四柱の精霊王②
「それでは部屋はこちらになります。ハイサモナーになったばかりですし、十分にお休みください。」
姉ドライアドが扉を開けてくれる。
中を覗けば、前回泊まった時と変わらない部屋が広がっていた。
そして部屋の奥には、待ち望んでいたシルクの敷かれた大きなベッド。
「ありがとうございます。お世話になりました。」
「お姉ちゃん、ばいばーい。」
「はい。またね。」
ドライアドたちは互いに手を振り合う。
姉ドライアドは妹へ名残惜しそうな笑顔を向けてから、静かに立ち去った。
これで部屋に残ったのは私とシルフとドライアドだけ。
ようやく一息つけそうだ。
「本っ当に疲れた~。」
靴を脱ぐと、そのままベッドへ向かって倒れ込む。
ぽふん。顔と体が柔らかなベッドへ沈み込んだ。
あぁ~これだよ、これ。
柔らかくて気持ちいい。
今日はあまりにも色々なことがありすぎた。
ハイサモナーになるために来ただけなのに、女神様に会って、転生者だとバレて、星まで吹き飛ばすことになるなんて誰が想像できただろう。
今はもう何も考えたくない。
優しいオフトゥンに全身を包まれて、ただひたすら癒しを受けていたい。
「それにしてもアイラはペラペラ話しすぎ。もう少し駆け引きを覚えなさい!」
「ん~?」
シルフの声が上から聞こえてきた。
顔を横へ向けると、シルフが枕元を飛びながら私の顔を覗き込んでいる。
長い紫色の髪がさらりと垂れ、虹色の羽がパタパタと動いていた。
こんな美女が私のために可愛く怒っている。
大変眼福な光景ではあるんだけど、これがシルフだと思うと少し複雑な感情が混じる。
ちょっと前まで小さくて可愛かったのに。
今では完全に美人のお姉さんだ。
「綺麗になりすぎだよ、シルフ。私より大人っぽくなっちゃってずるい。」
「は、はぁ!? あたしは前から綺麗だけど?」
パタパタパタパタ。
虹色の羽がさっきよりも激しく揺れ始めた。
あぁ、分かりやすい。
体が大きくなった分、羽まで大きくなったから嬉しい感情が前より目立つね。
本人はこれで気付いてないんだから凄い。
綺麗になったのに、可愛さまでしっかり兼ね備えている。
これは最強で無敵の風の精霊王だね。
「アイラは反省した方が良いと思う。」
「むにゅ。」
今度はドライアドがベッドへ乗ってきた。
私の顔を両手で掴むと、ぷくーっと頬を膨らませる。
ほんのり赤く染まった頬に眠たげな瞳。
大人の女性へ成長したのに、怒り方は以前とほとんど変わっていない。
美しい中にも幼さを残すあどけない顔立ちに、豊満で健康的な体。
豊穣の大地はここにあった。
「……大きくなったねぇ。」
「アイラ?」
「あんなに小さくて可愛かったドライアドが、こんなに成長して……。」
最初に会った時の姿を思い出す。
小さな体で私にくっついて、頭の双葉を揺らしていたドライアド。
それが今では私より背が高くなり、顔立ちも体つきもすっかり大人になってしまった。
ここまで来るともはや母親の気持ちに近い。
もしかするとドライアドは私が産んだ子だったのかもしれない。
そう考えると、この謎の感動にも説明がつく。
「アーイーラー?」
「はい。」
両頬をむにっと挟まれたまま名前を呼ばれる。
怒ってるのは分かるんだけど、ただ可愛さが限界突破しているだけだ。
こんな姿で頬を膨らませながら怒られても、全然怖くない。むしろ癒される。
まさか精霊魔法も使ってないのに、こんなに私を回復させてくれるなんて。
うちの子は天才だ。
「反省しない子はこうよ!」
「こちょこちょ。」
「えっ、ちょっ――。」
シルフとドライアドが同時に飛び掛かってきた。
二人がかりで私を羽交い絞めにすると、そのまま容赦なくくすぐり攻撃を始める。
脇を、横腹を、足の裏を、しなやかな手が次々と私の弱いところを狙ってくる。
「ひゃっ! あははははっ、やめて二人とも~!」
逃げようと体を捩っても、今の二人は私よりずっと体格が良い。
左右から押さえ込まれてしまえば簡単には抜け出せなかった。
しかもドライアドは普通に手でくすぐるだけじゃない。
足元から木の根を生やすと、それらを数本の手のように動かして私の体をくすぐり始めた。
「ちょ、ドライアド反則! あははははっ!」
「反省するまでダメ~。」
「ほら、ちゃんと謝りなさい!」
無理無理無理!
何とか身を捩って逃げようとするけど、逃げた先まで手と木の根が追いかけてくる。
脇を守れば横腹。横腹から逃げれば足の裏。
どこへ逃げてもくすぐられる!
「あはは! 負け、私の負け! ごめんなさい、許して~~~~!」
ついに心が折れた。
笑いすぎてお腹まで痛くなってきた私は、とうとう二人へ許しを乞う。
ここまで強力で残虐な行為をされては敗北するほかなかった。
何という恐ろしい精霊魔法だろう。
いや、シルフに至っては魔法すら使ってないけど。
「アイラ、反省した?」
「悪かったと思ってる?」
「はい、すみませんでした……。」
ようやく解放された私は、涙目になりながらベッドの上で正座する。
その正面からシルフとドライアドが顔を近づけてきた。近い近い近い。
もう十分伝わりましたから許してください。
少なくとも次からは、もうちょっと上手に誤魔化せるよう努力します。




