四柱の精霊王⑭
シルフは私の顔をじっと見つめ、やがて大きなため息を吐いた。
「ありえないでしょ。神話の世界でもそんな装備聞いたこと無いわよ。」
「でもあるんだよね。」
実際に使っちゃったし。
存在しないと言われても困る。
「本当にでたらめね。」
シルフが額を押さえている。
その横では、サラマンダーとウンディーネが私とシルフを交互に見ていた。
ドライアドも途中から話に付いてこられなくなったのか、ぽかんとしている。
どうやら他の子たちは、何かすごい話をしているくらいの認識になってしまったようだ。
まあ、いきなりほぼ全ての攻撃を無効化する盾なんて言われても、普通はそうなるよね。
「他にもいろいろあるんじゃないの?」
シルフが恐る恐る聞いてくる。
その顔は、できれば否定して欲しそうに見えた。
「あるよ。」
「あるのね……。」
即答すると、シルフの肩ががくりと落ちた。
もちろんある。
GM権限そのものを含めれば、私が使えるものは装備だけじゃない。
今まで試した《HidePC》や《Warp》、《CreateItem》に《Storage》。
他にも前世で使っていたものはいくつも覚えている。
とはいえ、それを全部を披露するつもりはない。
使わなくていい力は今後も使わないで行きたいもん。
今日の目的はサラマンダーとウンディーネが、いざという時に私の力を見ても驚かないようにすることだから。
これ以上やったら説明だけで一日が終わっちゃいそうだ。
「アイラ凄~い。」
ドライアドが素直に褒めてくれる。
「それほどでもないよ。」
謙虚にそれほどでもないと言っておいた。
レーヴァテインを始めとしたGM装備をいくつも持っていて、ほぼ全ての攻撃を無効化する盾まで使える。
さらに普通なら誰も知らないGM権限まである。
こうして並べてみると、我ながら全然それほどでもなくない気がする。
前世のミームを使って誤魔化しでもしないとやっていけないのだ。
「……何でちょっと得意そうなのよ。」
「気のせいだよ。」
分かっていたことだけど残念ながらこのネタはシルフには伝わらなかった。
隣ではドライアドが相変わらず「アイラ凄い」と喜んでくれていて、サラマンダーとウンディーネもまだ少し呆然としている。
秘密を説明するだけのつもりだったのに、何だか私のびっくり能力お披露目会みたいになってしまった。
まあ、これで四人とも最低限は知ってくれた。
今後いきなりGM装備を使っても、今日ほど驚くことはないだろう。
「さて、噂を聞きつけて私を探し始める人もいるかもだし、そろそろお暇しますか。」
これ以上ここに長居して、さっきみたいに大勢から注目されるのは避けたい。
目的だったサラマンダーとウンディーネとの契約も無事に終わった。
四人でゆっくり話すこともできたし、私の秘密についても最低限は伝えられた。
名残惜しくはあるけど、そろそろ帰るにはちょうど良い頃だろう。
「ちょっと待ってね。」
「ん?」
サラマンダーが目を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。
すると体から赤い魔力がふわっと流れ出す。
放たれた魔力は波紋のように円形へ広がり、壁を越えてさらに周囲へと拡散していった。
だけど、魔力反応に聡い者じゃないと気付けない程度の微弱な魔力だ。
攻撃魔法みたいな激しさはなく、静かに周囲へ溶け込んでいく。
「サラマンダーの探知魔法ってこういう感じなんだぁ。」
私が感心して眺めていると、ドライアドも魔力に気付いたらしい。
不思議そうにきょろきょろと周囲を見回している。
「私も初めて知りました。どうやらアイラと契約して成長したことで、初めて分かるようになったみたいです。」
ウンディーネも興味深そうに、広がっていく魔力の流れを追っていた。
同じ精霊同士でも、今までは分からなかったんだ。
成長したことで能力が上がったのはシルフだけじゃない。
こういうところでも変化が起きているみたい。
私も以前は火の精霊王が使った探知魔法を感じれなかったのに、ハイサモナーになったことで気付くことができるようになっていた。
しばらくして、サラマンダーが閉じていた目を開いた。
「アイラ、大変だよ。外が騒がしくなってきてるみたい。」
「まさか……?」
嫌な予感しかしない。
「うん。アイラのことが噂になっていて、一部のエルフや人間がアイラを探しているみたい。」
「うわぁ、絶対面倒事になるやつじゃん。」
さっき泉から逃げてきて、まだそこまで時間経ってないよね?
それなのに、もうアールヴヘイム中に噂が広まっているの?
妖精の噂話の広がり方を甘く見ていたかもしれない。
「これは逃げるが勝ちね。」
シルフが迷いなく言い切った。
「うん。私もそう思う。」
これはシルフの提案を飲むべきだ。
別に悪いことをして逃げるわけじゃない。
面倒事になる前に帰るだけ。
「もしもアイラにむやみに近づこうとする輩がいたら、私が何とかします。」
ウンディーネが静かな声で告げる。
笑顔なのに何だか怖い。
「私もアイラのことを聞き回るような奴がいたら、私のところで止めとくね。」
サラマンダーまで頼もしいことを言ってくれた。
「ありがとう。」
う~ん。頼もしすぎて相手への心配が勝る。
さっき人間を攻撃したらダメだとは伝えたけど、私がいない場所でどこまで守ってくれるのかは分からない。
手荒なことはしないで欲しいところだけど、見ていないところまで全部制御することなんてできないし、自主性に任せよう。
私の言うことを何でも聞かせる関係にしたいわけじゃない。
本当に問題があったら、その時にまた話し合って調整すればいいしね。
「まだまだ話したいこともたくさんあったけど、今回はお開きだね。」
昨日出会ったばかりなのに話したいことはいくらでも浮かんでくる。
サラマンダーとウンディーネについても、まだ知らないことばかりだ。
二人だって私に聞きたいことがあると言っていたから、それはまた会った時のお楽しみにしておこう。
これでお別れになるわけじゃないんだから焦る必要なんてない。
「それにしても本当に鬱陶しい方たちですね。」
「……ウンディーネ?」
静かに呟いたウンディーネを見る。
目が怖い。完全に親の仇を見つけた子供の目になっているよね?
いつもの上品で落ち着いた雰囲気はどこへ行ったの。
「まぁまぁ。たった一年辛抱したらアイラと冒険できるんだから、ここは我慢だよ、ウンディーネ。」
サラマンダーが宥めるように肩へ手を置く。
「ウンディーネ、怒らないで。」
反対側からドライアドも声をかけた。
二人に諫められ、ウンディーネの険しかった表情が少しずつ崩れていく。
やがて肩を落とし、しゅんと俯いてしまった。
「申し訳ございません、つい。」
「ううん。」
そんなに落ち込まなくてもいいのに。
むしろ、まだ出会ったばかりの私のことを大事にしてくれているのが伝わってくるから、悪い気はしない。
虎の尾を踏みそうな人たちのことは少し心配にはなるけどね。
「別に良いんじゃないの。あたしだってアイラの嫌がることする奴は絶対許せないし。」
シルフが当然のように言った。
するとドライアドとサラマンダーも同意するように、うんうんと首を縦に振る。
「みんな……。」
何だろう。こうして真正面から大切にされると、ちょっと照れ臭い。
シルフとドライアドとはこれまで一緒に過ごしてきた時間がある。
サラマンダーとウンディーネとは、まだ出会ったばかり。
それでも四人とも私のことを大切に思ってくれている。
私にもまだまだ皆のことでよく分からないところが沢山ある。
それでも全幅の信頼を寄せてくれていることが分かった。
私たちの関係はまだ始まったばかりで今はまだ全部を知る必要なんてない。
これから一緒に過ごしていけば、もっとお互いのことを知っていけるんだから。
私だって、皆が困っていたら助けたい。
悲しんでいたら寄り添いたいし危険な目に遭っていたら守ってあげたい。
そうやってお互いを大切にできる関係でいたい。
世界を冒険すること。
家族と幸せに暮らすこと。
レイディアントを倒すこと。
やりたいことも、やらなきゃいけないこともたくさんある。
でも、今はこの四人との信頼関係をずっと維持していくことが、これからの人生最大の目標なのかもしれない。
そう思えるくらい、今の私はこの子たちのことが大切に思えた。




