四柱の精霊王④
「確かに女王様は、誰が来るとは話してなかったわね。」
シルフが思い返すように言った。
「でしょ? だから私のせいじゃないよ。」
良かった。これで私の名誉は守られた。
それにしても、改めて二人の姿を見てみると普通の精霊とは少し違う部分がある。
サラマンダーを象徴する綺麗な尻尾には、金色のラインが二筋入っていた。
ウンディーネの頭にも、ゲーム時代では見られなかった小さな王冠が載っている。
これが次代の精霊王である証なのかな。
「それで二人は何の用で私に会いに来たの?」
精霊王が新たに二人。
しかもティターニアへ頼んでまで私に会いに来たのだから、何の話があるのか確認しておく必要がありそうだ。
サラマンダーとウンディーネが互いに顔を見合わせた。
そして先に口を開いたのはサラマンダーだった。
「私と契約を結んでほしいなって。」
「よろしければ私ともお願いします。」
「……えっ?」
二人から出てきたのは、あまりにも意外な一言だった。
私と契約を結んでほしいって?
今まで会ったことすらなかったと思うけど初対面の私にお願いするにしてはあまりに重い話。
何故そう思ったのかが気になってしまう。
「ええっ、どうして急に。私たち初対面だよね?」
「きっかけはシルフのお話からでした。毎晩帰ってきたシルフが貴女の自慢をするものだから、私たちも興味を持ちまして。」
ウンディーネが微笑みながら説明してくれる。
「後は単純にアールヴヘイムの外に行ってみたい気持ちもあるんだ。アイラとなら楽しく冒険できそうだと思ったから。」
サラマンダーも尻尾を揺らしながら続けた。
なるほど外の世界への興味もあるのか。
それは分かったんだけどさっきの話で新しい疑問が生まれている。
「シルフは一体何を話したの。」
私はシルフへ顔を向ける。
何を話したらこの二人がそんなに興味が湧いたのか気になった。
まさか余計なことまで話してないと良いけれど。
「あたし? アイラと冒険の魅力をたっぷり教えてあげただけよ。皆、目を輝かせて聞いてきたわ。」
シルフは何故か誇らしげだ。
へー、そうなんだ……とはならない。
今の説明にはさらに聞き逃せない部分がある。
「皆って、他の子にも話したの?」
「シルフは大勢の前で毎晩喋ってた。それを聞いた皆がアイラと契約したがってたよ。」
ドライアドがあっさりと教えてくれた。
「……大勢?」
「うん。」
ドライアドが言うのだから事実なんだろう。
どうやら私は知らないところで、知らない精霊たちから人気になっていたらしい。
知らないところで一体どんな宣伝活動が行われていたの。
「それで次は誰がアイラと契約するのかって話になったから、私が他のサラマンダーを蹴散らして代表に選ばれたってわけ。」
サラマンダーが胸を張る。
「蹴散らしたって。」
一体何をしたんだろう。
いや、気になるけどここは聞かないでおこう。
精霊同士の問題に首を突っ込むのは良くない。
知らなくて良いことも世の中にはある。
「私は皆とお話ししただけですよ。じっくりと一対一でたくさんお話ししたら、皆分かってくれました。」
「お話ししただけ……。」
ウンディーネは穏やかな笑顔を浮かべている。
落ち着いた口調。柔らかな雰囲気。
言葉だけを聞けば、こちらの方がずっと平和的に決めたように聞こえた。
でもウンディーネから感じている圧が、全く話し合いの空気には思えない。
こっちは絶対に詳しく聞いてはいけないと本能が訴えている。
この場で怒らせた時に一番怖そうな精霊はウンディーネに決定した。
「どう? こういうのもなんだけど、私たち結構役に立つよ。」
「アイラの冒険のお手伝いができると思います。」
二人から改めて契約を申し込まれる。
確かにサラマンダーの火力や感知能力は魅力的だ。
ウンディーネの防御バフやタンク能力も非常に魅力的。
今の私はハイサモナーになったばかりなので冒険に連れていけるのはずっと先になるけど、二人がそれで良いなら、こちらとしては契約を断る理由がない。
ただその前に確認しておきたい。
「私はハイサモナーになったばかりでエレメンタルマスターになるのは未来の話。本当にそんな私で良いんだね?」
「うん、アイラが良い。」
サラマンダーは迷うことなく即答した。
「私もアイラじゃないなら、また数百年待つだけですわ。」
ウンディーネも静かに微笑んでいる。
数百年といかにも精霊らしい時間感覚が突然飛び出してきた。
私からすれば気が遠くなるような年月なのに、この子たちにとっては私との契約がそれに匹敵する価値があるのだろう。
そこまで言ってくれるなら、私から返す答えは一つしかない。
「分かった。契約しよう。サラマンダー、ウンディーネ。」
二人の表情が明るくなる。
まだ今日会ったばかりで本当の信頼を築けているとは思っていないけど。
きっかけはシルフから聞いた話だったとしても、最後に私を選んでくれたのは事実だ。
だったら、せめてその選択を後悔しないものにしたい。
……それにしても契約した精霊王が増えるのなんて今さらだ。
二人が四人に増えるだけで何もおかしくない。
大袈裟に捉える必要なんてない。
頭を空っぽにして、目の前で起こったことを受け入れた。




