幸せな時間①
『ポータル』の光を抜けると、サジタリウス前の広場に出た。
二度目の転送ともなると、ドライアドの様子も落ち着いたものだった。
ただ、『ポータル』へ入る前に「手を繋いでくれないとヤダ」と駄々をこねた時は驚いた。
どうやら魔導都市レオへ飛んだ時、私と手を繋いで『ポータル』へ入ったことがよほど嬉しかったらしい。
私としても、こんな可愛いお願いを無視することはできなかったので聞いてあげることにした。
転送が終わった今も、ドライアドは満足そうに私の手を握っている。
「どうかな、ここが私が生まれ育った場所だよ。」
「ほわぁ~。」
ドライアドは興味津々といった様子で辺りを見渡していた。
町の周囲には森が広がり、たくさんの木々が生えている。
自然の多いこの辺りは、ドライアドにとっても過ごしやすい場所のはずだ。
私の故郷を気に入ってくれたら嬉しいな。
後で町の中を案内してあげるからね。
私が小さい頃から歩いてきた道や、いつも使っていた場所。
見せたいものはたくさんある。
「楽しんでいるところ悪いんだけど、ゆっくりしてられないみたいよ。あっちを見なさい。」
「ん?」
シルフが私の袖をくいくいっと引っ張った。
何事かと思って指差された方向を見る。
広場にいた冒険者たちが、揃ってこちらを見ていた。
「ねぇ、あの子もしかして……。」
「隣の二人って精霊だよな? あんなに大きな精霊を連れてるの見たことないぞ。」
「もしかしてあれが噂になってる……。」
「アイラちゃんじゃない?」
「あ……。」
さっそく周囲から注目を集めていた。
私自身の服装も以前とは違うし、何より隣にいるシルフとドライアドが目立ちすぎる。
二人とも今では立派な大人の姿だ。
以前のシルフを知っている人なら、その変化だけでも驚くだろう。
どうやら、ゆっくり故郷案内をしている時間もないらしい。
こちらを見ていた冒険者の何人かが、意を決したように近づいてくる。
「シルフ、魔法で私たちを飛ばして。」
「そんなことしたら余計に目立つんじゃないの?」
「今回はやむなし。ママのお店まで一気にお願い。」
「了解。」
シルフが魔法を唱えると、私たちの体がふわりと宙へ浮かんだ。
ドライアドは私と繋いでいる手へ少しだけ力を込める。
「あ、あのっ!」
「すいませーん、急いでますので!」
意を決して話しかけてきた冒険者に謝罪して、一気に飛び上がる。
地面が遠ざかり、こちらへ伸ばされた手も届かなくなった。
危ない。もう少しで捕まって、もみくちゃにされるところだった。
とはいえ、これは問題の先送りでしかない。
サジタリウスへ帰ってきた以上、ずっと空を飛んで逃げ続けるわけにもいかない。
これからどうしたものかと頭を悩ませるけど。
「何も良い案が思いつかないや。」
大きくため息を吐くと、ふとサジタリウスの町並みが視界に入った。
こうして空から見下ろすと、長閑で優しい雰囲気の町だ。
見慣れた道。見慣れた建物。
何度も歩いた場所が眼下を流れていく。
私の実家の建て替えも上から見る限りでは、かなり施工が進んでいるようだ。
こうしていると故郷に帰ってきたという安心感もあって、自然と頬が緩む。
「まぁ注目されていることについては何とかなるでしょう。」
私は問題を未来の自分にバトンパスすることにして考えるのを止めた。
今日帰ってきた理由は三つある。
一つ目は、私の誕生日が明日だから。
しばらく帰ってこなくても大丈夫とは言われていたけど、さすがに誕生日くらいはパパとママと一緒に過ごしたい。
普段家にいない分、こういう記念日は大切にしないとね。
二つ目は、ハイサモナーになれたことをパパとママに報告するため。
さっきの冒険者たちの様子を見る限り、私がハイサモナーへ転職したこと自体は、既に噂になっているみたいだった。
それでも人づてに聞くのと、娘本人から報告されるのとでは違うだろう。
ちゃんと自分の口から伝えないとね。
そして三つ目は、ドライアドに故郷を見てほしかったから。
「ほわぁ~。」
今も私の手を握ったまま、目を輝かせて町を見下ろしている。
この様子なら、第一印象は悪くなさそうだ。
私がいつも座っていたベンチとか、毎日使っていた井戸とかも見せて回るつもり。
特別な場所じゃないけど、私にとっては大切な思い出がある場所だから。
エレメンタルマスターになったらサラマンダーとウンディーネにもサジタリウスを見てもらわなきゃね。
二人にも私が育った町を見てほしいから。
そんなことを考えていると、目的地が見えてきた。
「アイラ、着いたわよ。」
「うん。ありがとう、シルフ。」
シルフの魔法でゆっくり高度を下げていく。
そしてお店の前へ降り立った瞬間、周囲がざわついた。
「空から人が降りてきたぞ!」
「もしかしてアイラちゃんじゃない?」
空から降りてきた私たちを見て、周囲はちょっとしたパニック状態になっている。
……そりゃそうなるよね。
シルフの言う通り、飛んだことで余計に目立ったけど気にしていられない。
誰かに捕まる前に、私はドライアドの手を引いてそそくさと退散した。
「シルフ、早く!」
「分かってるわよ。」
三人揃ってママのお店へ逃げ込む。
店の中へ入ると、椅子に座ってお客を待つママの姿が目に映った。




