幸せな時間②
「ただいま!」
「あら、お帰りなさいアイラ。その格好はもしかして……。」
ママの視線が私の服へ向けられる。
「前に話した通り、ハイサモナーになれたんだよ。」
「あの噂は本当だったのね……。」
ママは驚いたように私を見つめている。
信じてなかったわけじゃないけど、どうしても戸惑ってしまうといったところだろうか。分かるよ。
まさか冒険者としては平凡以下だと思っていた自分の娘が、今までは国中探しても誰一人いなかったハイサモナーになれるなんて思わないよね。
「アイラとそっくりな人、誰?」
私の後ろから、小さな声が聞こえてきた。
振り返ると、ドライアドが私の背中へ隠れながら、おずおずとママの方を見ている。
そうだった。紹介するのが遅れちゃった。
「ドライアド、こっちは私のママだよ。」
「アイラのお母さん?」
世界の知識で母という概念は理解しているようだ。
ドライアドは私とママを交互に見比べ、それから興味深そうにママをじーっと見つめた。
「まぁ、貴女がドライアドちゃんなのね。聞いていた話より大きいのね。」
ママもようやくそこにドライアドがいたことに気が付いたようで、興味深そうに顔を覗いていた。
ドライアドは少し恥ずかしそうにしながらも、逃げることはない。
どうやら第一印象は悪くなさそうだ。
「久しぶりね。」
今度はシルフがママに声を掛ける。
「まぁ、シルフちゃんも大きくなったのね。美人さんだわ。」
「ええ、ええ。そうでしょう、そうでしょう。」
シルフが得意げに胸を張る。
鼻を高くして浮かれすぎだけど、本当のことだから仕方ない。
今日はお調子乗りも許してあげるべきタイミングだ。
そんな様子のシルフは無視して私は本題に入ることにした。
「今日はお店を手伝うよ。」
「あら、いいの?」
「うん、今日は少し匿ってほしいというか。それにこれまでの話もしないとでしょ?」
外をちらりと見る。
さっき私たちが降りてきた場所を見て、何人かがこちらの様子を窺っていた。
だけどお店に用事は無いのでこちらまでは来れないと言った様子。
やっぱり逃げ込んで正解だった。
この後、パパにも説明しなきゃいけないので二度手間にはなってしまうけど仕方ない。
それに身重なママの手伝いにもなる。
これは私にとっても一石二鳥なのだ。
お店を手伝いながら、アールヴヘイムでの経緯を話す。
もちろん、ガイアと会ったことやGM権限については一切話せない。
話せる範囲だけを選びながら、それでもできる限り詳しく説明した。
ママは時々驚いたり質問したりしながら、私の話を一語一句まで聞いてくれた。
そこからサラマンダーとウンディーネの話にも発展して、将来は会わせる約束もしておいた。
さすがにエレメンタルマスターのことは説明していない。
多分、説明しても分からないだろうし、もう信じる信じないの話ではなさそうだから。
大雑把に、一年以内には二人にも会えるだろうと伝えるに留めた。
一通りの報告を終えた後は、本格的にお店を手伝うことにする。
「いらっしゃいませ~!」
今日も看板娘が大きな声で客引きをしている。
ママの姿を見た客たちは興味を引かれて店に立ち寄っていく。
その光景が、ミツバチを誘き寄せるお花のようで面白い。
だけど、今日はいつもと少し様子が違った。
お客さんたちは近づいて商品を見るや否や、私やシルフ、ドライアドの存在に気付く。
一瞬動きを止め、こちらを凝視する。
そして商品も買わずに、足早にお店を去っていってしまった。
「うーん……。」
やっぱり注目を集めてしまっているようだ。
逆に営業妨害になりそうだから、お店を離れようか。
そんなことを悩み始めた頃には、別の問題が起きていた。
気付けば、お店の前が見物人でいっぱいになり始めている。
通りすがりの人だけではない。
話を聞きつけて、わざわざ見に来たらしい人まで混ざっている。
商品も買わずに店の前に屯されると邪魔なんですけど。
本当に買い物へ来たお客さんが近づけない。
これでは完全に営業妨害だ。さっさと追い払おう。
私は店の外へ出ると、集まっている人たちへ向かって声を張った。
「買い物しないなら邪魔になるので帰ってくださ~い。」
ざわざわしていた人たちが一斉に静かになる。
何人かが気まずそうに顔を見合わせた。
これで少しは帰ってくれるかな。
「買い物する! するからちょっとだけでもアイラちゃんと精霊の姿を……。」
「えぇ……?」
予想していなかった返事が飛んできた。
私たちが見たいから買い物をするって言ってるの?
「俺も買うぞ!」
「私も!」
「じゃあ私も何か買います!」
次々と手が上がる。
ちょっと待って、そういう意味で言ったんじゃない。
私は助けを求めるように後ろを振り返った。
商品を浮かせ、見やすいように陳列していたシルフは嫌そうな顔をしている。
うん、シルフも見世物になるのは嫌みたいだ。
ドライアドの方も見てみる。
ドライアドはママが気に入ったのか、いつの間にかべったりくっついていた。
特に気にしているのは、ママのお腹の周りだ。
私の兄弟のことを守ってくれているらしい。
時々お腹をじーっと見つめては、周囲を警戒するように見回していて可愛い。
これ引き剥がそうとしたら嫌がりそうなんだけど。
「良いじゃない、よく見せてあげなさい。どちらにしても、どこかで収拾付けないとずっとこのままよ?」
ママが楽しそうに笑いながら言った。
「うっ。」
言っていることは尤もだ。
ここで全員を追い返しても、私がサジタリウスにいる限り、別の場所で同じことが起こるかもしれない。
何より店の前へ集まられ続ける方が困る。
ここまで来たら腹を括るしかないのかな。
広場で冒険者たちから逃げた時、私はこの問題を未来の自分へバトンパスした。
私はようやく理解した。
未来の自分は今ここだったらしい。




