四柱の精霊王⑫
酷い目……には遭ってないけど、注目は浴びてしまった。
昨日泊めてもらった部屋へ戻ってようやく一息つく。
外から聞こえてくる声もここまでは届かない。
これならしばらくは静かに過ごせそうだ。
「もう平穏な生活は諦めなさい。」
「そうみたいだね。」
シルフの言葉に、私はがっくりと肩を落とした。
人もまばらなアールヴヘイムを歩いてるだけで、あれだけの注目。
人口過密な人間の街を歩いたらどうなってしまうのか。
サジタリウスくらいならまだしも、王都なんかで四人を連れて歩いた日には、とんでもないことになりそうな気がする。
「注目を浴びてしまったら、今日みたいにお願いね、シルフ。」
「任せなさい。」
シルフが得意そうに胸を張る。
「あたしの風なら、あの程度すぐに抜けられるわ。」
「まぁ、私だってアイラを守りますよ。」
ウンディーネも負けじと口を挟んできた。
「ドライアドに任せてー。」
「アイラには誰一人近づけないから。」
ドライアドに続いて、サラマンダーまで頼もしいことを言ってくれる。
四人の精霊王に守ってもらえるなんて、何だか私が精霊女王になった気分。
これほど心強い護衛は他にいないだろう。
「ありがとう。凄く頼もしいよ。でも、人間に攻撃したらダメだからね。」
そこだけは念を押しておかないといけない。
私を守ろうとしてくれる気持ちは嬉しい。
だけど人間の街で私に近づいてきた人を攻撃なんてされたら困るので、人間の常識も少しずつ教えておかないとね。
悪意があって近づいてくる人と、ただ話しかけてくる人は全然違う。
私にとっては当たり前でも、精霊たちが同じ感覚を持っているとは限らない。
「あ、それはあたしがアイラが寝た時に教えておくわ。」
「うん、後輩の指導をお願いね、先輩。」
「せ、先輩……。」
シルフの表情がぱっと明るくなる。
口元が緩んで、羽まで嬉しそうに揺らしていて分かりやすい。
「仕方ないわね。あたしがちゃんと教えてあげるわ。」
「よろしくね、先輩。」
「任せなさい!」
完全に乗せられてる。
今度から面倒事を押し付ける時は、先輩って言おう。
シルフには悪いけど、これは良いことを知ってしまった。
「それで、この先はどうするの?」
少しして、シルフがこれからの予定について質問してきた。
「まずは来週、家に帰らないとね。そろそろ私の誕生日だから。」
「まぁ、おめでとうございます。」
ウンディーネが嬉しそうに両手を合わせる。
「気が早いよ。まだ一週間以上あるから。」
精霊にとって一週間なんて、人間でいう明日みたいな感覚なのかもしれないけど。
長い時間を生きる彼女たちからしたら、一週間程度は誤差みたいなものなのかな。
「何歳~?」
ドライアドが首を傾げる。
「今年で十三歳だよ。」
「へぇ~。だからこんなに小さいんだ。」
サラマンダーが私を上から下まで眺めながら納得したように頷いた。
「もう立派な大人だよ!」
サラマンダーから失礼な発言も飛んできた。
うぐぐ。少し大きくなったからって~!
確かに今のサラマンダーと並ぶと私の方がずっと小さいけど、まだ絶対伸びるはずなんだから今から見ときなさい。
十五歳、十八歳、そのくらいになればきっと追いつく。
……追いつくよね?
「その先はどうするつもりですか?」
ウンディーネの質問に、私は頭の中で今後の予定を整理する。
「う~ん、ママの出産間際まではレベル上げだね。」
「えぇ~。またあの地獄が待ってるの?」
シルフが心底嫌そうな顔をした。
「レベル上げ?」
一方で、他の三人は揃って首を傾げている。
「あ、そっか。」
シルフは知ってるけど、この世界の住人にはレベルって概念は無いんだもんね。
実際にはレベルアップという現象そのものは存在している。
でも、それを数値として捉えているわけじゃない。
私は三人にも分かるよう、簡単に説明してあげることにした。
モンスターを倒したりすることで経験を積み、一定の条件を満たすと体が強くなること。
私はその仕組みをレベルという数値として認識していること。
そして十分に強くなれば、さらに上の職業を目指せること。
三人は途中で口を挟むことなく、興味深そうに私の説明を聞いていた。
「じゃあ、そのレベルが上がると私たちは強くなって、アイラはエレメンタルマスターになれるってことですか?」
「そういうことになるね。」
ウンディーネは理解が早くて助かる。
私が説明した内容をすぐに整理できたらしい。
「そうしたら、みんなで冒険できるようになるってことだね。」
サラマンダーの顔が明るくなる。
「うん、正解。そうしたらきっと楽しいよ。」
四人全員と一緒に世界中を冒険する。
今まではシルフとドライアドだけだったけど、いつかサラマンダーとウンディーネも一緒に連れていける。
ゲームだった頃には考えもしなかった光景だ。
「楽しみだね~。」
ドライアドも嬉しそうに笑う。
私も楽しみ。
きっと賑やかな旅になるだろうなぁ。
「後は女神様との約束を守らなきゃ。」
私がそう言うと、シルフが表情を少しだけ引き締めた。
「魔王を倒すのね?」
「そう。魔王は数年以内にまた絶対にやってくる。私がそれを止めないと。」
もう女神様とは話しちゃったし、これからはレイディアントと呼んであげたいんだけど、魔王の方が通りが良いので今はその名前で呼んでおく。
私の中では正体も事情も分かっているけど、この場で名前を変えてしまうと話がややこしくなりそうだ。
「その話に根拠はあるのですか?」
ウンディーネが尋ねてくる。
疑うというより、事実を確認したいという顔だった。
「根拠もあるよ。女神様のお墨付き。」
「なるほどね。それなら確実かぁ。」
女神様のお墨付き。
自分で言っておいて凄い根拠だと思う。
普通なら未来に魔王が現れるなんて話をしても、簡単には信じてもらえない。
だけど世界を作った女神様本人から聞いたと言えば、それ以上に確実な情報なんてないだろう。
疑問に感じていた二人にも納得してもらえたようだ。
その時、隣にいたドライアドが私の袖をくいくいっと引っ張った。




