四柱の精霊王⑮
「じゃあサラマンダーとウンディーネ、今日はもう帰るけど、定期的に遊びに来るからその時はよろしくね。」
「うん、楽しみにしているよ。」
「私もアイラが遊びに来てくれたら嬉しいです。」
二人とも笑顔で答えてくれた。
せっかく仲良くなれたのに、置いていかないといけないのが寂しい。
今すぐ二人も連れて行けたら一番なんだけどね。
しゅばばばーっとレベルを上げてしまえば早いんだけど、私利私欲のためだけにGM権限を使うのは抵抗あるんだよね。
今までだって使わなくて良い力はなるべく使わないようにしてきた。
二人と早く冒険したいからという理由だけで、その方針を曲げるつもりはない。
ちゃんと自分たちの力でレベルを上げて、エレメンタルマスターになってから迎えに来よう。
「毎晩土産話を持って行ってあげるから待ってなさい。」
シルフが得意げに胸を張る。
「私も一緒にアイラのこと教えてあげる。」
ドライアドまでシルフに続いた。
こちらもすっかり仲良しになったみたいで嬉しい。
昨日会ったばかりなのに、四人で話している姿は昔からの友達みたいだった。
でも私の個人情報を勝手に言いふらすのはやめてね?
特にシルフは前科があるからね。
「近くに誰か来てるね。名残惜しいけど、そろそろ行った方が良いよ。」
サラマンダーが少し遠くを見るように目を細めた。
どうやらさっきの探知に何か引っかかったみたい。
本当にもう時間が無いようだ。
誰かに見つかって囲まれてしまったら、帰るだけでも大変になりそう。
「じゃあサラマンダーとウンディーネも必ず迎えに来るから、ちゃんと元気にしててね。」
「精霊が風邪をひくなんて聞いたことありません。」
ウンディーネが少しだけおかしそうに笑った。
確かにそうなんだけど、こういうのは別れ際のお約束みたいなものなの。
「むしろ次に会う時は、もっと強くなってアイラをびっくりさせるよ。」
サラマンダーは拳を握ってやる気満々だ。
頼もしいばかりの返事だね。
次に会う時が楽しみになってきた。
私たちがレベルを上げている間、二人もここで成長していく。
次に会った時には、今とはまた違った姿を見せてくれるのかもしれない。
「ほら、じゃあ行くわよ。アイラ、ドライアド!」
「お願い、シルフ。」
「飛んでいけー!」
シルフが精霊魔法を使うと、私とドライアドの体がふわりと浮かび上がった。
足が地面から離れ、そのままゆっくりと高度を上げていく。
世界樹の枝葉が少しずつ遠ざかり、さっきまでいた場所も徐々に小さくなっていった。
「アイラー、またねー!」
下からサラマンダーの大きな声が聞こえる。
「また来る日をお待ちしております!」
ウンディーネも大きく手を振りながら見送ってくれていた。
「待ってなさい、後輩たちー!」
シルフも負けないくらい大きな声で返す。
シルフ、それ気に入ってるね。
さっき私に先輩と言われてから、完全に二人を後輩扱いしている。
「ばいばーい!」
ドライアドが両手を大きく振った。
「またねー!」
私も負けじと声を張り上げる。
サラマンダーとウンディーネの姿がどんどん小さくなっていく。
それでも二人はずっとこちらを見上げて手を振っていた。
私とドライアドも、その姿が見えなくなるまでずっと大きく手を振り続けた。
「いや~、良い出会いだったね~。」
世界樹が遠くなったところで、私は満足しながら息を吐いた。
来る前はサラマンダーとウンディーネがどんな性格なのかも分からなかった。
契約できるかどうかだって、絶対の保証があったわけじゃない。
それが今では、離れるのが寂しいと思えるくらい大切な存在になっている。
「たくさん契約できて嬉しい?」
隣を飛んでいたドライアドが首を傾げた。
その質問を聞いた瞬間、私はちょっとだけ違和感を覚える。
たくさん契約できたから嬉しい。
そう言ってしまうと、何だか数が増えたことを喜んでいるみたいだ。
それは少し違うから、ここは私なりの言葉で修正しておきたい。
「ううん、サラマンダーとウンディーネだから嬉しい。」
「……っ、うん!」
ドライアドの目がぱっと輝いた。
何度も嬉しそうに頷いている。
精霊王だから契約したかったわけじゃない。
強い精霊を増やしたかったわけでもない。
昨日から一緒に話して、笑って、少しずつ相手のことを知った。
その二人と家族になれたから嬉しいんだ。
「もちろんドライアドとも冒険できるようになって嬉しいよ。」
「……!」
今度こそ、ぽんとドライアドの頭に赤い花が咲いた。
分かりやすいなぁ。
「これからは私のことも見てくれなきゃダメだよ。」
ドライアドが私の腕にぎゅっと捕まる。
「はいはい、今までアイラを独占して悪かったわね。」
少し前を飛んでいたシルフが振り返った。
「本当だよ、シルフ。許さない。」
「えぇ?」
ドライアドが珍しく不満を口にしていて楽しい。
いつもはのんびりしているドライアドが、シルフを相手に頬を膨らませている。
「こぉ~ら、喧嘩しないの。」
二人の間に割って入るように声をかける。
「だって聞いて、アイラ。シルフがアイラと冒険したこと、毎晩自慢してくるんだよ。」
「自慢なんてしてないわ!」
「毎晩?」
ドライアドがこくこくと頷く。
これは相当お冠の様子。
少し注意したくらいでは止まりそうにない。
「ドライアドをこんなに怒らせるなんて、普段から何言ってるのシルフ。」
「わ、私はアイラとの冒険を話して、羨ましいでしょとか、楽しかったことを精霊たちに話しただけよ!」
それを自慢って言うんだよ。
冒険の話をするのは良くても、それを自慢されて喜ぶ人ばかりじゃないからね。
特にドライアドは、ずっと私と一緒に冒険できる日を待っていたんだから。
「それはシルフが悪い。」
「悪い。」
私が言うと、ドライアドもすぐに続いた。
「うぐっ。」
二対一になったシルフが言葉に詰まる。
怒られて嫌そうな顔をするシルフと、私が味方になって嬉しそうなドライアド。
どちらも可愛くて甲乙つけがたい。
その後も、私たちは快適な空の旅をしながら雑談に興じた。
時間にして一時間ちょっと。
以前ならもっと時間がかかっていたはずだけど、出力の上がったシルフの飛行魔法のおかげで移動時間が大幅に短縮されている。
やっぱり成長した影響は大きいみたい。
途中で近寄って来た鳥型のモンスターやグリフォンなどは、シルフと一緒に撃ち落としていく。
シルフの魔法は以前より明らかに強くなっているし、私も戦いながらその変化を実感できた。
ドライアドは私の腕に捕まったり、空から見える景色を眺めたりしながら終始楽しそうにしている。
こうして特に大きな支障もないまま、アールヴヘイムに近い町、タウルスに到着したのであった。
「さて、どうしようかな。」
町へ降りたところでお腹に手を当てる。
そういえば朝から何も食べていない。
さすがにお腹は空いているんだけど、今日はタウルス料理の気分じゃないんだよね。
どうせなら魔導都市レオに行って、ウィザードギルドでハイサモナーになったことを報告しとこうか。
それにネネさんやルカさんにもこの姿を見せたい。
二人がどんな反応をするのか、ちょっと楽しみだ。
「今日はご飯をここで食べないで、『ポータル』でレオに向かうよ。」
「分かったわ。」
「はーい。」
シルフはともかく、ドライアドは初めてなのに私の話が本当に通じたのだろうか。
元気良く返事をしているから、まあいいか。
分からないけど一旦流しておいた。
転送屋の前に来るまでにも、散々私やシルフとドライアドの姿を見られた。
すれ違った人が振り返る。
店先にいた人が手を止める。
やはり見知らぬ格好の冒険者が精霊を二人も連れているとかなり目立ってしまうらしい。
だけどここは無視!
誰かに話しかけられる前にさっさと目的を果たさなきゃ。
お店に飛び込むと、すぐに転送屋へお願いして魔導都市レオまでの『ポータル』を開いてもらった。
床に青白い光が広がり、転送用の魔法陣が形作られていく。
「おぉ~……。」
ドライアドが目を輝かせた。
知識としてはあっても初めて見たものに好奇心いっぱいな様子で、青白く輝く『ポータル』をじっと見つめている。
今にもしゃがみ込んで観察を始めそうな勢いだ。
「ドライアド、一緒に入ろうか。」
「え?」
あまり時間もないので、ドライアドの好奇心には一旦蓋をしてもらうことにする。
私はすっとドライアドの手を取ると、そのまま青白い光の中へ飛び込んだ。
「わ、わわ?」
突然手を引かれて、ドライアドが驚きの声を上げる。
「あ、こら、ちょっと。待ちなさーい!」
後ろからシルフの声が聞こえてきた。
どうやら私たちだけ先に入ったせいで、置いていかれたと思ったらしい。
青白い光に包まれながら、私は思わず笑ってしまう。
アールヴヘイムで新しい家族が増えて、ドライアドとも一緒に旅ができるようになった。
次に向かうのは、久しぶりの魔導都市レオ。
そこではまた何が待っているんだろう。
私の冒険はまだまだ続く。




