四柱の精霊王⑧
「じゃあ次はウンディーネね。ウンディーネの場合は頭の王冠?」
私はウンディーネの頭に載っている小さな王冠へ視線を向けた。
ゲーム時代のウンディーネには見覚えがなかったものだ。
「はい。水の精霊王には王冠が頭に乗っていると古来より言われています。」
「へぇ~不思議。その王冠は外せるの?」
「いいえ、外せません。私の魔力の一部だと思ってください。」
なるほど。
頭に載せているように見えるけど、普通の装飾品とは全く違うらしい。
「それなら盗まれたりする心配が無くて安心だね。」
「あら。仮に盗めたとしても、どこまでも追いかけて捕まえるだけですよ。」
ウンディーネがにっこりと微笑む。……怖い。
発言だけでも怖いのに、笑顔なのが余計に怖い。
絶対に敵にしちゃいけない空気がウンディーネにはある。
「そ、その時は私も手伝うね。王冠に限らず何でも言って。」
「まぁ、ありがとうございます。ではその時は頼らせてもらいますね。」
その時が来ればね、と言わんばかりの迫力。
まずいよ。さっきからずっと気圧されている。
ここら辺で私の威厳を取り戻しておかないと、完全に主導権を持っていかれちゃう。
何とか話の流れを変える方法は無いかと考えると妙案が一つあった。
「水の精霊王さんは私の冷却魔法を見て、ハイサモナーになるのを賛成してくれたんだよ。ほら、こういう感じに。」
私は手のひらに魔力を集めると、周囲の空気を冷却してみせた。
冷たい空気が手のひらを中心に広がっていく。
するとウンディーネだけではなく、サラマンダーまで興味深そうに目を輝かせた。
さっき大量に魔力を吸われたけど、時間が経って回復した分もあるから、これくらいのことなら訳ない。
「あら、これは面白い魔法ですね。」
「こんな方法、考えたこともなかった。」
二人とも興味津々だ。
ふふん。ようやく少しだけ私の威厳を取り戻せた気がする。
「木箱にこれを入れてモンブランを精霊女王に渡したんだよ。」
「これは確かにお母さんも好きそう。」
「そのお母さんっていうのは水の精霊王?」
「ええ。理由についてはサラマンダーと変わりませんが、私もお母さんと呼ばせてもらってます。」
なるほど。ウンディーネにとって、今の水の精霊王がお母さんなんだ。
精霊ゆえに血縁関係は無いけど、こうやってお互いに良好なお付き合いができているなら素晴らしいことだ。
「水の精霊王は私と契約することについては反対とか無かったの?」
「反対なんてさせません。」
私の質問をウンディーネはピシャリと切った。
笑顔は崩れていない。
でも何故だろう。さっきより圧が増したような気がする。
「私は私のしたいことをやるだけです。」
……あれ、せっかく変えた流れが元に戻っている気がする。
やっぱりウンディーネのことはウンディーネさんって呼ばなきゃいけないのかなぁ。
「ウンディーネは相変わらずだねー。アイラに怖がられても知らないよ。」
ドライアドが助け船を出すように、いつもの調子で口を挟んだ。
「えぇ!? 私って怖いですか?」
さっきまでの迫力はどこへ行ったのか、ウンディーネが心配そうに私を見る。
意外な一面だけど、そんな顔で聞いてくるのが可愛い。
シルフが私の知らないところで何を話したのかは知らない。
でも私がウンディーネのことをまだあまり深く知らないのに対して、ウンディーネは私へかなりの好意を持ってくれているのが分かる。
「大丈夫だよ。」
怖くないことはないけど、最初から私への害意は全く感じられない。
ちょっと迫力があるけど、これから一緒に過ごしていけば、お互いのことも少しずつ理解していける。
きっとウンディーネとも仲良くしていけるだろう。
そんな私たちのやり取りを見ていたシルフが、ふと思い出したように「そうだ」と口を開いた。
「精霊女王様のところを去る時、火の精霊王と水の精霊王がオロオロそわそわしてたでしょ? あれはこの二人がアイラと契約しちゃうんじゃないかって心配してたからよ。結局契約されてるわけだけど。」
「あぁ、あれってそういうことだったんだ。」
帰り際の二人の様子を思い出す。
確かに火の精霊王はオロオロしていたし、水の精霊王も何だかそわそわしていた。
あの時は何を気にしているのか分からなかったけど、今になってようやく理由が分かった。
火の精霊王も水の精霊王も、娘が大好きなのかな。
風と土の精霊王もシルフとドライアドを大切そうにしてるみたいだし、血縁がない分、同じ精霊王に対する思い入れが強いのかもしれない。
「二人のことを少しだけ知れたよ。教えてくれてありがとう。」
「ううん、どういたしまして。」
「興味を持ってもらえたみたいで嬉しいです。」
サラマンダーとウンディーネがそれぞれ笑顔で答えてくれる。
聞けば聞くほど興味深い話ばかりで、まだまだ質問したいことは山ほどある。
だけど今日は色々なことがありすぎた。
女神様に会って、ハイサモナーになって、シルフとドライアドが成長して、さらにサラマンダーとウンディーネとも契約した。
気付けば随分と遅い時間になっている。
そろそろ眠って明日に備えた方が良いだろう。
「今日のところはそろそろ遅くなってきたし、私からの質問は次で最後。どうして私と契約してくれたの?」
「それはさっき話さなかったっけ?」
サラマンダーとウンディーネは不思議そうな顔をしている。
「シルフの話で私に興味を持ったことも、アールヴヘイムの外に出たいことも聞いたよ。だけど、どうしてそう思ったのかは聞けてなかったから。」
私が知りたいのは、もう少し根本的な部分だ。
シルフの話を聞いた精霊は他にも大勢いたらしい。
その中でこの二人が、何故わざわざ他の精霊たちを押しのけてまで私との契約を望むに至ったのか。
「そういうことでしたら私から説明します。」
「うん、お願いします。」
ウンディーネが姿勢を正して私を見る。
「まずはアイラがシルフが話す人物像通りなら、私たちが生きていて思考をすることを尊重してくれると思ったからですね。」
「そんなの当たり前のことなんじゃないの?」
生きていて、自分で考えて、笑ったり怒ったりする。
シルフやドライアドとずっと一緒にいた私からすれば、あまりにも当たり前の話だった。
するとウンディーネが少しだけ困ったような表情を浮かべる。
「アイラさん、サモナーになった人物が精霊と心を通わせたまま寿命を迎える確率ってどれくらいか知っていますか?」
「ごめん、知らない。」
逆に幸せなまま終わらない可能性があるの?




