幸せな時間③
「は~い、毎度あり~♪」
お店の方から、ママのご機嫌な声が聞こえてくる。
結局、ママの提案を受け入れた私たちは、集まってきた人たちへ姿を見せることになった。
ただし、無条件というわけではない。
まずはママのお店で買い物をする。
そこで一定額以上購入した人だけが私たちの方まで回ってこれて、ハイサモナーの服を見たり、シルフやドライアドを近くで見たり、軽く話したりできる仕組みだ。
各自の持ち時間は三十秒程度。
あまり長居する人はシルフによって容赦なく剥がされていく。
「はい、そこまでよ。次の人が待ってるんだから行きなさい。」
「もう少しだけ!」
「ダメ。」
シルフが風の魔法で相手をふわりと浮かせ、そのまま横へ移動させる。
何という強制退場。
最初は驚いていた周囲の人たちも、何人か続く頃にはすっかり慣れてしまった。
ちなみに、シルフに剥がされたくてわざと粘る人もいる。
「もう三十秒経ったわよ。」
「あと十秒!」
「ダメだって言ってるでしょ。」
「あぁ~!」
嬉しそうに飛ばされていった。
絶対にアトラクションか何かと勘違いしてるよね。
シルフも途中から気付いたようで、少し嫌そうな顔をしている。
「アイラちゃん、その服似合ってるね。ところでうちのパーティに来ない?」
「ありがとう。でも入りませーん。」
「シルフさん、綺麗~!」
「当然よ。」
「ドライアドちゃん、僕と結婚してください!」
「やだ。」
即答だった。
何これと思いながらも、ママのお店にお金を落としてくれた人たちなので丁寧に対応していく。
もちろん、何をしても許されるわけではない。
お触りしてこようとしたり、不埒な発言をしたりした人は、容赦なくシルフと他のお客さんに追い出されていった。
私たちが何か言うより先に周囲のお客さんが怒ってくれることもある。
そこはありがたい。だけど、
「アイラちゃん、一回その場で回ってください!」
「何で?」
「服を後ろからも見たいので!」
「スマイルください!」
「こ、こうですか?」
段々おかしな要求をする人まで現れ始めた。
まるで前世で見たアイドルのお渡し会みたい……。
商品を買った人と決められた時間だけ話す。
衣装を眺めたり、何かをお願いしたりすると満足して帰っていく。
私がやりたかった冒険者という職業は断じてこういう仕事をする存在ではないはず。
「アイラぁ、疲れたぁ……。」
一番幼いドライアドが最初に根を上げた。
今は私に抱き着いたまま肩に顎を置いてぐったりしている。
「だらしないわよ、ドライアド!」
対照的にシルフは元気いっぱいだ。
たまにちょっと気持ち悪い要求をしてくる人もいるので、ドライアドは目に見えて疲れている。
アイドルとファンとの接し方みたいなマナーはこの世界には存在しないので、ここは仕方ない部分もある。
逆に、段々ギアが上がってきたシルフはノリノリだ。
いや、そもそもアイドルじゃないんだけどね。
「はい、次の人!」
いつの間にか進行役まで始めている。
シルフってこういうの意外と向いてるんだね。
見ていると客層にも違いがあった。
男性人気なのがドライアドで、女性人気なのがシルフ。
ドライアドのところには男性が多く、シルフのところには女性が多い。
私はどちらかと言うと少し若い冒険者か、年配の方に人気があった。
「アイラちゃん、大きくなったねぇ。」
「ありがとうございます。」
「立派な冒険者になったな。」
「えへへ。」
昔から私を知っている人もいるから、親戚の子供でも見るような感覚なのかもしれない。
見事に需要が分かれていて、バランスが良い組み合わせなのかも。
断じてアイドルになどなる気はないことを除けばだけど。
そんな状態がしばらく続いた結果、今回の取り組みは大成功に終わった。
「売り切れました~!」
ママの声が響く。
なんと、お店の商品が今日一日で完売してしまったようだ。
普段どれくらい売れるのか正確には知らないけど、ママの嬉しそうな顔を見る限り、とんでもなく売れたことだけは分かる。
ただし、まだ外には買い物できなかった人たちが残っていた。
商品がない以上、これ以上お客さんとして対応することはできない。
そこで特別に、お話は無しという前提で私たちの前を通過して、姿を見ることだけ許すことになった。
ぞろぞろと人が流れていく。
「わぁ……。」
「本当に羽が虹色だ。」
「ドライアドってこんなに綺麗なんだな……。」
見るだけなら問題ない。
これで終わりなら平和なものだ。
そう思っていたのに、
「ありがたや……。」
「……ん?」
両手を合わせて祈りながら歩いていく人がいた。
一人だけじゃなくて何人かいる。
「こんな綺麗な精霊を二人も連れているなんて……。」
「神様みたいだ……。」
怖いからやめて。私はただの人間です。
そういう方向へ話を広げるのは本当にやめてほしい。
絶対に関わらないようにしよう。
「アイラは人間に決まってるじゃない。」
シルフが呆れたように言う。
そうだよ。もっと言ってあげて。
「ねー。女神様に言っちゃもごもご。」
「ドライアド、少しだけ黙っててねー。」
私は慌ててドライアドの口を押さえた。
危ない! 今、何を言おうとしたの!?
人間の前で、女神様に会えることを察せられるような発言は私のためにも控えてね。
「?」
ドライアドが口を押さえられたまま、不思議そうに私を見ている。
どうして止められたのか分からないって顔してもダメです。
後でしーっかり教えてあげないと、何を言うか分からなくて怖い。
ドライアドは世界の知識を持っているとはいえ、こういう事情までは分からない。
まずは人間世界の常識をシルフと一緒に教えていかないと。




