幸せな時間④
ようやく全員の対応が終わると、ママは満足そうな笑顔で椅子に座って待っていた。
「お疲れ様。」
「疲れたぁ……。」
普段は優しいのに、こういうところはしたたかなんだよね。
でも、今回の催しはどうやら成功だったらしい。
さっきまであれほど集まっていた人たちも、今では私のことを遠巻きにちらちら見る程度で、わざわざ近づいてくることはなくなった。
一度近くで見られたことで、ある程度満足してくれたのだろう。
ママが機転を利かせてくれたおかげで、この程度で済んだと思えば助かったのかもしれない。
今日の騒ぎを逃した人が後から来ても、うちの商品を買ってくれた人だけへの特別な対応だったと言えば断りやすい。
「ママ、さっきの機転はさすがだったね。」
「そうでしょ。アイラも困ってたみたいだし、うちの商品は売れるし一石二鳥だったわ。」
「商魂たくましいね。」
「マーチャントですから。」
ママが楽しそうに笑う。
うん。やっぱりママには敵わないや。
それから片付けを済ませ、私たちは今日泊まる宿へ向かうことになった。
私は空になったお店のカートを引きながら歩いている。
ママとドライアドは、シルフの魔法でふわふわと浮かされながら私の横を移動していた。
ドライアドはもう完全に疲れてイヤイヤ期へ突入している。
ママへ抱きつき、離れようとしない。
そんなドライアドの頭を、ママがよしよしと優しく撫でていた。
「それにしても、ドライアドちゃんがこんなに甘えん坊だとは思わなかったわ。」
「大きくても、まだ生まれて一年程度だからね。たくさんの人に囲まれてビックリしたんじゃないかしら。」
シルフがそう説明する。
「まぁ、それは悪いことしちゃったわね。」
ママもちょっとだけ反省しているようだ。
確かに、ドライアドが生まれてから一年程度しか経っていないことまでは伝えていなかった。
見た目だけなら立派な大人だから、知らなければ分からなくても仕方ないところはある。
「ちょっと荒療治ではあったけど、これからこんな機会はきっとあるから、今回くらいの騒ぎで済んで良かったんじゃない?」
「それもそうね。でも頑張ったことは褒めてあげないとね。」
ママがもう一度ドライアドの頭を撫でる。
するとドライアドは嬉しそうに目を細め、そのままママのお腹へ顔を埋めた。
すっかり甘えん坊になってしまった。
私にはここまで甘えることないんだけど、ママは特別らしい。
……ちょっとだけ嫉妬しちゃう。
「ドライアド、私のところに来てもいいんだよ?」
「ここがいい。」
「即答!?」
少しくらい悩んでくれても良くない?
ママはそんな私たちを見て、楽しそうに笑っている。
「アイラに母性とかはないからねぇ。」
シルフが余計なことを言った。
「むっ、私だってドライアドの保護者いけます。」
胸を張って主張する。
私は契約者なんだから、十分保護者と言っても良いはずだ。
「あらあら、アイラがお母さんになるのは早いわよ。」
ママまで笑いながら否定してきた。
「むぅ……。」
誰も肯定してくれない。
そんな私の横で、シルフまでくすくす笑っている。
今はまだ頼りなく見えるかもしれないけど、私はこれから成長する。
身長も母性も、これから伸びるんだから見てなさい。
宿へ向かう帰り道、施工中の家の前も通っていく。
空からは見たけど、地上からも現在の進捗を確認しておきたかったからだ。
家の前まで来ると、既に工務店の人たちは撤収済みだった。
玄関前には立ち入り禁止の看板が置かれていて、今日の作業が終わっていることが分かる。
「ちょっと見ていこう。」
カートを停めて、家の周りをぐるっと一周してみる。
外から見た限りでは、かなり完成に近づいていた。
まだ細かい部分は残っているけど、この調子ならもうそれほど経たずに完成するだろう。
「アイラが建ててくれたお家、素敵でしょ?」
「素敵。」
ママが嬉しそうにドライアドへ話しかける。
「うん、間取りまで口出した特注の家だもん。そうじゃなきゃ困るよ。」
前世の知識も使いながら、かなり細かいところまで注文を付けた。
せっかく家を建てるんだから、パパとママには少しでも快適に暮らしてほしい。
もちろん、これから生まれてくる私の兄弟にも。
工事の進み具合を確認しながら歩いていくと、セリーちゃんにこっそり注文しておいた窓枠なんかもバッチリはまっていた。
「おぉ~。」
思わず嬉しくなって近づいていく。
お日様の方角には、前世の家にもあった窓ガラスがしっかり取り付けられていた。
ちょうど夕日が差し込む時間帯なので、窓を通った柔らかな光が家の中まで伸びている。
完成したら、ここから夕日を眺めるのも良さそうだ。
それに見た目だけじゃない。
ガラス部分をよく見ると、魔法でしっかり補強されている。
普通の衝撃程度ではまず割れない。
攻撃魔法でも受けない限り、そう簡単には壊れないほど強化されていた。
「へぇ、建物の弱いところを魔法で補強してるのね。」
シルフも窓へ近づき、興味深そうに眺めている。
精霊であるシルフには、施されている魔法がすぐに分かったようだ。
「えへへ、凄いでしょ。パパとママと私の兄弟が住む家だからね。」
安全に越したことはない。
私自身は家にいないことも多いから、何かあった時に家そのものが頑丈なら安心できる。
「そんなところまでちゃんと造られてるのねぇ。」
ママが感心したように窓を眺める。
魔法知識のないママには、普通のお洒落な窓にしか見えていなかったらしい。
むしろ、そうなってほしいと思って作ったので成功なんだけどね。
頑丈だからって、いかにも要塞みたいな家には住みたくない。
見た目は普通のお家だけどしっかり頑丈。そういう家が良いよね。




