女神様はお見通し⑯
「おめでとう、アイラ。我々は新たなハイサモナーの誕生を祝おう。」
ティターニアの言葉を合図に、周囲から拍手が響き始める。
精霊王たちだけではなく姉ドライアドも笑顔で手を叩いてくれていた。
サラマンダーだけは少々不満そうというか、しぶしぶといった様子だけど。
まあ、拍手してくれているだけ十分だよね。
無理に仲良くする必要はないって、さっき決めたばかりだし。
「精霊女王様、ありがとうございます。これからもシルフやドライアドと一緒に頑張ります。」
「あぁ。精進するがよい。」
こうして改めて祝福されると実感が湧いてくる。
私は本当にハイサモナーになったんだ。
「任せなさい。頼りになるわよ、あたし。」
「ずーっと一緒だよ。怪我したら私が治してあげる。」
「ありがとう~。」
姿は大きく変わってしまったけど、二人とも中身はいつものシルフとドライアドだ。
そのことが何だか嬉しくて頬が緩む。
シルフとドライアドも成体になったことで、これからたくさんの精霊魔法を覚えていくだろう。
何より私たちのレベル上限は無事に二百まで上昇した。
ここから限界まで強さを極めれば、公式設定上のティターニアにも匹敵するところまで成長できる。
勿論、単純に互角の強さを手に入れられるという話ではない。
ティターニアには『妖精剣エクスカリバー』があるし、私の知らない特殊能力だって持っている。
そもそもの種族差だってある。
レベルだけで全ての強さが決まるわけじゃないから、実際に戦えばどうなるかなんて分からない。
……というか戦いたくないです。
精霊女王と戦わなきゃいけない未来なんて絶対に御免だからね。
今はただ、私たちがもっと強くなれるようになったことを素直に喜ぼう。
私は二人へ手を伸ばしかけて、少し困った。
今までなら頭を撫でてあげていたんだけど、二人とも私より背が高くなってしまって何だか悔しい。
仕方がないので、そのまま二人の背中へ腕を回した。
「おりゃー。」
ぎゅーっと抱き締める。
するとお返しとばかりに二人の腕も私の背中へ回された。
「もう、アイラったら。」
「ぎゅー。」
さっきまでは私が二人を抱き締めていたはずなのに、今では完全に私が包まれている。
……やっぱり何か負けた気がする。
でも精霊肌が温かいから良しとしよう。
「はいはい。それじゃあ今回のお茶会はこれでおしまい。皆、気を付けて帰るのよ。」
パンパンとガイアが手を鳴らす。
どうやら色々とあり過ぎた本日のお茶会は、これでお開きらしい。
女神様に異世界からの転生者だと見抜かれて、レイディアントの話をして、GM権限まで披露した。
挙げ句の果てには星まで吹き飛ばした。
冷静になって振り返ると、とんでもない一日だった気がする。
「勿体なきお言葉。」
精霊たちを代表するようにティターニアが頭を下げる。
その姿はいつもの威厳に満ちた精霊女王そのものだ。
だけど女神様とは久しぶりに会えて嬉しかったんだよね?
他の皆からは見えないようにしてるみたいだけど、私の位置からだと口元が少し笑ってるの見えてるよ。
三万年ぶりに声を掛けてもらったって話だったし、ティターニアにとってガイアは自分を生み出してくれた存在でもある。
嬉しいのは当然なのかもしれない。
何だか見てはいけないものを見てしまった気がするので、気付かなかったことにしておこう。
「失礼いたします。」
シルフが一歩前へ出る。
そしてスカートの裾を摘まむようにして、シャランと優雅にカーテシーした。
「……。」
誰ですか、この美人さん。
体だけじゃなくて所作まで美しくなっちゃってる。
元々気の強そうな顔立ちだったこともあって、今の姿でこんな仕草をされると格好良さまで感じる。
女性から物凄く人気が出そう。
「女神様、ばいばーい。」
その隣ではドライアドが満面の笑顔で大きく手を振っている。
こっちは何も変わってないね!
見た目だけなら包容力溢れる絶世の美女なのに、言動は今まで通り。
花が咲いたような笑顔で手を振っている姿とのアンバランスさが凄い。
これは絶対に男性受けが良いだろう。
……二人を街へ連れて行くの、ちょっと心配になってきた。
「それではお邪魔しました。お約束を守れるように頑張ります。」
私も最後にガイアへ挨拶する。
まずは約束通りレイディアントを倒すことが最優先事項。
それから、大切な人たちと世界のどちらかを選ばなければならないような状況になっても、一人だけで答えを出そうとしないように。
ちゃんと忘れてませんよと含みを入れておいた。
こういう小さな活動が後々になって生きてくると社会人時代に学んだ。
女神様からの好感度は、いくら高くても困ることはないからね。
「期待しているわ。また会いましょう、アイラ。」
ガイアが微笑みながら手を振った。
「……。」
うわぁ。さっきまでは緊張しっぱなしだったから気付けなかったけど、女神様が私の名前を呼んで手を振ってるよ。
前世では画面の向こう側で一番偉い人。
何度もイベントに出現しては超常の力で問題を解決していた女神が、今は私を見ている。
それがあまりにも現実的ではない光景だと、やっと気付けるほどには脳が落ち着いてきたらしい。
……本当に、とんでもない世界に転生したものだ。
最後に全員でガイアへ一礼する。
それを見届けたティターニアが片手を持ち上げた。
パチンと指を鳴らす乾いた音が響いた瞬間、目の前の景色が一気に切り替わる。
空に浮かぶ大地も、海も、星も、虹も消えていった。
次に視界へ飛び込んできたのは、見覚えのある世界樹の宮殿。
巨大なアストラルオーブが静かに輝き、その前には先ほどまで空席だった玉座がある。
私たちは女神の箱庭を離れ、世界樹にあるティターニアの玉座へと戻ってきていた。




