アイラ先生のムキムキパワーレベリング①
誕生日から二か月が経った。
季節はすっかり真冬。
ここは神政国家ストレリチア近くに広がる荒野だ。
見渡す限り乾いた大地が続き、所々に背の低い草が生えている程度。農作物を育てるには適しておらず、わざわざこんな場所へ住もうとする人もほとんどいない。
でも、それは私にとって都合が良かった。
「人がいないって素晴らしいね。」
シルフやドライアドと一緒に冒険していても目立たない。
強力なスキルを使っても誰かに見られる心配が少なく、多少派手に戦ったところで周囲へ被害が出る可能性も低い。
レベル上げにはうってつけの場所だ。
あえて問題を挙げるとするなら、
「……つまんない。」
「ドライアドには楽しくないよねぇ。」
植物がほとんど育たない土地なので、ドライアドがあまり楽しそうではないことくらい。
地面を見ても土と石ばかり。
植物が大好きなドライアドにとって、この景色は少々退屈らしい。
まあ、それについては後で何か埋め合わせをするとして。
二人に頑張ってもらう前に、ここ二か月ほどの世界情勢について軽く触れておこう。
まず、レイディアント。
今のところ目立った動きはない。
「いつになったら姿を現すんだろうね。」
魔王を調査している対策部隊も、以前その痕跡を発見して以降、大きな成果を上げられていないらしい。
メインストーリーでは冒険者たちも一緒になって調査を進めていた。
だから、その手伝いがない現状では進行が難しいのかもしれない。
とはいえ、いつまでも放っておくわけにもいかない。
女神ガイアとの約束もあるので、このまま何も進展しないようなら、どこかで私も調査を手伝いに行った方がいいのかもしれない。
そんなことを考えていると、
「あぁもう鬱陶しいわね。どこまで付いてくるのよ!」
空からシルフの怒鳴り声が聞こえてきた。
声が聞こえた方に顔を上げる。
「おぉ~、凄いじゃない。」
シルフが鳥型モンスターの群れを引き連れながら、荒野の上空を飛び回っていた。
その数、およそ十匹。
シルフが速度を調整しながら飛ぶたびに、鳥型モンスターたちも綺麗な一団となって追いかけていく。
離れかけた個体がいれば少し速度を落とし、群れがまとまれば再びこちらへ向かって飛んでくる。
「綺麗にまとまってるなぁ。」
ゲームだったら惚れ惚れするくらい見事な纏め方だ。
シルフ、もしかしたらMMO用語でいう『釣り』の才能があるのかもしれない。
本人に言ったら怒りそうだから黙っておこう。
そのままシルフが私の真上を通過した。
「アイラ、そっち行ったよ~。」
地上ではドライアドがシルフを支援しながら、私の護衛も兼ねてくれている。
「はーい。」
私も準備はできている。
あらかじめ貯めていた魔力を一気に攻撃へ変換していく。
シルフに引き連れられた鳥型モンスターたちが、私の頭上近くに近づいてきた。
狙うなら今だ。
「『ダイヤモンドダスト』。」
周囲の空気が一気に冷え込む。
無数の冷気が鳥型モンスターたちをまとめて包み込み、その体へ一斉に襲い掛かった。
『ダイヤモンドダスト』はハイサモナーになって、ようやく手に入れた範囲魔法の一つだ。
一体ずつ相手にする必要がない範囲魔法は、パワーレベリングするにはうってつけ。
何より今回の相手との相性が良い。
「ギャアッ!」
「ギィッ!」
魔法そのものによる攻撃に加えて、強烈な冷気が鳥たちの翼を襲う。
空を飛ぶためには翼を動かし続けなければならない。
そこへ冷気を浴びせられて動きが鈍れば、当然――。
「鳥さんたち全部落ちたよ!」
次々と高度を失い、鳥型モンスターたちが地面へ墜落していく。
だけど、これで終わりではない。
「一気に畳みかけるわよ!」
シルフとドライアドは容赦がなかった。
地面へ落ちた鳥型モンスターたちの足元から、鋭い大地の槍が次々と突き出す。
さらに上空から降り注ぐのは、シルフが放った無数の風の刃。
逃げる暇なんてない。
地面から大地の槍が、空から風の刃が。
上下から攻撃魔法を浴びせられ、十匹ほどいた鳥型モンスターたちは瞬く間に全滅した。
「はい、よくできました。」
慌てず周囲を確認する。
新しいモンスターの気配はない。
安全を確認したら、今度は素材の回収だ。
鳥型モンスターから羽毛を全て取り除き、食べられる肉を捌いていく。
処理を終えた肉は凍らせて、そのままGM倉庫へ。
十匹分ともなれば結構な量になる。
当然、私だけで全部食べ切れるわけがない。
余った分はストレリチアの市場へ卸してお金にする予定だ。
冒険者として活動している以上、こういうところでちゃんと稼いでおくのも大切。
そして処理が終われば、再びモンスターを探す。
シルフが釣ってきて私が範囲魔法でまとめて攻撃する。
動きが鈍ったところへシルフとドライアドが一気に仕留める。
素材を回収したら、また次へ。
それを何度も何度も繰り返す。
これぞパワーレベリング。
効率良く大量のモンスターを倒して、経験値を稼ぎ続ける。
「もぅ限界! 今日はここまで!」
とうとうシルフが悲鳴を上げた。
「あたし、さっきからずっと飛び回ってるんだけど!」
「疲れたよアイラ~。」
ドライアドまで地面へ座り込み、私を見上げている。
「うーん。」
二人の泣き言を無視すること、これで三回目。
まだ続けようと思えば続けられる。
だけど、さすがに二人の限界も近そうだ。
私は明日以降もパワーレベリングを続けるつもりでいる。
ここで本格的にへそを曲げられて、明日から手伝ってもらえなくなったら困る。
今日はこのくらいにしておこう。




