女神様はお見通し⑭
精霊との交感を行う術が分かる。
サモナーの時よりも深く、より鮮明なイメージが脳に焼き付いていく。
これまでは感覚的に理解していた精霊との繋がりも、今ならもっと深いところまで手を伸ばせる気がした。
シルフやドライアドと結ばれている契約がより強固なものへと変わっていく。
不思議な感覚だ。
今までだって二人が近くにいなくても胸のどこかで存在を感じることはできた。
だけど今は、それよりもずっと鮮明に感じられる。
二人の姿形まで目を閉じていても分かるくらいだ。
「頑張って。」
「痛いの痛いの飛んでいけー。」
両手を握るシルフとドライアドの応援に胸が温かくなる。
大丈夫。痛くないよ。
そう教えてあげたいけど、口は少しも動かせなかった。
指一本すら動かせない。
今の私にできるのは、ただ流れ込んでくる知識を受け入れることだけだ。
「大丈夫よ。痛みは感じてなさそうだわ。」
さすが女神様。ナイスフォローです。
これでドライアドの心配が和らいでくれたら嬉しいね。
「良かった。」
ぎゅっと握られていた右手の力が少しだけ和らいだ。
聞き分けが良くて良い子だね。
私が本当に痛がってると思って心配してくれてたんだ。
あとでいっぱい撫でてあげよう。
そんなことを考えていると、少しだけ気が紛れた。
怪我をした時に別のことを考えると、痛みが和らぐあんな感じ。
普通はこういう状況だとネガティブな思考になりやすいらしいんだけど、今は両手と胸がとても温かいもんね。
「もう少しだ。我慢できるか?」
そう言われても反応できないんですってば。
返事をしたくても口が動かない。
せめて指くらい動けば大丈夫だと伝えられるのに、それすら無理だった。
でも、一人でサモナーの洗礼を受けた時と比べればずっと楽だ。
あの時は何が起きているのかも分からないまま、突然大量の知識を流し込まれた。
だけど今は違う。
右手にはドライアド。左手にはシルフ。
二人の応援もあって、何とか最後まで耐えられそうだ。
「それにしてもティターニア。」
「はい。何でしょうか、女神様。」
ガイアが突然ティターニアへ話しかけた。
今、このタイミングで?
こっちは絶賛ハイサモナー転職中なんですけど。
まあ、私が動けないだけで二人が話す分には問題ないのかな。
「どうしてそんな喋り方をしているの? 生まれたばかりの頃はもっと可愛らしかったじゃない。」
「め、女神様、それは! ……あっ。」
ん? 今、ティターニアが変な声を――。
その瞬間。頭の中へ流れ込んでいた情報が一気に加速した。
えっ。ちょっと待って速い速い速い!
さっきまででも十分に早かった。
一つ一つの情報を理解する暇もなく、次々と頭の中へ叩き込まれていたはずなのに。
今はその比じゃない。
さっきまでがジェットコースターの上りなら、今は一気に下りへ突入したようなもの。
大量の情報が目で追うことすらできない速度で流れていく。
あばばばばばばばば。
無理無理無理!
脳みそがシェイクされてるみたい!
あ、もうダメ。意識が、飛ぶ。
「アイラ、ダメ!」
薄れていく意識の中でドライアドの声が聞こえた。
次の瞬間。ぱぁぁっと瞼の向こう側まで届くような優しい光が広がる。
右手から温かな何かが流れ込んできた。
沈みかけていた意識が急速に引き上げられる。
ぼやけていた思考が元に戻っていく。
多分、回復系の精霊魔法だ。
それも今まで見たものとは比べものにならないくらい強い力で私にかかっている。
凄い。さっきまで意識が飛びかけていたのに、もう頭がはっきりしてきた。
ドライアドが成長したから魔法も強くなってるんだ。
凄く嬉しいんだけど無理はしないでね、ドライアド!
今はそれを伝えることすらできない私は、右手を包んでくれている小さな手の温もりを感じながら、再び押し寄せてくる知識の奔流に耐え続けた。
「ぷはぁっ! ちょっと精霊女王、意識が飛びかけたんですけど!!」
ようやく体の自由が戻った瞬間、大きく息を吸い込む。
危なかった。あと少しドライアドの魔法が遅かったら、今頃また意識を失っていたと思う。
「す、すまない。動揺してつい。」
ついじゃないですよ!
危うくこっちはまた姉ドライアドにお世話になるところだったんですよ!
……思ってても口にはしないけど。
さすがに精霊女王へそこまで強く言える度胸は私にはない。
「女王様、ダメだよ~。」
「アイラにちゃんと謝ってください。」
「うむ……。本当にすまなかった。」
ティターニアが気まずそうに謝ってくる。
珍しいものを見た気がする。
三万年以上生きている精霊女王を叱る二人なんて、そうそう見られるものじゃないだろう。
だけどそんな些細なことよりも私の関心は別の物に向いていた。
「シルフぅ……ドライア、ド……?」
そこには、さっきまでいなかった絶世の美女が二人、私の手を握っていた。




