四柱の精霊王⑬
「アイラ。二人にもあの秘密を教えてあげないとビックリする。」
「うん、私もここを出る前には教えてあげなきゃって思ってたよ。」
ドライアドの言う通りだ。
GM権限のことは、少しだけでも話しておかなきゃいけないと考えていた。
全部を説明する必要はない。
だけどレイディアントと戦う時などに、何の説明もなく突然レーヴァテインを装備したら、サラマンダーとウンディーネがビックリするもんね。
昨日契約したばかりの二人に、いきなり私の秘密を全部話すには早すぎる気がした。
それでも一緒に戦う仲間になる以上、最低限知っておいてもらった方が良い。
「ねぇ、サラマンダーとウンディーネ。」
「何?」
「はい。」
二人がこちらを見る。
「これは女神様と精霊女王様、精霊王たちしか知らないことだから、秘密にしていて欲しいんだけど。」
二人の表情が一気に真剣になった。
それを確認してから、私は頭の中で《Storage》と念じる。
目の前の空間が歪み、見慣れたワームホールが姿を現した。
「わっ、わっ。何これ不思議~。」
サラマンダーが目を輝かせながらワームホールの周りを覗き込む。
「これは精霊の知識にもありませんね。」
ウンディーネも興味深そうに観察していた。
精霊は世界の知識を得た状態で生まれてくる。
魔法の使い方やスキル、種族や街など、この世界で生きていく中で必要な知識は生まれながらにして持っている。
そんな精霊も知らない力が目の前に現れた。
二人が関心を持つのも当然だろう。
「多分ビックリするだろうけど、騒がないでね。」
そんなの無理だろうけど。
私は《Storage》の中へ手を伸ばした。
「えっ、何?」
「どうしたのですか?」
戸惑う二人へ悪戯っぽく笑い、レーヴァテインの柄をぐっと握る。
その瞬間。体の奥底から、力が一気に湧き上がった。
魔法力が急激に膨れ上がり、全身を満たしていく。
「わ、わわわ、わわわわわ!?」
真っ先に声を上げたのはサラマンダーだった。
自分の体を見下ろしながら両手をばたばたと動かし、突然起きた変化に完全に狼狽えている。
「何これ!? 何これ!?」
一方、ウンディーネはサラマンダーとは正反対だった。
「これは……すごい高揚感です……。」
頬を紅潮させ、どこかうっとりとした表情で空を見つめている。
反応が全然違う。
同じ力を受け取ってるはずなのに、性格が出るんだね。
「凄いでしょ? これがアイラが内緒にしてた力よ。」
シルフがなぜか自分のことのように得意げに説明する。
「ほぉー。」
ドライアドも隣で感心したような声を上げていた。
シルフとドライアドは慣れたもんだね。
初めてこの力を感じた時は驚いていたはずなのに、今ではちゃんと自分の力を制御しているように見える。
「私が強敵と戦う時は、いきなりこの状態になる時があるから、その時は気を付けてね。」
「が、頑張る。」
サラマンダーはまだ自分の両手を見つめながら、ぎこちなく返事をした。
「分かりました。」
ウンディーネも頬を赤くしたまま、何とか平静を取り戻そうとしている。
うん。多少やらかしても怒らないから、努力義務でお願いします。
いきなり完璧に扱えるなんて私も思っていない。
シルフとドライアドだって、今みたいに慣れるまで時間が必要だった。
これから少しずつ練習していけばいい。
私は二人の様子を見ながら、レーヴァテインの柄を握る手へ視線を落とした。
秘密を共有する相手が、また二人増えた。
それは少しだけ怖くて、それ以上に嬉しい。
この力を知っても変わらず隣にいてくれるなら、きっとこれからも四人と一緒に歩いていける。
そんな気がした。
「じゃあ、レーヴァテインは一旦しまうね。」
二人が少し落ち着いたのを確認して、私は握っていたレーヴァテインをぽいっとGM倉庫の中へ投げ込んだ。
そのまま《Storage》と念じる。
目の前に開いていたワームホールが徐々に小さくなり、やがて完全に閉じて私たちの視界から消えていった。
同時に、さっきまで全身を満たしていた膨大な力も消えていく。
「あ、戻った。」
サラマンダーが自分の両手を握ったり開いたりしながら、体の感覚を確かめている。
さっきまでの狼狽ぶりと比べれば落ち着いたけど、まだ少し名残惜しそうにも見えた。
「あれはレーヴァテインというのですね。不思議な体験でした。」
ウンディーネも自分の胸元へ手を添えながら、先ほどまで感じていた力を思い返しているようだ。
「うん。装備しただけであんなに強くなるなんて普通じゃないよね。」
自分で言っていて何だけど、本当に普通じゃない。
武器として強いだけなら、まだ分かる。
だけど装備した本人の能力を大幅に引き上げ、契約している精霊たちにまでその恩恵が及ぶ。
考えるまでもなく、デバッグ用のGM装備が現実に存在していること自体がおかしいんだよね。
「あんな感じの装備があと三つあるんだ。」
「……え?」
サラマンダーの動きが止まった。
「あれがあと三つ!?」
「うん。」
そりゃあ驚くよね。
私だってそっちの立場で同じことを聞かされたら、何それって思ったはず。
「でも、精霊の力を強化できるのはレーヴァテインとギャラルホルンだけだよ。他は別の能力を持ってるんだ。」
「ギャラルホルン……。」
ウンディーネが忘れないようにするよう、その名前を静かに繰り返した。
今後使うことになれば、そっちも説明する機会があるだろう。
今はレーヴァテインみたいな装備が他にも存在すると分かってもらえれば十分だ。
すると、今まで話を聞いていたシルフが口を挟んだ。
「女神様のところで使った盾は何だったの? あれは私も初めて見たわ。」
「ああ、あれ? そっか。シルフにも説明してなかったもんね。」
「シルフも知らない装備があるの?」
サラマンダーが意外そうに振り返る。
「ええ、昨日初めて見た盾があるわ。」
勿体ぶるような情報じゃないし教えてあげよう。
「盾の名前はスヴェル。スヴェルはね、ほぼ全ての攻撃を無効化するよ。」
「は?」
シルフの口から、気の抜けた声が漏れた。
目を丸くしたまま固まっている。
「だから、ほぼ全ての攻撃を無効化する盾。」
聞こえなかったのかと思ってもう一度説明してあげた。
「いや、聞こえてるわよ。」
「なら良かった。」
「良くないわよ!」
シルフが勢いよく私へ詰め寄ってくる。
どうして怒られてるんだろう。
「だって星を吹き飛ばした衝撃波がこっちまで来たら大変でしょ。」
まともに巻き込まれたらどうなるか分からない。
だからスヴェルを使った。
私としては、それだけの話なんだけど。
「いや、そうじゃなくて。」
「何かおかしいところあった?」
何を言いたいかは分かっているけど、ここはすっとぼけておいた。




