せっかくお互いの良いところについて話していたはずなのに、また急に踏み込んできた。
これ、聞く人によっては処刑されそうな話に付き合わされてない?
私は歩きながらシルフへ少し顔を寄せる。
「ごめんシルフ、周りに誰かいないか見張って。」
「ん、了解。」
小声でやり取りを済ませると、シルフが周囲へ意識を向けた。
この国の異端審問にでもかけられたらたまったものではない。
警戒しておくに越したことはないだろう。
「私はただ、両国仲良くしたいだけなのですが。」
「私もそう思います。」
それなら良かった。
どうやらこの人は、今の両国の関係を憂いているんだろうな。
一般の信徒なのに、随分と大きなことを考えている。
まるで権力者みたいだ。
「……。」
そこで、ふと法皇様のことを思い出した。
今の法皇様は、私と同じくらいの年代の女性だ。
近年になって代替わりしたばかり。
金色の髪に青い瞳。
天空神ウーラノスと同じ色を持つ、この国で唯一の存在。
ストレリチアの法皇様は、いつの時代もたった一人しか生まれてこない。
誰かが法皇に選ばれ、その証として金髪と青い瞳になるわけではない。
その逆で、金色の髪と青い瞳を持って生まれてきた存在、たった一人が法皇になる。
もっとも、代替わりしたばかりの今の法皇様は、まだお飾りに近い状態だ。
実権なんて何も持っていない。
それでも、いずれ信頼できる仲間たちと共に、この国に蔓延る腐敗を正していく。
メインストーリーを知っている私からすれば、そんな未来へ進んでいく光のような存在だ。
応援せずにはいられない。
「今は魔王討伐に向けて三国で手を取り合ってます。いつか分かり合える日が来ると良いですね。法皇様もそうお考えのようですし。」
私にできることがあるなら、政治に関わらない範囲でぜひ協力したいね。
「え?」
「ん?」
そこで、不思議な間が流れた。
女性が足を止めたわけではない。
だけど、明らかに今までとは違う反応だった。
何かおかしいことを言ってしまっただろうか。
「いえ、何でもないのです。」
「そうですか?」
「はい。」
なら、いいのかな。
私が首を傾げていると、すぐ近くから小さな声が聞こえてきた。
「やったわね。」
「やったねー。」
シルフとドライアドが何かを言っていた。
「……?」
何が悟ったような顔をして私から目を背けた二人。
二人とも何か分かったなら、隠してないで私にもちゃんと共有してほしい。




