アイラ先生のムキムキパワーレベリング②
「二人ともお疲れ様。よく頑張ったね。」
労いの言葉を掛ける。すると、
「鬼、悪魔、アイラ!」
「レベル上げしてる時のアイラ嫌い。」
「えぇ……。」
想像していた以上に不評だった。
シルフは腕を組みながら頬を膨らませ、ドライアドも座り込んだままじーっと私を見つめている。
あらら。ちょっとやり過ぎたようだ。
でも、こういう時の対処法なら分かっている。
「ごめんって。魔力上げるから許して、ね?」
二人とも私の魔力が大好き。
頑張ったご褒美として魔力をあげれば、きっと機嫌を直して――。
「あたしはそんな軽い精霊じゃないわよ。」
シルフがそっぽを向いた。
駄目だった。さすがに今回は相当怒っているらしい。
「貰う。」
「え?」
間髪入れず、ドライアドが私の右手に吸い付いてきた。
「ちょ、早いってドライアド。あっ!」
ちゅううううっと音が聞こえてきそうな勢いで、体から魔力が抜けていく。
「ちょ、早い早い!」
いつもより明らかに吸収する速度が速い。
この一瞬で一割弱の魔力を持っていかれた。
「ドライアド、ちょっと待って! ご褒美だからって好きなだけ吸っていいわけじゃ――。」
「あ、こらドライアド、裏切り行為よそれは!」
「シルフ!?」
さっきまで「あたしはそんな軽い精霊じゃない」と言っていたシルフが、慌てて私の左側へ飛んできた。そして、
「んっ。」
「ひゃぁ!?」
左手に吸い付いた。
右手にドライアド。左手にシルフ。
両側から凄まじい勢いで魔力が吸い取られていく。
「こら、そんな勢いで吸い取ったら枯渇しちゃうから!」
止まらない。むしろ二人とも、私の制止を聞いて吸う速度を上げた気さえする。
「反省して、アイラ。」
「そうよ、これは罰なの。」
「目が怖いんだけど!?」
完全に眼が据わってる。
「分かった! 分かったから! 明日はもう少し休憩増やすから!」
返事はない。右からも左からも、もの凄い勢いで魔力が抜けていく。
「ちょっと、本当に待って! これ以上は――。」
足から力が抜けた。
「はぅ……。」
結局、残っていた魔力の半分以上を二人に吸い取られ、私はその場へ力なく倒れ込むのであった。
「さっきのはさすがにやり過ぎだよ!」
「あ、アイラだって、あたしたちに無茶させたじゃない!」
「そーだそーだ。我々は待遇の改善を要求するー。」
「私は二人を魔力が枯渇するほど働かせてないでしょ!」
私たちはそんな言い合いをしながら、荒野をゆっくりと歩いていた。
喧嘩と言っても、別に本気で怒っているわけではない。
今日のパワーレベリングで私が二人を酷使したのは事実だし、その仕返しとして二人が私の魔力を吸い過ぎたのも事実。
お互いに不満がある。
だったら溜め込まずに全部言ってしまおう。
今はそうやってガス抜きをしているところだ。
街に戻る前に解消したいから、シルフの魔法で飛んで帰ったりもしない。
三人並んで荒野をゆっくり歩きながら、思ったことを言い合っている。
「こんなところにずっといたら頭おかしくなる。」
ドライアドが不満そうに辺りを見回した。
視線の先に広がっているのは、相変わらず土と石ばかりの殺風景な荒野。
植物が大好きなドライアドからすれば、何日もこんな場所でレベル上げを続けるのは確かにつらいのだろう。
「それはごめんね。近いうちに木が多いところに行こうね。」
「ほんと?」
「うん。約束。」
妥当なお願いはちゃんと拾う。
ドライアドの希望を叶えながらでもレベルアップはできるので、それくらいの希望は聞くべきだろう。
「じゃあ、あたしからも要望!」
シルフが勢いよく手を上げた。
「はい、シルフさん。」
「レベル上げはしばらく休みましょう!」
「それは却下。」
「何であたしの要望だけー!」
だって、それは聞けないんお願いだもん。
私には一年以内に『エレメンタルマスター』になるという目標がある。
それにレイディアントも倒さなければならない。
いつ動き出すのか分からない以上、準備できる時間が永遠に続くわけではない。
時間は有限なのだ。
「レベル上げが終わったら、しばらくゆっくりできるから。」
「本当ね、絶対よ?」
「嘘ついたらサボテン飲んで。」
「サボテンは飲めないんじゃないかなぁ、ドライアド。」
少なくとも私は飲みたくない。
でも、こうして話しながら歩くのも良いものだ。
シルフとドライアドの言い分を聞いていると、確かに最近は少し急ぎ過ぎていたのかもしれない。
目標があるから頑張ることは大切。
だけど、ずっと走り続けていたら疲れてしまう。
たまにはこうやってゆっくりする時間も――。
「きゃあああ!? だ、誰かぁ!!」
「っ!?」
人通りもない荒野に、似つかわしくない悲鳴が響いた。
私たちは一斉に足を止める。
声の感じからすると、それなりに距離がある。
それでも助けを求めていることだけは、はっきりと分かった。
「何っ!?」
「あっちの方から聞こえたわ。」
「どうするアイラー?」
答えなんて決まっている。
「当然、行ってみるよ!」
「任せなさい。『エアステップ』!」
シルフが魔法を発動する。
ふわりと体が軽くなり、同時に周囲の動きまで普段より捉えやすくなった。
全員の体を軽くし、反応速度まで高めてくれるバフだ。
これなら凄い速さで移動できる。
私たちは悲鳴の聞こえた方向へ一斉に走り出した。
「近くに人はいる!?」
走りながら確認する。
「いないわ。」
「私も何も感じられない。」
シルフとドライアドの答えを聞き、周囲を見回す。
人影はない。それなら好都合だ。
何が起きているのか分からない以上、万が一を考えて念には念を入れておこう。
私は走りながら、頭の中で唱える。
《HidePC》
自分の体が視界から消えた。
シルフとドライアドはっと、うん、見えてるね。
実践で使うのは久しぶりだけど、警戒するに越したことはないだろう。




