危うい冒険心④
スライムは石で弾け飛んでしまったため素材は残らなかった。
だけど今の私の力では、これ以外の倒し方は思い付かない。
せめてもの気持ちとして奪ってしまった命に両手を合わせる。
「ごめんなさい。」
短いお祈りを終えると、私は次のスライムを探し始めた。
草むらで一匹。岩の上で一匹。湖畔で一匹。
見つけるたびに近くへ落ちている大きめの石を拾い上げ、スライムの上へ落とす。
一匹ずつ確実に着実に経験を積み重ねていく。
そして十数匹目のスライムが弾け飛んだ、その瞬間だった。
頭上から降り注いだ柔らかな光が、私の周りで淡く輝く。
「おぉ、本当にきた。」
これはレベルアップに間違いない。
発生したエフェクト?も記憶と一致している。
「レベルアップした!」
この世界にもレベルアップは確かに存在していた。
「やったやった!」
思わずその場で何度も小さく飛び跳ねる。
これでまた一つ、この世界がネームレスオンラインのシステムを受け継いでいることが証明された。
それは私の知っている通り強くなって行けることへの証明でもあった。
「ところでステータスポイントやスキルポイントの割り振りはどうしたらいいの?」
浮かれたのも束の間、新しい疑問が浮かぶ。
ネームレスオンラインは自由度の高さが売りのMMORPGだった。
レベルアップで得られるステータスポイントとスキルポイント。
それらを自由に割り振り自分だけのビルドを作り上げる。
『ナイト』なのに魔力を伸ばす人がいる。
『ウィザード』なのに『ナイト』顔負けの体力を持つ人もいる。
プレイヤーごとの個性が生まれるゲームだった。
もっともサービス開始から二十年以上が経ち、レベル上限の解放が何度も繰り返されるうちにステータスポイントの総量は過剰になった。
やがて全ステータスをほぼ均等に伸ばすビルドが主流となり、その自由度も少しずつ薄れていく。
時代背景的にもテンプレが求められるようになったことが更なる後押しとなって、最後は個性よりも効率が重視されるようになっていった。
とはいえ、それは未来の話。低レベルのうちは違う。
どの職業を選び、どの能力値を伸ばすか。
その選択一つで、その後の冒険は大きく変わる。
だからこそ職業選択もステータスやスキルの割り振りも慎重に考えなければならない。
「で、ステータス画面ってどうやって出すの?」
長い沈黙。森の中を風が吹き抜け、木々の葉がさらさらと揺れる。
そこまで考えていなかった。
「いや、いやいやいや。」
レベルは確かに上がった。
でもステータス画面が開けなければステータスポイントもスキルポイントも振れない。
それでは、せっかく立ててきた育成計画が全部水の泡だ。
「オープンステータス! ステータス画面! 開けゴマ!」
頭の中でステータス画面を思い浮かべたり、それらしい言葉を念じたりと、いろいろ試してみる。だけど何も起こらない。
自由に割り振れるステータスポイントやスキルポイントを得たような感覚もなかった。
「まだ一回しかレベルアップしてないからかな?」
念のため再検証することにした。
そこからさらにスライムを二十匹以上倒す。
何度も石を持ち上げては落とす作業を繰り返していると、再び柔らかな光が私の体を包んだ。
「これでレベル三になれたはず。」
だけど、状況が変わることはなかった。
しばらく色々と試してから、ふぅ、とため息がこぼれる。
「ステータス画面なんて都合がいいもの、あるわけ無いもんね。」
ステータス割り振りについては一旦保留にすることにした。
もしかしたら、鍛練やスキルの練習を重ねることでポイントを消費するのかもしれない。
新たに検証できそうなことが見つかり、むしろ好奇心が刺激されてくる。
まだまだ、この世界には秘密がたくさんありそうだ。
「それはそれとして、分かっていたことだけどモンスター討伐は大変だなぁ。」
思わずぼやいた。
最初から数えてスライムを四十匹近く倒したところで、そろそろ腕が限界に近づいている。
重い物を持ち上げようとすると腕がぷるぷるしてきた。
「重い石を何度も持ち上げたもんね。」
腕をぶらぶらと振ってみる。
疲労が溜まっていて、少し重い。
魔力の影響もある世界だから、同年代でも信じられないほど力や体力に恵まれた子はいる。
それなのにこれくらいで疲れてしまう私は、この世界の子供としては、かなりひ弱な方だ。
こんな調子だと前世の知識があっても冒険者としてやっていくのは難しいかもしれない。
もしメインストーリーのように、王国の冒険者として魔王と対峙する可能性まで考えればなおさらだ。となると、
「やっぱり、『あれ』を使うしかないのかな。」
口にすると胸の奥が少しだけざわつく。
『あれ』を使うことには強い抵抗があった。
もし成功してしまえば、いろいろと後戻りできなくなるかもしれない。
今日まで何度も悩んで、ずっと保留にしてきた問題だ。
だけど私の夢を叶えるためにも大切な人を守るためにも、それが最善の道だと思う。
今もやめておくべきじゃないかと頭の中で警鐘が鳴り続けている。
それでも私は覚悟を決めた。
目を閉じて何度か深呼吸をする。
そして《CreateItem》で石を生み出した時と同じように、両手を前へ差し出した。
「……よし、やるよ。」
ゆっくりと息を吐く。
そして、静かに呟いた。
「《CreateItem Laevateinn》」




