幸せな時間⑥
「お帰りなさい、パパ。」
夕方になり、仕事を終えたパパが宿へ帰ってきた。
私の姿を見るなり目を大きく見開き、すぐに嬉しそうな表情を浮かべる。
「今年は帰ってこないかと思ったぞ、アイラ!」
「もぉ~、私が誕生日に二人のところに帰ってこないはずないでしょ。」
心配性なのに、こういうところの信頼はないんだから。
しばらく帰ってこなくても大丈夫とは言われていたけど、それと誕生日に帰ってこないのは別の話だ。
私だってパパとママと一緒に過ごしたい。
そんな私を嬉しそうに見ていたパパだったけど、すぐに何かへ気付いたらしい。
視線が私の顔から服へと下がっていく。
「ところでアイラ……その格好は……?」
「もぅ~噂になってたんでしょ? ハイサモナーに転職したんだよ、私。」
少しだけ言い方が強くなった。
信じられないのは分かるんだけど、今日まで何回同じ説明をしたか分からない。
サジタリウスへ帰ってきてからというもの、会う人会う人に驚かれ、そのたびに同じ説明している。
そのせいでちょっと疲れていたみたい。
だから相手がパパなこともあって、対応が雑になってしまった。
少しだけピリッとした感じが出てしまったんだと思う。
「そ、そうだよな! 変なこと聞いてごめんな。」
「あっ。」
パパが慌てたように謝ってきたことで、すぐに我に返る。
違う違う。パパは何も悪くない。
むしろ娘の格好が変わって帰ってきたんだから、聞くのは当然だ。
「ごめんなさい。このやり取り何回もしてるから、ちょっと機嫌悪かったのかも。」
パパに八つ当たりしても仕方ない。
これは私が悪かったと素直に反省する。
「今のはアイラが悪かったけど、このやり取りも何十回も聞かされたわ。」
すかさずシルフがフォローを入れてくれた。
「アイラも大変なの。」
ドライアドまで私の味方をしてくれる。
二人のおかげで、変な空気になる前に事なきを得られた。
誕生日前にピリついても全然嬉しくない。
むしろ、そのまま喧嘩にでもなったら私は絶対落ち込む。
自分のためにもちゃんと自重しなさい、アイラ。
「アイラが反抗期じゃなくてよかった~!」
「え?」
パパはパパで、何か別のことを気にしていたようだ。
心底安心したように胸を撫で下ろしている。
「女の子の反抗期って父親に当たりが強くなるって仲間が言うんだよ! そんなことあったらショックで……。」
「パパ……。」
必死すぎて、なんだか可哀想になってきた。
さっきの私の態度を見て、本気で反抗期が始まったと思ったのかもしれない。
これからはもっと意識してパパに優しくしてあげなきゃ。
「大丈夫だよ。別にパパのこと嫌いになったりしてないから。」
「本当か!?」
「本当だってば。」
「よかった……。」
どれだけ心配してるの。
落ち着いた私とパパはこれまでの話をゆっくりと話し始めた。
ハイサモナーへ転職したこと。
シルフが成長して大人の姿になったこと。
そして、パパとは初対面になるドライアドの紹介。
「この子がドライアド。私と契約してる精霊だよ。」
「はじめまして、よろしくね。」
「初めまして。アイラの父親のケンだ。」
「アイラのパパは似てないね。」
ドライアドはパパをじーっと見つめた。
確かにドライアド同士はよく似ているから似てない血縁というものが不思議なのかな。
「あぁ、アイラは幸いなことに俺に似ず、可愛いんだ。」
「うん、アイラは可愛いよねぇ。」
打ち解け方についてはちょっと物申したいところだけど、二人の顔合わせは成功したようだ。
他にも積もる話をしているうちに、晩御飯が運ばれてきた。
テーブルへ料理が並べられ、久しぶりにパパとママと私の三人で食卓を囲む。
シルフとドライアドも近くにいて、いつもとは少し違うけど久しぶりの一家団欒だ。
食事をしながら、アールヴヘイムであったことを話していく。
その中でもパパが特に興味を惹かれたのは、精霊女王ティターニアのお話だった。
「精霊女王様か……。」
パパはハンターだ。
自然と共に生きる職業だからこそ、精霊たちを束ねるティターニアには思うところがあるらしい。
話を聞く表情も、さっきまでより真剣だった。
「どんな方だったんだ?」
「綺麗な人だったよ。それに凄く落ち着いてて、優しい人。」
せっかくなので容姿だけではなく、性格なども事細かに説明していく。
私が話すたび、パパは興味深そうに頷いていた。
ティターニアについて話せることはたくさんある。
その中で、ふと思い出したことがあった。
「そういえば、意外と人間が食べるスイーツも好きみたいだよ。」
「そうなのか?」
おや、この話は食いつきが良いね。
これまでよりも表情が明るい。
「うん。」
「精霊女王様も人間の菓子を食べるんだな。」
「普通に喜んでたよ。」
何故かパパが嬉しそうに頷いている。
ティターニアほどの存在が人間と同じように甘いものを楽しむ一面があると知って親近感でも湧いたのかな。
「いつか機会があったら、俺も何かスイーツを進呈してみたいな。」
「機会があったらね。」
二人が直接会えることは無いだろうけど、私が持っていくことくらいはできると思う。
機会があれば本当に預かっていくのも有りかも知れない。
基本的にティターニアは非の打ちどころのない人物なので喜んでくれるだろうし、こうしてパパにも安心して話せる。
沢山話すことがあったおかげで余計な誤魔化しをせずに済んだのは良かった。
私も次に会うときはお礼をしなきゃいけないかも。
久しぶりに帰ってきた初日の夜。
こうして家族と食卓を囲みながら話していると、やっぱり帰ってきて良かったと思う。
明日は私の誕生日。
今年もパパとママと一緒に過ごせる。
それだけで、今から楽しみだった。




