女神様はお見通し⑮
「……。」
誰? いや、本当は誰か分かってる。
分かるんだけど認めたくない。
左手を握っている女性は、足首まで届くほど伸びた美しい紫色の髪。
細身でしなやかな体を白く透けたドレスが包み、スカートにはかなりきわどい位置までスリットが入っている。
長い手足に整った顔立ち。全身どこを見ても美しいけど、特に目を引くのは背中から伸びた虹色の羽だ。
光の加減で七色に輝くその羽は、もはや芸術品と呼んでもいいくらい美しい。
そして右手を握っている女性。こちらは足首まで届く緑色の髪に、柔らかな曲線を描く豊満な体。
白く透けたミニ丈のキャミソールワンピースを纏っていて、眠たげな瞳とほんのり紅潮した頬からは不思議な包容力を感じる。
何より特徴的なのは頭。そこには見間違えようもない、大きな双葉が生えていた。
どちらの美女にも見覚えがある。
というより、姿が変わっていても分かってしまう。
胸の奥にある契約の繋がり。
さっきまでよりも遥かに鮮明になったその感覚が、目の前の二人が誰なのかを教えてくれていた。
認めたくない。非常に認めたくないのですが。
目の前にいる絶世の美女たちは、間違いなくシルフとドライアドだった。
「ど、どうしてこんなに急成長を……。」
理由なんて聞かなくても分かってるけど問わずにはいられなかった。
だって二人とも私より遥かに大人っぽい!
それどころか背まで私より高い!
自分で言うのも何だけど、アイラの姿はとても可愛らしい美少女であると自負している。
白銀の髪に赤い瞳。ちょっと垂れた目も愛嬌があるし、小柄なのも含めて前世の私が見たら庇護欲を駆り立てられていたことだろう。
だけど目の前の二人は方向性が全然違う。
可愛いじゃなくて、美しい。
街中を歩けば、道行く人全員が一度は振り返ってしまうんじゃないかと思えるほどの美貌だった。
何ですか、この成長格差は。
「どうしてって、アイラがハイサモナーになったからじゃない。」
シルフは何を当たり前のことを聞いているのと言いたげに首を傾げる。
長い紫髪がさらりと肩から流れた。
仕草まで大人っぽくなってる!
「アイラも可愛くなってる。」
「えっ?」
ドライアドに言われて、今度は自分の姿を見下ろした。
「何これ。服がさっきまでと違う。」
いつの間に?
知識を流し込まれている間は目を閉じていたから全く気付かなかった。
私が着ていたサモナーの服は、精霊の素材で作られたものだ。
魔力を通せば淡く輝き、傷が付いても魔力を流すことで自己修復する不思議な服。
その服自体が、私の転職に合わせて姿を変えていた。
「それがハイサモナーの証だ。」
ティターニアが説明してくれる。
「基本はサモナーのものと大差ないが、全体的により魔力の高い装飾が付いている。」
「へぇ~。」
両手を広げながら自分の服を確認する。
確かに元々のサモナー服を豪華にしたような形だ。
白を基調とした布地に赤いラインが増え、スカート部分も以前より華やかなドレスへ変化している。
腰回りや胸元には装飾も増えていて、ところどころには精霊石のような小さな石まで散りばめられていた。
試しに意識を向けてみる。
……分かる。
一つ一つから微弱ながら魔力を感じる。
ただの宝石じゃない。
全部ちゃんと意味のある魔法装飾なんだ。
可愛いだけじゃなく性能まで上がってる。
さすが三次職!
「それに私とお揃いなのよ。」
シルフが嬉しそうに私の後ろを指差した。
「アイラの頭にお花が乗ってるの。」
ドライアドも私の頭上を見ながら嬉しそうに笑う。
「えっ、どういうこと?」
そんなもの自分じゃ見えないんだけど。
まず背中へ手を伸ばしてみる。
「わっ。」
指先に何かが触れた。
薄くて柔らかい。
だけど布とは全然違う感触。
慎重に撫でてみると、それが羽であることが分かった。
私、羽が生えてる!?
少し意識を向けると羽がふわっと動いた。
凄い。服から生えているのに完全に私の意志で動かせるみたい。
形はシルフの虹色の羽とよく似ている。
ただし色合いは違った。
シルフほど鮮やかな虹色ではなく、全体としては私の精霊石と同じ銀色に近い。
その表面にほんの僅かだけ虹色が浮かんでいる。
光を受ける角度によって七色が薄く見える程度。
派手すぎなくて凄く綺麗だ。
続いて頭へ手を伸ばすと指先に柔らかな花びらが触れた。
「本当に花冠がある……。」
そっと形を確かめてみる。
白と赤の花で作られた小さな花冠で赤い花には見覚えがある。
ドライアドが嬉しい時に頭へ咲かせる、あの花と同じものだ。
「これ、ドライアドのお花?」
「うん。お揃い。」
ドライアドが嬉しそうに笑った。
その瞬間、頭の双葉の横からぽんっと赤い花が咲く。
やっぱり同じだ。
「ふふ。」
背中にはシルフとお揃いの羽。頭にはドライアドとお揃いの花。
二人との繋がりが、そのまま私の姿に現れたみたいだ。
花冠をもう一度そっと触ってみる。
見た目も感触も完全な生花なのに、不思議と普通の植物とは違う。
花びらの一枚一枚から魔力を感じる。
少しくらい触っても傷む様子はない。
これなら冒険中に走ったり戦ったりしても散らなそうだ。
「……。」
改めて自分の姿を見ると豪華になった服に銀色に淡い虹色を宿した羽。
白と赤の花冠がハイサモナーになったことを意識させる。
そして隣には、いつの間にか私よりずっと大人っぽくなってしまった二人の精霊。
「何か……私だけ置いていかれてない?」
「何がよ?」
「アイラ可愛いよ?」
二人は揃って首を傾げた。
違う。そうじゃないんだよ。
私は二人の頭から足元までをもう一度眺める。
そして自分の小さな体を見下ろした。
……何だろう。ハイサモナーになれたことは凄く嬉しいはずなのに。
大きな勝負に敗北した時と同じ気持ちが芽生えてきた。




